ヒヨコ爆裂誕生!
冬が近づき、もうすぐ山の月にさしかかる頃のある日。妙な音で目が覚めた。
コッコッ……コッ
家の横の地下水路は下水も兼ねているが魚が泳ぐほどきれいである。たまにそれ目当ての小動物が来るが圧倒的な警戒心により、夕飯なる事は一度もなかった。
(この音は近い!)
万が一も考えながら範囲索敵をするが周囲に敵性生物はいない。
よく耳を澄ますとどうやら俺の荷物から音がする。
「これは……!」
思わず声が出た。そうたまごにひびが入ってるのである。
小学校の頃飼育係で鶏の孵化を孵化器で見守ったことがあるが、これが意外と長い。下手すりゃ1日かかる。
下手に動かしては危ないので、今日の仕事はエリーに頼み、休むことにした。見守りたいのである。もともと働く年齢ではない。との理由のおかげであっさり許可された。
金のたまごは生まないだろうが、金に変わる魔法の雌鶏である。
毎日魔力を注いでいたので、聖獣とやらにも期待していたが、音とちらっと見えるものは確実に鳥のそれである。人生うまくいかないものである。
その日の夕方、やっとたまごから顔を出した。
黄色と思ったそのひよこは茶色のまだら模様。しかもたまごの殻をばりばり食ってる。
(異世界だからってなんでもありだと思ってんじゃねーぞ)
たまごの殻を半分ほど食べて満足したのか、そのひよこは眠り始めた。
名前を付けようか悩んだがたまご生産機として売り払うのである。情が移ってはいけないし、このひよこはペットではなく家畜である。俺に名前を付ける権利なんてないのだ。
一晩寝て起きると、残っていたたまごの殻も全部なくなり、こちらを見ながら鳴いている。
「ピィーヨ。ピィーヨ」
これがひよこの何を求めてる鳴き声なのかは知らないが、餌が欲しいような気がしたので地下水路でタニシ的なものをいくつかとって殻を割って与える。
「すさまじい食べっぷりだな」
タニシでいいなら餌代はかからないが、早いところ売ってしまおうと思った。
実際可愛いのだ。成長するまで待っていたら確実に情が移る。行動は静かに迅速に…だ。
もう1日休みをもらうと、たまごホルダーにひよこを突っ込み肉屋に向かう。
(ひよこを肉屋に売るなんて俺も外道であったか…)
「こんにちはー」
「おう、ボーズどうした?」
「ひよこが生まれました!買い取ってもらえますか?」
「別にかまわないが大きくなってからの方が高いぞ?」
「自分で育てると売りたくなくなってしまうかもしれないので……」
「おぉそうか!ちょっと見せてみろ……ん?」
(あれ?なんか雰囲気がおかしいぞ)
「ボーズこれは買取できないな」
「え?なんでですか?」
「ダンジョンたまごから生まれた雌鶏なら買い取るつもりだったんだが、これはダンジョンたまごから生まれたひよこじゃなぁ」
「買ったたまごはハズレだったのか…」
「う~ん、実はボーズが買って行ったのはダンジョンたまごだったんだ。普通のたまごと見分けられる奴はほとんどいないし、あのたまご誰かに見せたか?」
ダンジョンたまごなのは知っていた。
「宣伝するために露店で結構……でもなんでこのヒヨコが、あのたまごから生まれたんじゃないとわかるんですか?」
不満をぶつけないようにエンジェルはてなスキルを発動し聞いてみる。
場合によってはゴレアンさんに言いつけてしまおう。
「……いやーだってな、こいつ♂だし……色もひよこにしちゃ、ちょっとおかしいな。誰かにすり替えられたのか?」
「えぇぇぇぇぇ」
まさかのひよこは♂だった。
「ダンジョンたまごからも一応雄鶏は生まれるには生まれるのだが極低確率だな。噂程度でしか聞いたことがない。しかも聖獣はやたら飯を食ってすぐ成長するからな……それ以外はあんまり人気ないな。肉として買ってもいいが成長してからだな」
シーフの才能を持ってる俺が、間抜けにもすり替えられたとは考えられない。
俺のたまごをダンジョンたまごと見破って、シーフの才能を超える腕を持ってニワトリのたまごと替えるくらいなら、バーツさんの所でダンジョンたまごを見つけて買う方がお手軽である。
「お肉で売る場合っておいくらくらいで……?」
「サービスしても1キロ50エギラムくらいだな」
(ニワトリって成長しても5キロもいかなかったはず……)
「ひよこが大きくなると、どのくらい大きくなるんですか?」
「ん~まぁ大きくても3キロくらいじゃないか?」
(つんだ……いや……まてよ……こいつは普通のひよこじゃないんだ!)
「ダンジョンたまごから生まれたひよこもですか?」
「大きさは同じだな」
(そういや雌鶏はたまご目当てだった……当然大きさは同じだよな)
「わ、わかりました。成長しておいしくなった頃にまた来ます」
「お……おぅあんまり気を落とすなよ」
そう言ってひよこを返してくれた。
たまごホルダーにひよこを突っ込み家までとぼとぼ歩く。
つい癖で左手で魔力を流し込む。
ヒヨコは嬉しそうに魔力を体内に受け入れている。
エサはタニシでいいとはいえ、放し飼いにもできないし、盗難の恐れもある。
いざというときの食糧にもなるのだが・・・
(売れるわけじゃないし、育てるのも一苦労、売っても利益は薄い)
生活がギリギリなのに、お荷物を背負ってしまった気分だ。
「あれ?……ちょっと待てよ」
最後の期待を込めひよこを視る。
【ハクトワシ(聖獣)0歳 テイマー(リョウ)】
「……。…これは…キタぁぁぁぁぁぁ!!!!!」