さらばヒロイン?、君の事は忘れない!
運命の朝だ・・・。朝と言ってもまだ日の出前である。
昨日は疲れて寝てしまったが、ふと昨日のお土産を思い出して中を開けると
【リョウ君へ。これはフォブスリーン家の紋章入りの銀時計だ。学園に持ち込むことはできないが、フォブスリーン家に縁のあるものだと証明する物だ。屋敷に遊びに来るときなどに見せるといい、いつでも歓迎する。悪用はしないと信じているが盗難、紛失には気を付けてくれ。万が一の場合はすぐに連絡をしなさい。君の相棒の子供に期待している:ロンデル・ロミスカ・フォブスリーン】
中蓋式の懐中時計の表面に昨日見たフォブスリーン家の紋章がある。
中を開けるとふたの裏に
【我が息子アルベルトと私の友人に贈る:○年山の月90日:ロンデル・ロミスカ・フォブスリーン】
と彫ってある。半日も時間がなかったのによく間に合ったものだ。
よく見ると細かい傷もあり新品では無いようだ。普段の持ち物だったのだろうか?とりあえず持ち運べる時計は貴重なものだ、銀時計となればさらに高価で伯爵の紋章入りだ。値段なんかつけられない。
ポーチにナイフと共に大事にしまっておく。ここは安全なのだ。
今日の10時に学園の門でルーアと待ち合わせ、ゴメスに頼んでライターが門まで迎えに来てくれるので、そこでルーアを任せ俺はそのまま学園にランナウェイ。
なぜ逃げるって?学園の中は安全だからさ!!いつどこで公爵家やハンガー家に狙われるかわかったもんじゃない。決してノーリに顔を合わせたくないわけじゃない。
娼館で働いてた頃、期間明けのあねさんは朝方にさっと消える。
大丈夫。ゴレアンは妙な勘違いをしてるし、俺が娼館の見習いをやってた事も知っている。あのゴレアンなら何とかあしらってくれるだろう。
来年帰ってくるのが怖いが、小市民な俺はとりあえず逃げる。
怒ってる方がいろいろと話し合いや解決が容易なのだが、色恋が絡むとめんどくさくなる。ほとぼりが冷めて結婚したころに[どうしても会えない状況だったんだ!お前は俺を忘れて幸せになったんだな・・・。応援するよ]エンド。これが完璧だ。そうだ、そうしよう。
空の月1日は銀行が非常に混むので、置手紙とともにエリーに預ける。
銀行に並んでる暇などないのだ。
学園に唯一持ち込める聖獣の犬を連れ、家をひっそりと出る。
まだみんな寝ている。受け付けに[いってきます]と書置きを残すと家を出る。
3ヶ月(現代では9ヶ月)ほどたった犬はもう子犬と呼ばれるサイズではなくなった。もう目に見えるほど日に日に大きくなることはない。成長も緩やかになったと思う。犬と極力呼ばないようにしているが、いかんせんそろそろ名前を付けてやらねば不便である。[ルゥリ]はなんかむかつくので却下である。
とりあえず時間を潰す当てもお金もないので、ぶらぶらと学園に向かう。もちろん夢庵楼と冒険宿の直線コースは回避済みである。
ゆっくり歩いても7時頃には学園についてしまった。これでも意外と町は広く距離はあるのだが・・・。
暇になりながらヒヨコを呼び、久々に聖獣2匹をもふりんぐしながら遊ぶ。やたらでかいワシとかなりの大きさの犬とじゃれ合う11歳。朝の町中の出来事としてはなかなかシュールだ。見方によっては襲われてるようにも見えるんじゃないか?
学園からは人に連れられぽつぽつと人がでてくる。一人で出てきてどこかに向かう人もいれば複数で出てきて引率され、どこかに行く人もいる。
2時間ほどするとルーアが出てきて、犬を見つけると真っ先に駆けつけてくる。
「いつから待ってたの!!?」
「あ~、ついさっき来たところだよ」
「これから働く場所に行くんでしょ?」
「ここまで迎えが来るんだ。俺はこの後そのまま学園に入る」
「そっかー。じゃ迎えが来るまで遊んでていい!!?」
「ま、まぁいいけどさ・・・。それとルーアに言っておくことが2つある」
「ん?」
「1つはお前の借用書は雇い主に売った。俺が持ってるよりも力のある人に持っていてもらった方がいいと思ったからだ。学園から借用書を持ち出した以上持ち込めないしな。学園にいる間に盗難にでもあったらまずいし。でも安心していいよ。俺は苦手だが卑怯な人じゃない。俺も5~8歳まで働いてたしさ!」
「う、うん・・・ちょっと心配になってきた」
「あともう1つ卒業祝いに借金から銀貨100枚減らしておいた。あの後もちゃんと返済続けててしな。あのバカと違って犬に暴力振るったりはしてないしな・・・」
「っ!!ほんと!ありがとう!!」
「反省の態度が見れたって事さ。まー頑張れば2、3年でおわるんじゃね?」
「リョウが学園卒業するまでには終わらせるよ!!そしたら・・・その時もう一回告白してもいい?」
「ダメって言われて辞めるくらいなら、はなからやめとけ、それに俺は高等教育に行くかわからない」
「そう言ってどうせ行くんでしょ?なんとなくそのひねくれた性格わかってきたよ!」
「おーいリョウ!いたいた。お?これが予定のお嬢ちゃんかい?」
「あ、ライターさんお久しぶりです。この間店に顔だしたとき顔ださないですみません」
「いいよ、ボスに用事だったんだろ?お嬢ちゃん俺はライターだ。よろしくな・・・ルーナちゃんだっけ?」
「初めましてライターさん、ルーアです一生懸命頑張ります。よろしくお願いします。」
「それじゃ後は頼みます、俺は学園にこのまま入るので!」
「そうか・・・そういやノーリあねごが期間明けでさっき俺と一緒に出たけどるんるん気分だったな・・・帰る先でもできたのかねぇ・・・」
「・・・ダトイイデスネ・・・ではゴメスさんによろしく」
「あぁ・・・。それじゃ行こうかルーアちゃん」
「はい!・・・じゃあ・・・またね!リョウ君!」
「あぁ・・ルーアも頑張れよ」
そう言ってルーアはライターと城壁内の境に向かう。
借金持ちでも職場の強制は不可能だが、ルーアは借用書の裏にサインをしている。だからゴメスに借用書を売る際はハンガー家の時とは違い、借用書の権利をゴメスに売ったという証明書を書いた。この証明書がある限りゴメスのサインでの借用書の返済のサインが有効になる。
少し伸びをして身体をほぐすと、2年次の新生活に向け門をくぐった。




