初めての受講!
修正加筆済み 1月8日(月)
とうとう学園での講義が始まった。
教養と生活魔法は免除なので必須科目は歴史のみ。
山の月の上旬にあるテストで合格しなければ月末まで補習である。
教養と生活魔法も授業は免除だがテストはある。生活魔法に限っては2年次も授業免除なので卒業前にテストを受けるだけである。
歴史の講義は非常に退屈だった。この国を主観とした話ばかりで他の国の歴史は一切ない。建国以前の話も一切なく、王宮が編纂した歴史を学ぶので歴史の正確さもあやしいものである。
10万人の敵兵が攻めてきて1000人の兵で追い返したとか、神の神託によって攻め込んだのに結末は神が悲しんでるので勝てる戦いだったが撤退したとか、いろいろと無茶苦茶である。必須科目である以上落とすわけにもいかず授業には真面目に出る。
必須科目は受け持ちの講師が複数いて【第○○号歴史講義】をなっていて年の初めに好きな番号を早い者勝ちで選び、定員に達するとその講義は受け付け終了となる。
1年だけで1000人近いのだ、全員同時になんて受けられない。
俺とジンは【第10号歴史講義】に参加している。
魔力を用いた身体強化術は色々な学年が入り混じったポピュラーな無料講義で、一度合格すると進級してももう一度合格をもらうことはできない(参加は可能)
講義の受講開始はいつでも可能で、合格判定試験もいつでも可能である。
合格の基準は半径5mの円から出ないようにして魔力強化をしていない講師の攻撃に5分耐える事。もちろん避けても構わない。
これが達成できれば何時でも合格判定はもらえる。
最初の講義で体内魔力を感じる事、それを身体中にめぐらすようにイメージする事。他に聞きたいことがあったら先輩に聞け!それ以外は全員自習だった。無料だからって投げやりすぎるぞコンチクショー!
講師が言っていた身体中をめぐらすようにというのは赤ん坊の頃からやっていた俺の魔力トレーニングとほぼ同じである。
それなりに脚や反射神経、防御力には自信があった。生まれてこの方回復ポーションのお世話になったことはまだない。
試験の順番待ちに名前を書くと、ジンの隣で一緒に身体強化の練習をする。
試験を受けている人を見ると防御力で耐える人は投げ飛ばされ円から出てしまう。回避優先の人は追い詰められてKO。
受講生からの攻撃は一切禁止なので、耐えると逃げるしか使えない。
もっとも惜しい人はかなり逃げ回ったが、最後の最後に捕まって投げ飛ばされていた。
「次!…お?今年最初のルーキーか!」
「第0寮基礎教育1年。リョウです!よろしくお願いします」
「まぁ試験は何度でも受けられる。頑張るように!」
「はい」
「なお5分間円からでない事が条件だが、身体強化以外の方法で逃げたり耐えた場合、講師判断で不合格となる場合もなるので注意すること」
「はい!」
「では開始する……始め!」
さっきまでこの講師の動きは見ていた。左右のフェイントで円の端に寄せ両手を広げた状態で突っ込み張り手、蹴りなどの打撃から一気に掴み、円の外に放り出している。左右から逃げても真っ直ぐには追わず円の中心と生徒の間を目指して走るようにして進路をふさぐ。
この講師は円の外に生徒を投げ出すプロなのだ。
(掴まれたらアウトだ。回避を重視してどうしても避けられない打撃は魔力を寄せてガードするしかないな)
目をそらさないようにゆっくりと後退すると、講師も両手を広げながらじりじりと前進してくる。
間違っても円から出ないようにとちらちら確認しながら、円の端に着いたと同時に講師は突っ込んできた。
(想定通り!)
魔力を脚に集めると、ジャンプで飛び越え中心に着地する。一瞬見失った講師はすぐに振り返り突っ込んでくる。
背を向けないようにバックダッシュをしながらまた円の端まで来る。
講師は今度は1、5m位の距離で突っ込むフェイントをしたりする。
ビビって先に動くと回り込まれて捕まるのが目に見えてる
「残り2分です!」
講師の補佐役の生徒がそう告げたと同時に右の回し蹴りが飛んでくる。
下から上に向かって蹴り上げられた蹴りを左腕に寄せた魔力で防御しながら肘を上にあげ受け流す。
その蹴りの下の空間に転がるようにしてもぐりこみ、脱兎のごとく逃げ出す。
講師は自分から見て蹴りの反対の左に逃げると思っていた予想が外れ、一歩目で出遅れる。
その後、講師の股の下を抜くスライディングと時間に焦って突っ込んできた講師の頭上をジャンプで避け、5分間を逃げ切った。
「新入生に逃げ切られたのは何年振りだろうか……。いや1年目空の月で逃げ切られたのは私は初めてだよ!おめでとう合格だ!」
「ありがとうございます!」
「一つ聞きたいのだが私の蹴りの時蹴りを防いで下をくぐったが、反対に逃げる方が楽ではなかったか?」
「えっと…勘……?というか身体が勝手に動きました。迷ったり悩んだりする時間がない時は直感に従って行動するようにしてます」
「ふむ……なるほど…緊急時は思考を捨てるのもまた大事だな。文句なしの合格だ。しかし魔法での身体強化は奥が深い。わたしもまだまだ未熟の領域だ。合格してからもぜひ参加して精進してほしい」
「はい!ありがとうございます!」
1日に2、3人出る合格者の最初は俺だった。
「いえーいジン!合格したぜ~」
「すごいねリョウ……ぼ、僕も試験受けてこようかな。」
「何事も挑戦だ。行ってこい行ってこい」
「じゃ、じゃぁ名前書いてくるね……」
その後ジンは5秒で捕まりお姫様抱っこで円から出された。
身体強化が未熟な生徒を投げ飛ばすと危険らしい。
ジンが戻ってきてからはまず目に魔力を集中させ、体外魔力と体内魔力の違いが認識できるように教えた。
俺も隣で1か所に魔力を集めるだけでなく平均的にばらけさせながらも防御部位や脚などに大目に魔力を集める練習をした。
全身強化状態も可能だが、集中するあまりそれ以外の事は出来ないし、魔力の消費が激しくて3分程度しか持たない。
理想としては常に脚に魔力を寄せ機動力を確保し、防御時は腕や脛などのガード部位に魔力を寄せ防御し、攻撃時は膝、肘、拳に魔力を寄せ攻撃することだ。
流れるような魔力の操作と集中力が必要だ。
ギャリンも言っていた。死なない事と逃げ切る事が大事なのだ。
相手を必ずしも倒せなくてもいい。ここはゲームではないのだ。
体内魔力の操作のコツはゆっくりだが確実にすこしづつ練習するのみだ。
この世界で物理職にあたる者の身体強化は主に攻撃目的の力増強である。
魔術師は攻撃の届かない距離から圧倒的な火力での殲滅なので、身体強化する魔力があるなら攻撃魔法に使うのだ。
一部暗殺者や探索者等のソロで活動する者は脚の強化での速度や回避UPを使うがあまり一般的ではない。
この学園で防御による身体強化を薦めて無料講義で行っているのは、生徒の危険度を少しでも下げる目的である。あまり実践で防御の身体強化を使う者はいないのだ。
人気講義は少人数高金額で行われることが多く、持ち込み金が10万なのに対して10万の以上の講義も存在する。
進級した場合は前年度の持ち込み金は繰越であり、さらにそこから10万まで持ち込みができる。商売上手やダンジョン探索組、魔物討伐報酬や貴族の買収などによってこの学園内でも貧富の差はあるのだ。
講師は受講料などでお金を受けてることはあるが、生徒にお金を渡すことは禁止されている。
代わりに学園を通じて講義の補佐や講義の為の材料集めの依頼があり、達成すると学園を仲介して報酬が支払われる。身体強化の試験の時の時間を計っていた子も依頼を受けて補佐している子だろう。
講師から生徒を指名して依頼も可能だが、報酬の相場は学園が決めるルールとなっている。学園の至る所でダンジョンたまごや食べ物、武具などが売られている。
なかには第1女子寮謹製のクッキーなども売られているから、さすがあざといとしか言いようがない。
女子の手作りとかに弱い青少年というのは古今東西、異世界でも同じようだ。
機体撃という体術とビーストテイマーを本格受講すると残るのは2銀貨。無駄遣いはできないのだ。




