二次試験に合格。新たな就職先!?
修正加筆済み 2018/01/08
「知り合いから預かったリョウだ!今日から仮入団させる。みんな可愛がってやれよ」
「「「「「おーっす!!」」」」」
朝方に食堂のような場所で紹介をされると、盗賊団員(仮)としての日々が始まった。
主な仕事は掃除に洗濯、料理の手伝い。
前の世界でも多少自炊はしていたが、こちらの世界独特の魚や野菜の下処理を教わった。
暇な時間は走りこんだり、財布を盗るチャンスをうかがった。
最低1個が入団条件という事は、1個盗って終わりじゃなく、それ以上に期待されているという事だ。
最初のターゲットは決まった。知ってる奴がいるのだ。いつかの復讐を果たしてやる。そう……食べ物の恨みは怖いのだ。
(シチューの恨みここで晴らさせてもらうぞ、ガザル!!)
未だに使ったことがなかったスティールを意識しながら念じると、相手がどこに何を持っているかがなんとなくわかる。
財布らしきものは腰につけてるポーチに入っているようだ。
廊下ですれ違いながらスティールを使う。右手がヒュッっと動くと、俺の右手には財布があった。
(やべぇ。これチートだ。なんで今まで使わなかった俺)
他の団員にも試したが警戒しているのか位置のせいなのかなんとなく無理だ……と感じるパターンがあった。万能では無いようだ。
その日の夜ギャリンの寝室に行くと、盗ってきた財布を全部出した。
団員は30人。財布は22個。
「これホントに盗ってきたのかい?」
「盗ってこいと言ったのはギャリンさんですよ。証拠が必要ならこれをどうぞ」
そういって赤い財布を出す。
「っ!!あんたいつの間に!」
慌ててギャリンは左胸の下着の裏を探る。
「ギャリンさんも団員の1人ですもんね」
「こりゃ予想外の大物だね……いいよ合格だ。明日から幹部待遇で狩猟班に入りな。リョウには追跡術を学んでもらう」
「追跡術?……ですか?」
「あぁそうだ。しばらくはスラムのガキの面倒でも見てもらおうかと思ったが、これだけ才能があるなら話は別だ。まずは身を守る術を覚えてもらう」
「追跡術が身を守る術……ですか?」
「リョウ、おまえは賢いから少し説明してやる。いつもならうるさい黙れ言う事を聞け行けってケツを蹴っ飛ばして終わる所だが、納得した方が覚えも早いだろう」
「……お願いします」
「まず盗賊に絶対必要な才能が2つある。考えてみろ」
「盗む事と……殺すこと?」
「違う!それは手段だ。やらなくても生きてはいける。盗賊稼業で大事なのは死なない事、逃げ切る事のこの2つだ」
「なーるほど…ってそれ誰でも同じじゃないですか?」
「屁理屈はいい。殺されないためには強くなるか逃げるかだ。強さで誰にも負けないならそもそも盗賊なんてしなくていいんだ。確実に勝てる状況以外は逃げろ。生きてれば次がある。金より自分の命だ」
「逃げるのが大事なのに、何で追跡術を学ぶんですか?」
「追跡がうまい奴は逃走もうまい。どういう跡が残るとまずいかわかるからな、さらに追っ手を惑わせる偽装工作もできるからな。しかし逃走がうまい奴が追跡もうまいとは限らない」
「なーるほど…」
「どんなに足が速くったって一生走れる訳じゃないしな。空でも飛べるなら話は別だが、そんなのは高位の魔術師くらいだ」
(……え!?)
「リョウがあの時宙に軽く浮いたレベル。あれが一般の限界だ。その歳で浮けるって事は将来リョウは飛べるかもな」
(すでに普通に飛べるんすけど…)
「まぁというわけで明日から追跡術の練習だ。逃走術に狩りの練習、森での生き方、さらに肉まで取れる。素敵だろう?」
「イエッサーボス、納得できました。明日から職務に励みます」
「あたしからの命令は2つだ、死んでも守れ。1つ、他の盗賊団の拠点を見つけたら即戻って報告しろ。絶対に見つかるな、手を出すな」
「…でも」
「でもも糞もない。それが守れないならあたしがアンタを殺す」
今までで一番怖い獰猛な笑みである。
「わ、わかりました」
「よし、いい子だ。2つめは狐とかイタチとか毛皮が綺麗な獲物がいたら、極力毛皮は傷つけず狩ってこい。よくできたらご褒美をやろう」
「わ、わかりました」
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冬の狩りは主に毛皮目的で狩りをする。
狐やイタチなどの小さめの獲物が対象なので、腕がいい少人数の狩人だけで狩りをおこなう。
この世界には魔物や魔獣がいるが、魔物とはダンジョンや自然の深い所で自然発生し、繁殖能力を持たない生き物の総称である。倒すと霧のように消え、まれにアイテムが残る不思議生物である。一方魔獣は普通の生き物が魔力を貯めこみ突然変異したものである。魔物と違い生殖能力があり、種によっては群れを成す。倒した後の素材や肉は一般の動物よりも高値で取引される。
この魔物や魔獣が長い間生存し、古代言語と言われる言葉を覚え、魔法を使うようになると、魔族と呼ばれるようになる。その魔族を束ねているのが魔王である。魔王は大陸の北の果てにいるようだが、詳細は不明である。
冬の月の間はひたすら森の中で追跡術の練習と、小動物を狩った。
動物相手に実験をしたが、麻痺のナイフは傷をつけるだけで麻痺確定。10分は身動きができない。
毒のナイフも傷をつけるだけで毒になり、約10分で死んだ。
どちらも街で売っている解麻痺ポーションと解毒ポーションで治った。
さすがに人間相手に試すほど鬼畜ではないので、イタチ君に実験になってもらった。狩りの方は順調で、空の月からは単独での狩りも許されるようになった。
今年もやはり壁内の商家が襲われ、金が強奪されたようだった。
(来年こそは絶対に……)
ギャリンからたまに他の狩猟チームをばれないように追跡して、何をしていたか報告しろという追跡の練習も追加され、腕はどんどん上がっていく。
夜は木の上で寝るようにし、火は極力使わない。
使っても短時間で、すぐに痕跡を消しその場から離れるようにした。
この世界の生き物は火を怖がらない。むしろ魔物や魔獣は好奇心で寄ってくるのだ。
お湯は魔法で沸かせるが、どうしても肉を焼きたいのだ。
うろ覚えながら、ビタミン摂取の為にレバーは塩を振って生で食べ、食べきれない肉や骨は燃やして埋めた。
生活の場がほとんど森の中なので、成長したヒヨコと共に狩りをし、ヒヨコが獲物を探し、追い立てられた所を投げナイフで仕留める。
焼いた肉を食べるようになってからヒヨコはかなり賢くなり、俺の言っている事がわかるようだ。一度熊の魔獣に出会っときは逃げようと思ったが、ヒヨコがあっさり風魔法の爪を飛ばし、哀れな熊の魔獣はまっぷたつだった。
すでに成長期は終わったのか、羽を広げると2m以上の大きさがある。
ギャリンからもらった報酬で左手用の鉄の篭手も買い、革の篭手の下につけることによってヒヨコもとうとう頭から左腕に乗るようになった。
しかしめちゃめちゃ重い!
毛皮が持ちきれなくなったり、大きい肉を狩った日は風魔法を使い根城に帰る。団員の下っ端がスリや窃盗をたまにしていると聞くが、それ以外の盗賊行為は全然聞かない。ギャリンも毎日根城にいるようだ。俺が狩りに行ってる間は知らないが。
これでは盗賊団ではなく狩猟団である。
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海の月からは食べられる草やキノコ、ポーションの材料、毒になる草を教わった。ギャリンからも体術を学び少しずつ強くなってきた。
ギャリンの体術は相手のバランスを崩し、膝や肘で打撃する武術だった。
子供の頃スラムに住んでいたおじいさんに習ったと言っていたが、かなり実践的な対人武術だった。その体術にナイフによる攻撃と投げナイフでの攻撃を混ぜ込み練習した。麻痺ナイフでなら、かするだけで一撃必殺だ。
ナイフを木のナイフに持ち替えて練習しているが、ギャリン相手にもナイフで何度か攻撃は入るようになった。麻痺ナイフを使えばギャリンにも勝てるだろう。ただしこの強さがギャリンの本気であるならばの話だが…
川の月に入り、狩猟時期はピークにさしかかった。
秋の実り豊かな森には木の実や獣がたくさんある。
もちろん近くの村や街の人間も森に入る為注意が必要だが…
ギャリン盗賊団は10名近くの編成で森に入った。
先行するのは斥候役と仕留め役。
その後方に追跡班と荷物運びがいる。
斥候役は他の狩人達とかぶらないように獲物を探し、仕留め役が仕留める。
追跡班と荷物持ちは木の実を拾いながら仕留めた獲物を持ち帰る。
追跡班は獲物が仕留められた場所で狼煙をあげ、次の荷物持ち班と合流し先行組を追いかける。
俺の仕事は斥候役。他の狩人がいる方には獣は少ない。
年中森に入ってる俺らと違い、この川の月にしか来ない連中は森のマナーをわかっていない。水場、風向き、生息地域を考え、猪と鹿を中心に狙っていく。
山の月の保存食用に肉が高く売れるし、猪も鹿も皮がいい値段で売れる。
斥候、仕留め役、追跡の3チームは森の中で野営になるが、この3人だけの特権があった。夕方頃になると荷物班を根城に帰らせ、追跡班は野営の準備。
斥候と仕留め班はもう一度狩りにでて、雌の若い鹿か若い猪を狙う。
前の世界では肉は解体した後、低温で熟成期間を置いていたはずだが、この世界ではない。それでも肉はうまい!ファンタジー補正サイコ―である。
獲物が獲れるとその場で木に吊るして、手早く解体。水場がなくても生活魔法で水が作れるのだ。食べられない所は処理し、おいしい肉の部分と肝臓を持ち帰り焼肉パーティ。人数がいるので交代で見張りができるため遠慮なく火が使える。
仕事の後のバーベキューは、まさに至福のひと時だった。