練習、練習、敵陣突入!
修正加筆済み 2018/01/08
冷静にコントロールしながらこの先についてゆっくり考える。
まず第一に俺の力だけでさらわれた女の子を探すのはほぼ不可能だ。
コネも情報網もない。
まずは実行犯の盗賊団とガーリーを探さなければならない。
殺すにしても聞くするにしても俺自身の戦闘力は必須だ。
仲間なんていない。情報を集めるのも、戦闘も俺一人でやらなければいけない。
戦いで相手が3人になれば、もうほぼ勝ち目はない。
奇襲できるなら話は別だが、警戒している相手が3人いればもう無理だ。
俺は魔法が使えるが、相手だって使えるのだ。神からの祝福があるからと調子には乗れない。ゲームと違って次はないのだから。
まずはできることを確認する。
武器はナイフだけ。防具なんて装備はない。所持金は預金で約銀貨2枚
まずはひたすらに投げナイフの練習をすることにした。
普通なら武器を捨てる行為になる投げナイフだが、手から放して5秒で鞘に戻るのである。俺ならではの使い方で中距離でも攻撃が可能というのは便利だ。
ポーチを左肩から右脇に背負うと、左胸のベルトの位置に1本ズボンのベルトの右に1本、左に1本ナイフを鞘ごとセットする。もともと我が家であった地下水路の壁や床にマークを書きひたすら投げナイフの練習をする。
胸のナイフ麻痺、右のナイフは付加なし、左のナイフは毒のナイフをセットした。
刃を持って投げる忍者などを漫画などで見たが、速度重視の為、ナイフを抜いた勢いのままグリップを持って投げる事にした。
投げる瞬間に風魔法を使い、距離のUPと命中率のUPもできるようになった。
投げているうちに鞘の位置も変え左の腰に付加なし、右の肩に斜めに麻痺ナイフ、右の腰に毒ナイフの鞘を装着した。右手と左手がそれぞれ別な動きができるように、右手でナイフを構えながら左手でナイフを投げたり、鞘に戻る5秒を体感でわかるように特訓したり、投げナイフに風魔法をスムーズに使えるように何度も、それこそ何万回も投げた。
できるだけ節約したかったが、成長期に栄養が足りないのもよくないので、バランスを考えて多少散財しても栄養のあるの物を食べた。
練習に地下水路の魚にナイフを投げ、焼いて食べた日もあった。
貯金が3000エギラムを切ったころ、俺の投げナイフの腕は10mの距離なら10cmの的に必中するまでうまくなった。ほとんど風魔法の恩恵である。
気づけば海の月は終わり川の月になっていた。
残りの貯金で保存食と左手用の厚めの革の篭手を買うと、スラムの夜に溶けていった。
-----------------------------
このスラムに盗賊団は1つしかいない。女頭目がまとめるギャリン盗賊団である。
しかしこの盗賊団はカンナムではなかなかつかまらない。
まず第一にこの盗賊団のおかげで他に盗賊団ができないからというのが大きい。そしてこの盗賊団は街の中で盗賊行為はしない。下っ端がスリや露店の窃盗をする程度である。
それでも盗賊団と名がついているのは盗賊行為をしているからである。
奴らは街から離れた街道などで商人などを襲う。
被害者が全員この世にはいないので、盗賊行為があった証拠がない。
普段の生活も森に入って狩猟をしたりしているし、人頭税も払っているので証拠がない以上捕まえられない。しかし人の口に戸は立てられない。スラムではギャリンのグループが盗賊団というのは周知の事実である。
衛兵も、触らぬなんとかにたたりなしと半ば傍観である。
この盗賊団が実行犯かどうかはわからないが、盗賊団である以上俺よりも情報は持っているはずだ。
風魔法で2階の窓に近寄ると、順番にそっと中を覗く。
豪華なベットがある寝室を見つけた。窓を軽く引くと鍵がかかっていた。
スーッと頭に鍵の開け方が浮かぶ。窓枠の木をナイフで少しそぎ取りその細い木を使って鍵を開ける。潜伏をしたまま部屋に滑り込み鍵をかける。ベットのそばで潜伏し息をひそめる。ここはおそらくギャリンの寝室。一人になる絶好の機会だ。緊張で破裂しそうな心臓を抑えひたすらと待つ。
2時間ほどしてその目標は部屋に入ってきた。
耳を澄ますと一人のようだ。部屋に入り内側から鍵をかけるとベットに向かう。アクセサリーを外すためにベットの横のテーブルに向いた瞬間、俺はベットの陰から飛び出した。
右手でナイフを首元にあてると左手で口をふさいだ。
「声を出したら殺す」
次の瞬間、妙な浮遊感と共にベットに叩きつけられ組み敷かれた。
相手はスタイル抜群の身体に真っ赤な下着とすけすけのランジェリー。
ウェーブのかかった金髪は月の光でキラキラしている。
ネコ科の大型獣のように光る眼で俺を見ている。
「夜這いか?もっと雰囲気のある誘い方はできなかったのか?」
獰猛な笑みを浮かべながら、その獣は言った。
「おや?まだミルク呑みのお子様じゃないか……言え、誰に頼まれた」
「誰かに頼まれたわけじゃない!自分の意思でここへ来た。盗賊団の頭目ギャリンはお前だな?」
「おいおい、口のきき方を習わなかったか?ぼうや。盗賊団かどうかは知らないがギャリンはあたしの名前だよ」
腕をつかむ力が強くなる
「さ、三年前娼館のゴメスが面倒見ていた女の子だけのグループが盗賊団に襲われた。犯人はお前か?」
「だから口のきき方がなってないねぇ。しかもその話、あたしじゃないって言ったって信じるのかい?証拠もないのに…ついでだけどあたしは盗賊じゃない」
「俺はここのスラムの生まれだ。4年前にアンタが前のボスを殺して頭目になったのも知っている。答えないならいい。問答無用に殺してやる。寝てる時、飯食ってる時、ずっとずっと狙ってやる」
「そのために、まずぼうやはここから逃げ出さないとねぇ…この状況を変えられたら、おねぇさんがご褒美にいいこと教えてあげる」
気のせいかわずかにギャリンの目が光った。
風の魔法を使いギャリンごと宙に浮かせると、そのまま引っ掻き回した。
俺から手を離しギャリンが床に落ちると、右肩からナイフを抜きそのまま投げつける。
ギャリンはぎりぎりでそのナイフを避けると、床に刺さったナイフをつかみ投げ返してきた。
投げられたナイフを避けると身体の横を通過した瞬間ナイフは消え、鞘に出現した。
「ぼうやなかなかやるじゃないか。驚いたよ」