極秘ミッション発動!
修正加筆済み 2018/01/08
夢庵楼で働き始めて3年目になった。
やんちゃ盛りの7歳である。
この7歳に異常なるミッションが発動した。
恋愛シュミレーションノーリを陥とせ!の開幕である。
経緯は忙殺される空の月が終わったある日、ゴメスに呼び出されたことからはじまる。
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「リョウよく頑張ってるな。今日はお前に頼みがある」
「はい。なんでしょう?」
「ノーリの事だが今年であいつの奴隷年は明ける」
奴隷年とは奴隷として働かなければならない年数だ。
犯罪で奴隷になった場合は罪によって。売られた場合は一律20年が基本だ。
その年季が明けると拘束力はなくなる。
「だがまだノーリに止められると非常に困る。何とかして残れるように説得してほしい」
いまだにTOP3はエリス、アクナ、ノーリだがアクナの派閥はかなり縮小し、ノーリの権力は非常に強い。
「今年でノーリがやめれば新しい派閥ができるとともにアクナもまた派閥を大きくするだろう。アクナはあねさんとしての仕事は見事だが、人をまとめるカリスマはない。ノーリが奴隷年季明け後もここで働くように説得しろ」
「僕がですか?」
「そうだ。意外と気に入られてるしな。俺から打診はしたが色のいい返事は返ってきていない。今年中に何とかしろ。ダメで元々だ、何とかできたらボーナスとして借金の減額をしよう」
「おいくらほど減ります?」
「……あねさんとしての仕事なしで新しい派閥の補佐役として残るなら10万。あねさんとしての仕事ありでTOP3以内に残れて、派閥を継続できるなら30万減額を約束しよう」
「僕の借金って残りいくらですか?」
「78万3270エギラムだ」
「結構ありますねぇ・・・・」
「これでもだいぶ早い方だ、このペースなら12歳までには終わるかもな」
もっと早く終わらせる気満々である。預金は20万エギラムはある。
成功報酬30万があれば残りは28万3270エギラムだ。
今年必死で貯めれば来年には完済も可能なレベルになる。
「わかりました。頑張ります」
「ノーリが来年以降の契約書にサインした時点で減額をしよう。期待はしていないが頼んだ」
「わかりました。失礼します」
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ノーリの年齢は知らないが奴隷年季が20年という事はそれなりの歳なのだろう。7歳児の俺が説得も糞もないのである。
そもそも説得してなんとかなるならゴメスが金で釣ってるし、俺に10~30万エギラムの報酬があるって事はその金額でも無理だった……という事だ。
金でも情でも無理なら恋で盲目にするしかない。
この世界にショタという性癖があるのかわからないが、現代にあった以上無理ではなさそうだ。
しかし普段から客を手玉に取る老練のあねごを色で落とすなど可能なのだろうか。
ホストとしての才能があれば可能かもしれないが、前提条件7歳ではいささか無理があるのでは……とりあえず時間は有限だ、行動は迅速に。
幸いなことに接触しようとすればいつでもしゃべれるし、ホストが客を落とすのに比べればチャンスはたくさんある気がしたのだ。
まずはできるだけ目を合わせないようにして、会話が必要なときもできるだけよそよそしくする。
休みの日のマッサージも理由を付けて断るようにし、裏ではノーリ派閥のあねさんに
「ノーリのあねごは今年で年季明けですね。幸せになってほしいです」
とか触れ回る。
後は獲物が釣れるのを待つだけである。廊下でも露骨に避けるようにしてできるだけ顔を合わせない。
お客さんのマッサージを頼まれたときも、ノーリからはお小遣いを意地でも受け取らず、逃げるように部屋から出る。
川の日の月末とうとうノーリから呼び出しがかかった。
ゴメスにも許可をもらっているから仕事を抜けてでも最優先で来るようにとノーリ派閥の丁稚から伝言を受けた。
神妙な顔をしながらノーリの私室に入る。
「そこに座んな」
「……はい」
「最近なんだか変じゃないかリョウ?あたしをやたらと避けてないかい?」
「……いえ。そんなことはないです」
「ふーん。アクナあたりにでも頼まれて嫌がらせかい?」
「違います!そんな……そんなんじゃないです。」
「そんなんじゃなければなんだい?あたしを避けてる理由は?」
「………」
「別に避けられるのは構わない。これでもアンタの事は気に入ってたんだ。アンタがそーゆー態度で来るならこっちにも考えがある。今後ノーリ派閥ではアンタのマッサージは使わない。マッサージができる丁稚も増えたしね。アンタにこだわる理由は別にない」
「……構いません。それでいいです」
「アンタもあれかあたしが今年でいなくなるから態度を変えたって訳ね。今までのはあたしが権力を持ってるから媚びてただけかい。なかなか賢いじゃないか」
「っ!!ちが……違います!!!」
声を大きくしながら水魔法で涙と鼻水を作る。
「っぐず!ノーリのあねごがごどしでいなくなっちゃうってぎいたがらぁ!!ごれ以上仲良くするど別れがつらいから!!だけど!けどノーリざんにはじあわせになっでもらいだいがら!!僕は一緒には行けないし。いくらずきでも……僕はまだごどもだがら!!なにもでぎないがら!!だがら……だがら……」
「……おまえ…」
そこからはひたすらに泣いて差し伸べられる手も払いのける。
一時間ほどするとノーリはぽつりぽつりと語りだした。
「あたしの生まれは国のはずれの村でね。不作の年に税金が払えなくてあたしは10歳の時奴隷商に売られた。お父さんとお母さんが毎日泣いてね。兄の為だ我慢してくれってね。娼館で働いてた30歳のあたしに帰る場所なんてないんだ。引き取ってくれるような客もいないし。それでもコツコツためたお金があるから、年季が明けたら小さい酒場でも開いて、そこで女将でもやろうかと思ってたんだ。どこにでもあるありきたりな娼婦の話だろ?」
「………」
「ただゴメスからも数年でいいから残ってくれと頼まれてるんだ。自由民になる以上今まで以上に給料は出るし、住むところも食べるものにも困らない。それでもこんなところはもうコリゴリでね。だから今年でもうやめようと思ってたんだ」
ただひたすらにノーリの話に頷く
「……後3年だ」
「それがあたしの現役の限界だ。リョウが10歳になるまでに借金を終わらせて一緒に出よう。それまでにリョウの気持ちが変わっても構わない。アンタはいい男になるよ。あたしが保証する」
「でも…せっかく今年で自由なのに……」
「別にここで働いて好きな男を待つのもあたしの自由さ。今までと違って娼館の外にも自由に出れるし、今まで以上にお金も貯められる。10歳になっても借金が終わらないならあたしも協力してあげる。今まで身体と金目当てじゃない告白なんて受けたことなかったよ。とうに捨てた気持ちがこの歳でまた湧き上がるなんてねぇ……しかも相手はまだ毛も生えない子供と来たもんだ。あたしもヤキがまわったかねぇ……」
「ノーリのあねご……」
「ノーリでいいよさっきさりげなくノーリさんとか言ってただろ?」
「よ、呼び捨ては無理です」
「んじゃノーリさんでもいいよ。リョウの好きっていう気持ちは分かったよ。あたしも全力で応える事にするよ」
「ノ、ノーリさん」
「なんだか恥ずかしいね。こんな気持ちとうにドブに捨てたつもりだったんだけどね」
優しくキスをされると俺は部屋に戻った。
その後ノーリはゴメスと契約し、来年空の月から3年間自由民として働くことが決まった。
これで俺の借金は30万を切った。来年の空の月のラッシュで稼いでとっとと夢庵楼からおさらばするのである。
所詮世の中喰うか食われるかである。
心は多少痛むがどこの世も残酷なのである。