5歳の日々
修正加筆済み 2018/01/08
5歳になりました。
娼館【夢庵楼】《むあんろう》で働き始めて1月が経った。
もう海の月に突入である。この世界に梅雨はなく、じりじりとした暑さが身を焦がす。
男の従業員なので、個室をもらっているが当たり前のように窓がないので、夜は虫は来ないが蒸し焼きである。…普通ならね。
足湯で使う桶に生活魔法で水を作り、火の生活魔法で凍らせる。
火が出せるので一般的には火魔法と言われているが、科学の国から来た俺から言うと熱操作魔法である。この世界に氷魔法と言われるものは存在するが、生活魔法で使えるレベルではなく一定以上の才能が必要である。
使えるのがばれるとゴメスにこき使われる事間違いないので、自分用にコソコソ使っている。作った氷は桶に入れ風魔法を軽く当てておく。かなりの涼が取れ快眠が保証される。
冬の間に地下の氷室にためた雪や氷があるが、派閥のボスが買うかゴメスのご褒美か、特別の客用である。
俺も足湯屋といいながらこの暑い夏の為に客に聞いて、桶のお湯を冷水に変えるなどのサービスもしている。
閑話休題
この店の朝早い丁稚は6時、あねさん達は昼ごろに起きる。
午前中はお泊りのお客さんの見送りと掃除。
昼からは夜のもてなしや風呂の準備。15時には客が来るのだ。
おねさんにランクがあるようにお客さんにもランクがある。
風呂と大人のサービスだけの客。
風呂と食事と酒とサービスの日帰り客。
泊りを含めた高級客。
どれだけ遅い客でも日帰り以上のお客さんは18時には来店する。
俺の足湯対象は食事以上のお客さんなので、足湯の仕事は15~18時の3時間である。
18時以降は食事の片づけ、厨房の雑務などお客さんの目につかない所で手伝いをしている。ゴメスからは
「お前は遊撃だ、好きに動け。やりたいことをやれ。周りに迷惑はかけるな。サボったらぶん殴る」
…と言われている。正直5歳児にできることなどほとんどないのだが、積極的に手伝う姿勢は認められている。
夢庵楼で新しく始めた足湯屋の評判は上々で、壁内の路上でやっているものよりも数段上とのお褒めも頂いた。
(当たり前だ。こっちが元祖だぞ!)
酒の席でおねさんにそんな話をして、あたしも受けてみたいとお客さんから呼び出され、チップをもらいあねさんに足湯をすることも増えてきた。
ゴメスに半分上納とあねさんにお礼も迅速に忘れない。
ノーリなどはマッサージにはまり、自分の上客にもマッサージを熱く語り毎日のように呼び出してくれる。このチップがまたおいしい。
お客さんからのはチップなのでゴメスに半分上納だが、あねさんやあねごからのお小遣いは別である。これは隠さずに申告したがゴメスもありがたくもらっておけと言ってくれた。
(ゴメスの評価が少し上がって糞神よりもいい位置に来た!)
空の月の忙殺されるような忙しさのおかげか、足湯の評判も良くなりあねさん達にも可愛がられた。
しかし海の月に入ってから夢庵楼では不穏な空気が漂っていた。
原因はアクナ派閥である。
ノーリ派閥から除け者にされたあねさんをすべて吸収して膨れ上がったアクナ派閥は、客が入れ食いだった空の月とは違い、落ち着き始めた海の月では売り上げで足を引っ張るあねさんが続出し、ノーリ派閥の客を奪うようなあねさんも出てきて一触即発の状態である。
派閥の人間が問題を起こした場合、派閥のボスも連帯責任でペナルティがある。
あまりにひどい場合は一年を待たずして派閥解体もあるのである。
その場合あねごはあねさんに戻り、他のあねさんと同じ待遇になる。
売り上げが上がらず問題を起こしそうなのはさっさと派閥から切る。
切られたくないあねさんはより卑怯な手段で他の派閥の客をとる。
売り上げをあげるためには安定した常連が必要なので、常連を取られることは死活問題である。そして人間の習性はやられたらやりかえす。こうして泥沼の戦いがはじまろうとしていた。
(まー俺には関係ないけどね)
早起きしても掃除をしなくてもいい俺は、丁稚への足湯の指導以外は少しづつ身体を鍛えることにした。筋肉が付きすぎると骨の育成を阻害するといったような記憶があったので、ほどほどにする。
毎朝起きてから前日のチップを計算し、ゴメスへの上納金を受付で渡す。
残りのチップとお小遣いを持って銀行までジョギング。ヒヨコに魔力をあげ預金してから城壁沿いにぐるっとジョギングして帰る。まずはスタミナが大事なのだ。
昼頃まで足湯の指導をして、お客さんが来るまで本を読む。
勉強の為にと言ったらゴメスからあっさりと許可が出た。ゴメスはもともと教養があるようでさまざまな本を持っていた。もう糞神と比べるでも無い偉人である。
最初は悲観していた部分があるが、これでなかなかいい立場だと思う。
しかし何度頼んでも城壁内からの外出は許されなかった。
(まだ一年目だしまずは信用してもらえるように頑張るか)
それから毎日ひたすら足湯屋の日々である。