戦う決断!
学園での魔術の調べものついでに、戦術関係の本も漁ってみた。
この世界では魔法という現代の火器とは別な火力兵器があるため、戦争のセオリーや戦術がおそらく現代と違うはずだ。
まぁ現代のセオリーも戦術も元々知らないが……
戦争で用いられる攻撃型の魔術は大きく分けて2種類ある。放出型と範囲型である。放出型は個人でも戦場で飛び道具代わりに使い、最も一般的な魔術である。範囲型は向き、距離、角度、属性などを魔法陣で設定し、魔力の量にて威力が決まる。
学園長のような放出量、保有量ともに一級な魔術師なら1人でも発動可能だが、本来は4~5人の魔術師が同時に魔力を注ぎ、1人が制御を行い、発動する。
使い捨ての魔法陣は穴の開いたバケツのようなもので、魔力を注いでる最中もどんどん抜けていく。抜ける量を超えるペースで溜めないと、威力が上がらない所か発動すらできない。
さらに距離が離れるほどに威力は下がるし、一度の発動にかなりの魔力を使うので、あまり野戦で範囲型は使われない。混戦状態で味方も巻き添え覚悟で使う指揮官は、なかなかいない。
野営場所も見晴らしのいい場所に作り、周囲の監視なども徹底的にするのが基本らしい。
範囲魔術を警戒するために奇襲、夜襲はあまり通用しないらしい。
そんな範囲魔術最大の見せ場は攻城戦などである。
場所が動かせない防衛側はひたすらに攻撃側の範囲魔術を止めに入る。
準備中の魔法陣を潰したり、魔術師を狙って暗殺したりする。
魔法陣を組み発動までそこを死守する攻撃側と、それを食い止めるか逃げるしかない防衛側。圧倒的に防衛側が不利なので防衛=ほぼ詰みの状態である。
幾度かそれを逆手にとって逆転した防衛戦があるらしいが、物語になるほどの奇跡級のようだ。
野戦で使われる放出型の魔法はあまり威力の無い物が多い。
戦術級の放出型の魔法を使える魔道具や魔術師は真っ先に潰されるからだ。命が惜しくば見つからないように、隠れて使う方がいいようだ。
伯爵から聞いた話をまとめて状況を整理すると、おそらく年内にエギラム国内での戦争が起きる。
領内の治安だけでなく、本格的に戦争用の軍としても行動できるようにしないとならない。
俺自身ももっと勉強して、指揮官としても個人としても、もっと強くならないといけない。
現代でこんなに頑張る事ってあっただろうか?いやない。
昔誰かが言っていたが、男にはやらなきゃならない時がある。というのはホントらしい。
ここですべて投げ捨てて逃げれるぐらいのカスっぷりなら楽なのだが……。
学園長がいる限り首都は安全だろうし、家族と共に国外逃亡は難しい。
伯爵家の私設軍を任されている以上、やらねばならない義務もある。
もう腹をくくってできる限りのことをしようと決めた。
大隊の責任者とはいえ、防衛側に回ってできる事はほぼ皆無。
戦況的には防衛に回った時点でほぼ負けは決まるだろう。
首都が戦火に陥る可能性は学園長がいる時点で非常に低いが、物量での消耗戦では確実に勝ち目がない。
カナン側からの逆侵攻が来る前に、戦争を終わらせなければ未来はない。
そのためには元国境を占有している飛竜騎士団をなんとかしなければならない。
防衛戦になっても攻撃に出てもどうせあいつとは再戦しなければならないのだ。ならば少しでも有利な状況で挑んでやる。
カナン国内のエギラム軍がどれだけ持つか目算はつかないが、あまり時間はないだろう。それまでにできるだけの事をして攻め込む。
どうせこっちから頼まなくても戦況がまずくなれば捨て駒として前線に駆り出す為の要請が来るんだ。
腹はくくって方針は決めたので、まずは自分のできる事をやろうと思う。
まずは学園長に頼んで切り札を作りに一緒に学園のダンジョンに潜る事に決めた。深い階層まで行くとなるとさすがに数日かかるので、学園長のスケジュールが空いている日の方が都合がいい。事情を説明すれば何を差し置いても同行してくれるだろう。
おそらくしばらく学園から動けないので、ヒヨコを使った伝令で大隊の訓練内容の変更を伝える。
諜報活動の特化の訓練を始める。目標はロンメル伯爵家とギャスパー男爵家、そしてエギラム宮廷内の情報だ。戦争に必須というわけではないが伯爵家には必要な情報で、練習相手にはちょうどいい。
各小隊ごとに予算を振り分け、いかなる手段を用いても構わないので情報を集める事を最優先にさせる。
この世界での戦争を色々調べたが圧倒的に情報が必要であるにもかかわらず、あまり情報に特化した部隊の話がない事に驚いた。
現代であれば○○国が最新鋭の○○を開発した。とか新しい兵器実験に成功した。とか言う話は噂話で程度でも耳に入る。
この世界では魔術師というのは兵器である。場合によっては単一で戦術兵器にもなりうる。どこの国がどれくらい魔術師を囲っているのか、その質は、この戦争にどれだけ出てくるのか。そんな情報が開戦前に知らないのが普通のようだ。戦争が終わってから、勝った国が自慢する話で分かる程度だ。
魔術師だけでなく魔法に関してもそうだ。知らずに使っていたとはいえ生活魔法で飛行できる技術は応用性が広い。
魔法陣についてもたくさんの本を漁ったが、軽く読んだだけでも改良の余地がいくつか見つかった。
戦争で用いられる範囲魔法の魔法陣は使い捨てで、液体の消費媒体などで地面に書く。
魔宝石に組み込む場合は特殊な道具を使って魔宝石に魔法陣を組み込む。
要は魔宝石に出口を作ればいいのだ。
方法は2種類。
まずはとあるブレスレットで魔術を逆展開させる。剣奴隷の時にやった吸収の事だ。
あの吸収の魔法を魔宝石につかう事で魔宝石からの出口ができる。
魔法陣に組み込んだキーワードにより魔宝石の中の魔力が使用され魔術が発動する。
もう一つは学園長が持っている杖のように、ひたすら同じ魔法を使いづつけ、魔宝石に記憶させる。何度も同じ魔法を使い続ける事によって、より正確で威力の高い魔術が展開できるようになる。しかし刷り込んだイメージと一致しないと発動が難しい。
魔法陣とは言っても古代文字によるプログラムのような文字の羅列と流れる魔力の回路になる模様だけである。
古代言語は意味と発音はかなりの量が伝承で残っているが、文字として残っている物は少ない。
まだあったことはないがエルフや魔人は古代言語にて魔法を操るらしい。
範囲魔術師が火属性ばかり使うのも見た目の問題かと思っていたが、文字として残っているのが少なすぎる事にも原因があるようだ。
魔法の為ならと寝る間も惜しんで図書館にこもり続けた。