怪しい事件!
大隊の設立から1年が経った。
戦果を挙げたはずの第一陣は再編成され、各領地の警邏に回され、司令本部へ従軍していた者への論功行賞が行われた。
やはり伯爵への報酬は異質で、王宮内でもさまざまな事が囁かれた。
曰く、戦力を隠し持ち、戦争に全力で参加しなかったため。や第一陣の兵の消耗は伯爵の指示のせい等、様々な議論がされた。
7割ほど占領されたカナンは首都に国軍と司令本部が設置され、占領地域におけるカナンの法と貨幣制度を廃止、すべてをエギラムの統治下とし、重い税がかけられ、カナン国民の奴隷が大量に出た。
しかし残り3割の地域で激しい抵抗が続き、王族もいまだに見つかっていない。首都占領戦の前に身を隠しており、国の財産もほぼ残っていなかった。
エギラムは王族に懸賞金をかけるがいまだに見つからず、残りの地域もゲリラ的な戦法の前に制圧しきれないでいる。
現在エッグノック大隊の中隊は4つ。1班6名の編成にし、アルファ1からズール1の第一中隊とアルファ4からズール4の第四中隊までの4つの中隊をそろえている。班には聖獣持ちが最低一人は配属されている。
猛禽班も1から3までの計9班54名体制になった。
アルベルトが第一中隊長、カチュアが第二中隊長、アニマが第三中隊長、のり弁が第四中隊長である。それぞれの中隊に3名の小隊長が付き、中隊長の補佐として1名づつがつけられる。ジンは第一中隊長補佐だ。
残り6名は書記、会計役として書類整理や収支計算の裏方役だ。
盗賊の討伐での報酬目的に隣の領地に応援に行くこともあったが、領内は非常に安定しており、平和そのものだった。
しかし、侵略戦争に勝ったとはいえ、景気が良くなるわけでもなく、生活は変わらない。
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「隊長、やはり変ですね。隊長の指示通り、国内での妙な事件をまとめて、地図上に場所と時期を書いてみたのですが……」
猛禽班のTOPを任せているまるちゃんから報告が入る。
「やっぱり規則性があるだろ?」
「そうですね、どの事件も国内で有名な盗賊団や、猛者がいる元第一陣の警邏や王国騎士団が壊滅していますね」
「王国騎士団もか!?」
「去年の戦争開始前からも規則性があります。見てください」
まるちゃんが広げたのはこの国の簡易的な地図。横に楕円形のエギラム国の地図の中央よりやや東にカロナムはある。その北には北西に国境までのびるミレーネ山脈。カロナムからその山脈沿いに北西に進むと、伯爵領であるロミスカ地方である。
今年戦争になったカナンは、エギラムのほぼ半分の国境と接した東の隣国。
妙な事件は去年の川の月半ばから国内で起きており、東のカナンとの国境近辺から首都を中心に、時計回りに進んでいるように事件が起きている。
「まるちゃんどう思うこれ?」
結構な頻度で抜けてるまるちゃんだが、ここ一番の勘と推察は目を見張るものがある。
「事件の被害者は1~50名程度ですべて魔法や裂傷によって死亡しています。共通点はすべてに有名な猛者が含まれる事、金品の強奪がされていない事……国は新種の魔獣や魔人の可能性が高いとみていますが、僕はむしろ人間による計画的な犯行だと思います」
「根拠は?」
「このルートを見る限り、国境を理解して、有名な相手をつぶして回っているように感じます。その知性がありながら金品を奪わないのは金品目当てではなく、猛者と戦うことが目当てだと推測されます。魔人が犯人なら首都を避ける理由もありませんし……」
「俺もその意見に同意だ、問題は……」
「……このままだと、もうしばらくでロミスカが侵攻予想地域に入りますね」
「そこだよ……とりあえず各班長には通達、やばそうな相手を見かけたら即時撤退。相手の数もわからないのだろう?」
「国が探しても見つからないし、目撃例もないあたり、少人数が妥当だと思われます。今までの被害者の傷からすると同一人物とは思われていますが、人数まではわかりませんね……」
「よし……俺はしばらく猛禽第三小隊と共に哨戒に出る、連絡と報告はいつものようによろしく」
「わかりました」
猛禽班は追跡、逃走、情報収集等に特化したチームだ。今回のような哨戒任務はお手の物だ。しかし妙な胸騒ぎがあるので今回は俺も出る。
ただの殺人者なら領内でもまれに出てくる。しかし今回は殺された相手がほぼ軍人で猛者として有名な者ばかり。さらに集団に対しても勝てる戦力があり、金品を奪うことはなく、一定のルートをたどっていることだ。
幸いと言っていいのかわからないが、第一陣で元私設軍が壊滅して、この伯爵領には国からの衛兵もいないので、狙われる要素がないのは安心であるが、万が一の為である。猛禽第三小隊のファルコン3、ホーク3、コンドル3にはあやしい者を見かけたら即撤収、報告を義務付ける。
まずは見つけることが最優先だ。
翌日ロミスカの南側の境界に向けて、猛禽第三小隊と共に出発した。