アルベルトが婚約!?
空の月1日。
記念すべきエッグノック大隊設立である。
朝の9時に訓練場に整列し、元エッグノック中隊200名と新たに新兵として加わった500名。
すべてが勢ぞろいすると、さすがに圧巻である。
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「本日から配属された新兵のみなさん、初めまして。この大隊の総責任者のリョウです。今日から諸君にはロミスカの治安維持としての戦力になるべく訓練を積んでいただきます。諸君らの先輩にあたる中隊員は3か月前に配属され、すでに実戦にも出ている。諸君らと同じ奴隷の身であったが本日をもって第一中隊員はすべて奴隷身分から解放された。諸君らも同じ地位を求めるなら、逃亡や反乱などがないことを切に願う。長話をしている時間がもったいないので迅速に訓練にはいる。10人1組の班を作り中隊員の指示に従い訓練開始。中隊員はそれぞれ班長の指示に従い予定を消化、では全員行動開始!!」
アニマとカチュアは新兵の訓練の補佐と監視だ。
ジュリアは一兵卒からと言っていたが、アルベルトが強く説得し、食堂が勤務場所になった。
決め手となったのは、新兵が全員男である事。そして宿舎は共同だという事だった。裏方の手伝いならばレイと同じ部屋なのだ。意見を変えるのも無理はない。
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海の月1日をもってエギラムは隣国カナンへ奇襲と同時に宣戦布告を行った。さらに国からの出陣要請がエッグノックにも出される。
もちろんエッグノックは、伯爵個人の所有なので強制力はない。
伯爵領の治安維持が最優先である事と、所有権が伯爵にある事を明記して返信する。
学園長からも手紙があり、国の自衛の際は学園は戦争に参加するらしい。
正直この戦争には勝てるとは思えない。少数の馬鹿によって迷惑をこうむるのはいつでも多数の平民だ。
しかしこの予想は大きく裏切られる結果となった。
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海の月10日、新兵の訓練が落ち着き、新しく班の体制を整えてる真っ最中その報告は国を揺るがせた。
小規模な勝ちを積み重ねていたエギラム軍が、特攻とも思われる無理な攻勢を開始し、カナン国の首都の制圧に成功した。
これはカナン国のほぼすべてを手中におさめ、侵略戦争に勝ったことを意味する。
王国は即時国軍をまとめ、第二陣の出撃を決めた。
それに伴う首都の防衛力の低下を阻止するために、各領地に派遣していた衛兵をいきなり引き揚げた。
引き揚げ後の連絡では、戦地から帰還する第一陣を再編成し、各領地の警邏にあたらせる、それまで各領主は自己防衛しろとのことだ。
領主を戦場に駆り出して、何を言っているのかさっぱりわからない国だ。
フォブスリーン家では無用の長物だった衛兵だが、他の領地はどうなるかは火を見るより明らかである。
10日を境に、ロンデル伯爵とどれだけ仲がいいかを長々と書いた救援要請が、毎日馬鹿みたいに届くようになった。
中には協力して当然だと言う、わけのわからない手紙もあった。
フォブスリーン家と交友のある貴族は私設軍の徴発後、山賊に恩赦と地位を与え、金で雇う者がほとんどだった。そもそも賢い貴族なら普通はそうする。
この土壇場になってから助けを求めるなど、領地を守る貴族としては失格だ。
侵略戦争の戦果は予想外だが、伯爵が無事に従軍から戻るのは幸運と言える。
まぁこのタイミングで国軍を送り帰されるあたり、手柄は国軍がほとんど持って行く算段だろう。徴発軍と徴発兵が再編成され領地の警邏にあたるなら、伯爵の戦時待機も終わり、領地に帰ってくることも可能だろう。
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待ちに待った海の月63日。軍事待機から戦争への従軍を経て、ロミスカ伯爵領当主、ロンデル・ロミスカ・フォブスリーンは約一年半ぶりにアルフォンに帰ってきた。
その日に連絡があり、アルフォンのフォブスリーン家の屋敷にて4人で夕飯を取りながら連絡会、および会議が行われた。
「お父様、生きてのご帰還、まことに嬉しく思います!!!」
「アルベルト、親子の再会は後だ、まずは報告と今後についてだ。同席させたが後学の為だ、立場はリョウ殿の部下としてわきまえていなさい」
「はい!」
「伯爵様、どうか殿つけだけはご容赦を。たかが家臣の軍人です」
「そうもいかない、君は現在当家の最高軍事管理者だ。異論はないな?ポダル最高執政官」
「異論はありません。一年前はこんな小僧がと思っていましたが、いささか年を取って目がかすんでいたようじゃ、なぁリョウ隊長殿?」
「いえ、まだ成人にも満たぬ歳ですから……」
エギラムでは大人一人分税金を支払う15歳からが成人となる。
「さて、本題だが、この度の戦争の報酬として、わたしに軍中枢の役職が与えられる予定だ。立場としてはナンバー2の位置だが所詮お飾りだ」
「っ!!」「!!」
思わずポダルと同じく顔をしかめる。
領地持ちの当主に対する国からの役職を与えるという行為は、【隠居して次に継がせろ】という暗黙の命令である。
伯爵はまだ30代後半、働き盛りどころか、これからの人間である。
なにかやらかしたならまだしも、戦争に従軍して勝った者に与えられる報酬ではない。
「さらに王家との血のつながりがある元公爵のギャスパー家から、アルベルトに嫁が来るらしい」
再び聞くとは思わなかったギャスパー家。
「当主様!しかしギャスパー元公爵様に娘はいなかったはずでは?」
真っ先に反応したポダルが質問する。
「次期当主予定で、現在男爵のガシラス・フォン・ギャスパーの子だ」
「伯爵様……それって」
「そう、相手はまだ3歳だ。公爵家は廃爵され現在は男爵家だが、これを機にロミスカの地を王族の物にする魂胆も透けて見える」
「あ、アルベルト……」
ふと隣に座っているアルベルトを見る。
どこを見ているかわからない視線だが、目はしっかりとしている。
「わたしは川の月よりカロナムで軍の中枢の役職につく、2年後アルベルトの成人と共に当主は正式にアルベルトに継承される。それと同時にギャスパー家と結婚だ」
話が急すぎて頭がこんがらがる。
「整理すると、国は完全にこちらに敵意を向けているという事ですか?」
「ふーむ、実は最近でも新しい鉱山が見つかってな、更なる増収が見込めている矢先なのじゃ……」
「鉱山の権利を一部譲るなどして、譲歩はできないのですか?」
「一度甘い顔をすれば何度でも付け込まれる。わずかだけ、一度だけと思うとあっという間にすべてを奪われることになるぞ。……と王宮という伏魔殿で生きてきた年寄りのお説教だ」
皮肉交じりに伯爵が笑う。
確かに一時しのぎにはなっても、根本的な解決にはならない。
「そう言えば伯爵様、従軍されていた私設軍はどうなったのですか?この伯爵領にそのまま返還ですか?」
「……1人も生き残らなかった。7万人中生存者は4万人。我が私設軍所属と徴発兵は常に前線で使われ、カナンの首都占領時には1兵も残っていなかった……」
「な、なんとむごいことをするのじゃ!」
「すまない、警邏の兵も被害報告が多い地域優先という事で、被害報告の無いロミスカには1兵もこない……」
「つらいお話をさせてすみません」
「いや、いいんだ、結局話さねばならない事だった。こちらこそすまない。そしてありがとう。ここまで立派にやってくれるとは思わなかった。わたしに娘がいたら君を婿にもらって、アルベルトと共にこの地を任せたかった」
「婿に行かずとも微力ながらお手伝いしますよ。大事な友の危機ですからね」
「よき友を得たものだ……さて、そろそろアルベルトも言いたいことがあるようなので私用の時間に切り替えようか。ポダル、秘蔵のワインを隠しているんだろう?こんな日だ、互いに"とっておき"を出そうじゃないか」
「当主様にはかないませんな、ぼっちゃんも13歳ですし、そろそろお酒もいいでしょう。初めての口にするにはもったいないほどの"とっておき"を出しましょう」
その後この世界初めてのワインを口にしながら、夜は更けて行った。
伯爵は生きて帰還しましたがどうやらきな臭い方向に流れているようです。
作者がチート無双できたらこの国乗っ取るか伯爵家を独立国家にしちゃいたいですね!