大人は尻尾を切る生き物!
翌朝、街から護衛を引き連れ、慌てて逃げ出す行商人の情報をゴルスーイ盗賊団に流す。
俺は猛禽3班を率いて後を追う。
アルフォンの街からしばらく離れたところで、ゴルスーイ盗賊団に包囲され、ラトスは怒鳴りを声をあげている。
「我々はバルベス侯爵家御用達のロンメラ商会の者だ、通行料は払っているはずだ!!!ここを通せ!」
「何か証明になる物を見せな!!」
遠目にもわかるガタイのいい男がそう叫ぶ。
「これを見ろ、ロンメラ商会の証明だ!通らせてもらう」
そう言うとラトスは、何か紙のようなものを見せている。
「確かにバルベス侯爵御用達のロンメル商会で間違いないようだ!通してやれ!!」
その瞬間に猛禽班3班で突入し、ラトス一行を取り囲む。
「初めましてこんにちは、ロンメル商会のラトス様ですね、領内を荒している盗賊団の頭目容疑で拘束いたします」
「き、貴様!!!昨晩のガキ!!」
「どこのどなたと勘違いしておられるのかわかりませんが、先日捕らえた盗賊が上納金を払っていたという骨董品屋の店主をとらえると、あなたに雇われたことを白状しました。盗賊団の頭目の容疑で拘束、連行させていただきます」
「ふ、ふざけるな!何の証拠がある!!証拠もなしにこんなことが許されると思っているのか!!」
「証拠ならありますよ、あなたの所持金がね。各盗賊団からいくら上納されたかはすべて伺いました。あなたの行商人としての活動と収支を照らしあわせれば不自然な金額が浮かぶでしょう。どうやら侯爵家とロンメル商会にも、お話を聞かなければならないようです」
「儂なんかよりそこにいる盗賊団を捕まえろ!!!儂は商人だ!!」
「私の眼には盗賊団はあなたたちしか見えません。この善良な領民に荷物か何かを奪われたんですか?」
「そ、そいつらはゴルスーイ盗賊団だ!!!ロンメル商会が保証する!捕まえろ!!」
「……らしいけどどうしますか?」
そう言ってガタイのいい男ジェイキスラの方を向く。
「……仕方がない目撃者には全員死んでもらうか」
そう言いながらこれでいいのかとチラチラこちらを見る。
「……とまぁ冗談が上手な領民ですが、仮にも行商人を襲う現場を目撃したら我々も動かないといけませんね。まだ何もしていない領民には手出しできませんが」
「き、貴様らに何の権利があって拘束するのだ!衛兵でもあるまいし!!」
「我々はフォブスリーン私設軍、エッグノック中隊である、領内での犯罪の取り締まりにおいて拘束、尋問の許可が与えられている」
「しょ、証拠をだせ!!」
エッグノック中隊の紋章が刻まれたナイフを見せる。
「こんな紋章は見たことがない!偽物め、我々は自らの自衛の為にここを突破する!!」
「……だ、そうです。執政官殿」
昨晩のうちに声を掛け同行してもらった執政官の出番だ。
「無駄な抵抗はやめさない。わたしはフォブスリーン伯爵領最高執政官ポダルだ。ロンメル商会ラトス氏には聞かねばならぬことがるようだ。素直な同行を願う」
「フォブスリーン家は盗賊団を容認するのか!!?」
「盗賊団?はてどこにそんな奴らがおるのじゃ?」
すでにゴルスーイ盗賊団は影も形もない。
演技のうまさはさすがに盗賊よりも上だ。
「お、覚えていろよフォブスリーン家!!!」
「その前に自分らの心配をした方が賢明じゃの。フォブスリーン家に弓を引いてただで済むと思うなよ虫けら!!!!」
ラトス一行を連行すると取り調べが始まった。
ラトスは一切口を割らなかったが、ロンメル商会と侯爵家に事情説明を求めると、ロンメル商会はすべてを否認。ラトスを商会から破門とした。
盗賊団の規模が一商人のできる範囲外だったこともあり、バルベス侯爵家はロンメル商会を御用達からはずし、名を騙られたと国に報告し、ロンメル商会は営業許可の剥奪、廃業となった。
侯爵家も商会もトカゲのしっぽ切りをしたのである。
200名に近い盗賊を商会一つが何とかできるわけもなく、侯爵家が絡んでいるのは明白だったが、侯爵家の直接的なつながりは掴めず、逃げ切られる結果となった。
下手に突っ込んで事を大きくするよりも、まずは牽制という事で【火遊びはやけどの原因】という威嚇に留まった。
今後も侯爵家から嫌がらせが来るようなら、その時は覚悟してもらおう。
結果としては5つの盗賊団を生け捕りにし、商会がトカゲのしっぽ切りしたおかげで、ラトスは盗賊団の頭目として逮捕され、持っていた資金はすべてエッグノックの資金となった。
合計382銀貨とさまざまな戦利品。
軍に必要ない物はバレスの商会に引き取ってもらう。
どうにか年内の活動資金は足りそうだ。
中隊設立から初めての2連休を発表し、戦利品の嗜好品とお酒で宴会をした。
休み明けからは放浪の盗賊団の駆逐や、領内の見回り、情報収集だがひとつ面倒な事が片付いたのはいいことだ。
1つ大きな仕事が片付いたので、改めてゴルスーイ盗賊団とも話し合う場所を作らなければならない。
次の目標は俺やカチュア、アニマがなくても動ける体制の確立と、情報網の拡大だ。徴発のせいで男手が足りない村には2班体制で貸し出すのもありだな!
わずかの間に盗賊団5つを捕縛し、領内どころか国でも有名になってきていることを知らずにベットにもぐる。