EP7 死の使い
[1] ―― 死の使い ――
牢の石壁を背もたれの代わりにして、床に座り込む俺は、鉄格子の隙間から僅かに見える階段へ、時折、視線を向けていた。
あの階段はここを出られる唯一の出口である為、どうしても目が行ってしまうのだ。
そしてその都度、階段の前にいる牢番の男の姿が視界に入るのである。
因みに今、牢番の男は大きな欠伸をしている最中だ。いい気なもんである。……こっちの気も知らずに。
この牢に入所してから今まで、変化らしい状況の変化は何もない。
あの階段を通って、この牢獄に来る者すらいないのだった。
俺が最後の入所者なのだ。
まぁニーダの話によると、この地下牢は政治犯とかを主に収容する施設らしいので、そこら辺のゴロツキが入るような事はまずないとは言ってた。早々頻繁に入ってくるものでもないのだろう。
一応、この地下牢には幾つかの牢があるみたいだが、俺達以外、この牢獄に居ないみたいだし。
以上の事から、あまり変化が期待できない牢獄でもあるのだ。
だがそんな牢獄の状況は、色んな意味で俺をげんなりさせる。
何故なら、俺はさっきから『何か脱獄できるような切っ掛けは起きないだろうか』などと、ずっと考えているからだ。
正直、何かそういうきっかけが無いと、脱獄など不可能な気がするのである。
しかし、悲しいかな。飯を持ってくる奴も現れなければ、牢にぶち込まれる奴すらいない。そんな静かな牢獄なのだ。
そして俺はこの状況の中、飽きもせずにまた同じような事を考えるのである。
いつまで、こんな牢獄にいる事になるのだろうかと。
数日、いや数カ月……ヘタすると数年は出所できない可能性だってある。
でも流石に、そこまで獄中にいるわけにはいかない。
俺だって早く日本に帰りたいし、まだやりたい事や、やらねばいけない事が沢山ある。
こんな所とは、とっととオサラバしたいのだ。
しかし、その為には西修寺との唯一の接点である、あのスーシャルの聖域とやらに、一刻も早く向かわなければならない。
だがそうは思うものの、事態は一向に進展しない為に、焦りと苛立ちばかりが積もるのである。
やはり、何とかして脱獄するしかないのか……。
そんな事を考えていた、丁度その時だった。
【――ゴゴゴゴゴゴ――】
突然、建物全体が揺れるくらいのそれなりに大きな振動が、この牢獄に伝わってきたのだ。
俺は何事かと思い、同じく床に座っているヒロシとニーダへ視線を向けた。
すると2人も、俺と同様に驚いたような表情を浮かべていた。
俺は暫し無言で様子を見る。
真上にある天井からは、無数の埃がパラパラと落ちている。崩れてこないかが心配だ。
因みに、俺が体験した地震の揺れを参考に比較するならば、多分、震度4といったところだろうか。とにかく、そのくらいの揺れであった。
日本の場合、この程度の地震は結構頻繁にあるので、俺はそれ程驚かなかった。
なので、その内治まるだろうと思っていたのだが……。揺れは一向に治まる気配を見せなかったのである。
もうかれこれ1分程揺れているのだ。
何かおかしい……。
そう思った俺は2人に言った。
「な、なぁ。こ、これは地震か? 何か知らんけど、長くね?」
ヒロシとニーダは顔を見合わせる。
するとニーダが、やや鋭い目つきになって、こう言ったのだった。
「いや、この揺れ……。これは、普通の地震とは違うな……」
「ど、どういう事?」と俺。
続いてヒロシがニーダに問いかけた。
「もしやニーダ、大地の魔精気(ジーマ二)に何らかの変化を感じたのか?」
ニーダはゆっくりと頷くと言った。
「ああ、そうだ。この揺れが始まってからだが、異様な魔精気が感じられるようになってきたのだ。しかも、この魔精気の感じは……邪悪な気配に感じる」
ヒロシは慌てた様に、勢いよく立ち上がると言った。
「本当か……。ガラヌスの俺にはフェーネス族ほど魔精気に敏感ではない。ニーダ、因みにそれはどの辺りから感じられる?」
するとニーダも立ち上がる。
それから右の壁の方へと移動して、床に視線を向けたのであった。
そこでニーダは口を開く。
「恐らく、この異様な魔精気の出所は、このずっと斜め下からだ。……この方角はアストランド城最下層になる。つまり聖廟だ」
「なんだと……。では、元、王宮顧問聖学師のオーベル学師が言っていたように、封印されているのは守護聖霊ではなく、マリスが生み出した破滅の六化身説の可能性もあるという事か?」
ヒロシはやや驚きつつも渋く低い声でそう言うと、困ったように、大きく息を吐いて腕を組んだ。
ニーダは言う。
「まだ何とも言えないが、その可能性は大いにあるだろうな。この邪悪な魔精気は私の感覚からすると、とてもではないが、アストランドを守護するものが発するとは、到底思えない」
俺は2人の会話の意味がさっぱり分からん。
王宮顧問聖学師とか、破滅の六化身とか言われてもサッパリだ。
だが、破滅の六化身という言葉からは、最悪の響きしかしない。
多分、碌な六化身じゃない筈。……言っておくが、これは洒落ではない。
分からんので、とりあえず、聞いてみる事にした。
「な、なぁ。あのさぁ、聖学師とか破滅の六化身説とかって何?」
すると2人は同時に、俺へ振り向く。
そしてヒロシがまず口を開いた。
「確かに、ソースケは知らないだろうな。いいだろう、説明しよう。まず聖学師というのは、後世に伝える為に聖者スーシャルの歴史を紐解く学術的探究者の事だ。まだまだスーシャルの事については、色々と分かっていない事も沢山あるんでな。まぁ一応そう考えておいてくれ」
「ふぅん、考古学者みたいなもんか」
ヒロシは続ける。
「で、破滅の六化身説だが……。ソースケにもさっき言ったが、六つの守護国に伝わるスーシャルが記した古文書には、六つの守護聖霊が各王城に封印されていると伝わっている。だが、これに異論を唱える聖学師が極僅かいるんだな。で、それが、守護聖霊を封印したのではなく、マリスが生み出した破滅の六化身を封じたのではないか、という説なんだよ。これらは数も同じだしな」
とりあえず、今の話を簡単に纏めると。
味方を封じてあると思ったら、敵が封じてあった。
何を言ってるか分からねェと思うが、早い話が封印を解くと墓穴を掘ることになる。つまりそういう事だ。こいつぁグレートだぜぇ。
なんて言ってる場合じゃない。
ヘタすると、某国民的RPGの六作目にあった、最強の悪魔の手を借りようとしたら、逆に、悪魔に滅ぼされた国みたいなパターンになる可能性があるのだ。
背筋に走るモノがあったので俺は言う。
「ちょ、ちょっと待てよ。じゃ、じゃあ、封印を解くと、とんでもない事が起きるんじゃないのか?」
するとニーダは、聖廟とやらがあると言っていた方向を見ながら言うのである。
「ああ、そうだな。……だが、もしそうなら、聖者スーシャルの記した古文書にそう記されている以上、聖者スーシャルが嘘を書いたことになる。だから、俺としては古文書を信じたい。……だがこの魔精気は、守護するものの魔精気にしては、かなり邪悪なものだ」
俺とヒロシは無言でニーダを見詰めた。
しばらくその状態が俺達の間に続く。
因みに、まだ地震は収まってはいない。もうかれこれ10分以上ずっと揺れが続いているのだ。
ここまで長いと、普通の地震ではないというのは、俺にも何となく分かっていた。
またそう考えると共に、何故か知らないが、非常に嫌な予感もするのである。
そんな中、ニーダは言った。
「もしオーベル学師の言う破滅の六化身説が正しかったならば……。封印を解いたことによる被害はアストワール、いやもしかするとイシェンドラの地にまで及ぶかもしれん。そして、このアストランドが厄災の中心地になるかもしれない」
ニーダの言葉が俺とヒロシに重く圧し掛かる。
そして俺は物凄くテンションが下がり始めたのだ。
何故なら、もしそうなった場合は、生きて日本に帰れないかもしれないからだ。
はぁ、今になって思う。
あの時言われた古美術商の話なんか、スルーしとけばよかったと。
でも今更、そんな事を言ったところでもう遅い。後悔先に立たずという奴だ。
またそう考えると、更に気分が沈むのである。
だがその時だった。
【ウ、ウワァァァァ!ウゲォ!……】
突然、この牢獄に悲鳴が響き渡ったのだ。
悲鳴は男の声であった。しかも近い。
俺達3人は、すぐさま鉄格子に近寄り、悲鳴が聞こえた階段のある方向に視線を向けた。
そして俺達3人は驚愕したのだ。
今、俺の視界には信じられないモノが映っていた。
俺を驚愕させたもの。
それは、蝙蝠の様な羽を生やした真っ黒な人型の化け物だった。
だがしかし……。
人と同じような体型ではあるが、俺達とは到底似ても似つかない悍ましい姿をしていた。
その姿であるが。
まず化け物の顔は、人の顔を少し干からびさせた様な感じで、不自然な皺が多く走っていた。
そこに赤い目と、肉食獣のような牙が生える裂けた口があるのだ。
頭は丸坊主で、顔と同様、不自然な皺が沢山走っている。
また身体には服や防具といった物は着ていない為、黒い身体が剥き出しになっているのである。
勿論、身体にも顔や頭と同様に、不自然な皺が沢山走っていた。その為、一見すると、身体全体の表皮の皺が、歪な鱗のようにも見えるのだ。
それともう一つ、目に付いた特徴がある。
それは化け物の手や足に生えている、物凄く鋭利で長い爪であった。
化け物の爪は、まるで鉤爪のような形状をしており、見るからに危険な雰囲気を放っているのである。
そして、今正にその手の爪を用いて、化け物は牢番の男の首を突き刺している最中なのであった。
牢番の喉元には、化け物の鋭い爪が深く食い込んでおり、椅子に座りながらピクピクと手足を痙攣させていた。
誰が見ても、もう息絶える寸前であるのは容易に分かる状況だ。
俺は初めて人が殺される様を見て、言葉を失うと共に、呆然と立ち尽くしてしまった。
だが次の瞬間、俺はもっとショッキングな光景を目の当たりにしてしまうのである。
その光景とは……化け物が、牢番の男を食べ始めたのだ。
牢番の首筋に化け物はかぶりつくと、ローストチキンを食いちぎるかのように肉を引き裂いた。
肉が千切れると同時に、周囲には牢番の鮮血が飛び散る。
そして瞬く間に、牢番の男のいる辺りの床は、傷口から溢れ出す血で、真っ赤に染まっていったのである。
化け物の一連の行動を見た俺は、恐怖のあまり、膝がガクガクと震えだす。
それと共に、脈打つ鼓動も段々と早まりだした。
おまけに、口の中はもうカラカラに乾いた状態になっているのだ。
だが化け物は、そんな俺などお構いなしに牢番を食べ続ける。
化け物が口を動かすたびに、クチャクチャと嫌な音が聞こえてきた。
そして俺は、その凄惨な現場を見て、ただただ震えているだけなのであった。
と、その時。
ヒロシが小声ながらも、落ち着いた口調で話し始めたのである。
「……下等な部類だが、あれは死の使いの一種だ。だが何故だ? 何故、スーシャルの守護結界に守られている、このアストランド城に死の使いが……。とにかく不味い、奴に気付かれる前に奥の壁へ行くんだ。今はこの鉄格子がある分、奴も俺達には手を出しにくい筈」
俺とニーダはヒロシに頷くと、後退りながら奥の壁に移動を始めた。
たった5m程ではあるが、物凄く長い距離に感じる。
だが奥の壁付近に来た時だった。
「ウワッ」
俺は、藁束に足を取られて転倒してしまったのだ。
それと同時に、自分が今とんでもない事を仕出かしたことに気付く。
俺は慌てて両手で口を覆ったが、もう既に時は遅し。
【キィイィ】
化け物のものであろう甲高い鳴き声が、さっきの方向から聞こえてきたのである。
俺は即座に起き上がると、ヒロシとニーダの隣に移動する。
そして鉄格子の方へ視線を向けた。
しかし、化け物の姿は、まだそこにはなかった。
だが鉄格子の前にある通路床には、徐々に迫り来る化け物の細長い影が、松明の影響で揺らぐように伸びていたのである。
俺は生唾を飲み込みながら、その迫り来る影を注視していた。
そして程なくして、化け物が鉄格子の前に姿を現したのである。
化け物は奥の壁にいる俺達3人を暫しガン見していた。
だが10秒程すると、化け物は目の前の鉄格子を掴み、突如、奇声を上げたのだった。
【キィィィアァァ】
コイツは鉄格子をガタガタと揺らして、取り払おうとする仕草をする。
だが鉄格子はビクともしない。
恐ろしい形相で吠えてはいるが、鉄格子をどうにかするほどの力は無いようだ。それとどうやら知能も低そうである。
俺は少しだけホッとした。
だが、事態は一向に好転はしない。
寧ろ、俺が入所した時よりも悪い状況だ。
これから一体どうなるんだろう……。
不安になった俺はヒロシとニーダに視線を向ける。
すると、丁度そこでニーダが口を開いた。
「わかったぞ……。なぜ、このアストランド城に死の使いが入ってこれたのかが……」
「本当か、ニーダ?」とヒロシ。
ニーダは頷くと言った。
「ああ、理由は、この城内から発している邪悪な魔精気だ。これがスーシャルの施した守護の力を中和させているのだ。だが、俺が気になるのはもう一つある」
ヒロシは首を傾げつつ聞いた。
「……もう一つ? なんだそれは?」
「イローシ、妙だと思わんか? 邪悪な魔精気が漂いだした途端に、この死の使いだ……。あまりに早すぎる。こうなるのが分かってないと、この地下牢のような城内の奥深くには、こんなに早く降りてこれない」
それを聞いたヒロシは、腕を組み、目を鋭くすると言った。
「……という事はつまり、宰相達はジャミアスに騙されていたという事か?」
「ああ、その可能性があるな。胡散臭い奴だとは思っていたが、恐らく、奴はこうなることを知っていた気がする。そしてもう聖廟では、取り返しのつかないところまで来ているのかも知れん」
ヒロシは言う。
「となると、ジャミアスは死の使いと接触できるという事になる。ニーダはどう思う?」
ニーダは目を閉じて無言になる。
何かを考えてるようだ。
暫くするとニーダは目を開き、口を開いた。
「これは私の勘だが……。奴自身が死の使いなのかもしれん。だがその場合、聖廟で復活するのは破滅の化身であろうな」
「……だな。俺もそう思う」とヒロシ。
俺はニーダとヒロシのやり取りを聞き、今が最悪な状況に向かっているという事を認識させられた。
どうやら、このアストランド城は、今かなりヤバイ事態のようだ。
俺、ここで死ぬかもしれん……。
などと考えていたその時だった。
【ヴァギャァァァ】
突然、断末魔の悲鳴のようなものが、目の前から聞こえてきたのだ。
俺達はハッと化け物に視線を向ける。
すると其処には、金色の鎧に身を包む見た事ある男が、赤い光を纏う両刃の剣で死の使いを切り裂いていたのである。
死の使いは男に切り裂かれるなり、体が崩れてゆく。
最後には灰になって降り積もり、その場に小さな灰の山を形成したのだった。
切り裂いた男は、赤い光が消えて普通の刃に戻ったところで、剣を鞘に戻す。
そして俺達に向かい口を開いた。
「無事であったか、イローシ隊長とニーダ隊長。お主達、女王陛下直属の近衛騎士隊長の力も借りたい。さ、此処を出るぞ」
するとヒロシとニーダは、丁寧な所作で頭を下げると言ったのである。
「お久しぶりでございます。バディアン将軍」と――
[2] ―― 出所 ――
ヒロシとニーダは、俺を拉致したオッサンに、丁寧に頭を下げて敬礼をした。
2人は今、バディアン将軍と言ってたので、恐らく、バディアンというのがこのオッサンの名前なのだろう。で、役職は将軍と。
この将軍という言葉から連想するのは、軍部の総大将といったイメージしかない。
今のヒロシやニーダの所作を見た感じだと、多分、そういった意味合いで間違いない筈だ。
俺は思った。
よりによって、こんな役職の人間に拘束されてしまうとは、と。
日本警察に例えるならば、警察庁長官に逮捕されるといった感じだろうか。とにかく、とんでもない人に拘束されてしまったもんである。
だが意外だったのは、ヒロシとニーダが女王直属の近衛騎士隊長という事であった。これが一番ビックリしたのだ。
この2人は、結構な肩書を持ってらっしゃる方々だったのである。
見ただけでは分からんもんやなぁ……などと思っていた、その時。
階段のある方角から、茶色い鎧を着た人間の兵士が1人現れたのだった。因みにこの兵士は、俺を連行してきた奴だ。拉致実行犯勢揃いである。
まぁそれはとにかく。
その兵士は、俺達のいるこの牢の鍵を解錠すると扉を開いた。
扉が開ききったところで、オッサンは言う。
「さ、両名共、こちらに来るのだ。今、アストランド城内は、かなり危険な状況となっているのでな。手を貸してほしい、イローシ隊長にニーダ隊長」
2人は頷くと出口へと歩み始める。
どうやら、この流れだと俺は1人ぼっちになりそうな雰囲気だ。
オッサンの口振りだと、出所させてもらえるのは、この2人だけのようだし。
……なんかそう考えた途端、凄く心細くなってくるのであった。
俺はションボリと2人の後ろ姿を見送る。
だがその途中、ヒロシが俺へと振り向いたのである。
5秒程ではあるが、俺を見たヒロシは、オッサンに向かい口を開いたのであった。
「……バディアン将軍。この者はどうされるのですか?」
ヒロシの言葉を聞いたオッサンは、俺に視線向ける。
そして俺と目があった。
相変わらず、鋭い眼光だ。とはいっても、初対面の時みたいな威圧的な目付きではないが。
オッサンは俺を暫し見るとヒロシに言った。
「そういえばこの男がいたな。この男は、スーシャルの聖域へ無断で侵入した不届き者だ。だが、どうであった? 私はあまりにも怪しかったので、お主達のいるこの牢に放り込んだのだが。何かおかしな素振りは見せなかったか?」
ヒロシは頷くと口を開いた。
「バディアン将軍。この男は多分、女王派でもなければ宰相派でもありません。なので、それほどお気になさらぬ方が良いかと。それに、悪さするような奴にも見えませんでしたので、釈放してあげたらどうでしょうか?」
続いてニーダも言った。
「私もそう思います。聖域に入ってしまったのは、恐らく、道にでも迷ったのでしょう」
2人の言葉を聞いたこのオッサンは苦笑いを浮かべる。
そして俺を一度チラッと見てから言うのであった。
「フッ、お主達がそこまで言うなら、私も信用しよう。……分かった釈放してやろう」
オッサンは俺に言った。
「オイ、お前。もう牢から出ても良いぞ。イローシ隊長とニーダ隊長に感謝するんだな」
「へ? は、はひ」
俺は唐突な展開だったので、気の抜けた返事をしてしまった。
とりあえず、ヒロシとニーダのお蔭で、俺は牢から出れることになったようだ。オッサンの言うとおり、2人に感謝である。
というわけで俺は早速、ヒロシとニーダの後に続いて、この牢を出る事にした。
そして牢を出たところで、ヒロシとニーダに礼を言ったのである。
「ありがとう、ヒロシにニーダ。俺の為に便宜を図ってくれて」
ヒロシは言う。
「まぁそう気にするな。だが、もしかすると、この中にいた方が良かったかもしれないがな」
「へっ、どういう意味?」
するとそこでオッサンが口を開いた。
「決まっておろう。この城内は今、修羅場と化しつつあるということだ」
オッサンはそう言った後、上を指さすと2人に言った。
「では時間が惜しい。イローシ隊長とニーダ隊長は、この私と共に1階・水竜の間の先にある聖廟へ一緒に来てほしい」
ヒロシとニーダは互いに頷く。
次にオッサンは、もう1人いる茶色の鎧を着た兵士に言った。
「それと警備兵長。1階の第5魔精術師団の詰所に行って、この男に彼らが良く使う灰色のローブでも与えてやってくれ。それで多少は、死の使いに気付かれにくくなる筈だ。それからこの男を城外に案内してやってくれ」
「ハッ畏まりました」
兵士は背筋を伸ばしてハキハキと返事する。
そしてオッサンは言った。
「よし、では行くぞ」
【ハッ】
俺を除いた3人は意気揚々と返事をする。
というわけで俺は、これからその第5魔精術師団の詰所に行って、ローブを貰いに行くことになったのであった。