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イシェンドラ  作者: 股切拳
   ~ 隠者のいざない ~
14/15

EP14 七番目の眷聖

 [1]  ―― ジャミアス ――



【……どこまでも小賢しい眷聖グラムドアの末裔どもよ……調子に乗るのはそこまでだッ! 我が滅びの黒焔の力で消え去るがいいッ!】


 怒声を上げたジャミアスは、右の拳を真上に突き上げる。

 その瞬間。

 奴の身体から噴き出している黒焔は、竜巻のように螺旋を描きながら、凄い勢いで上空に巻き上がったのだ。

 巻き上がった黒焔は、次第にジャミアスの頭上で収束してゆき、黒く燃え盛る巨大な蛇へと変貌を遂げ始める。

 そして生み出された黒焔の大蛇は、上空で大きく蛇行を繰り返しながら、ジャミアスの頭上で蜷局を巻くかのように回り始めたのである。

 だが変化があったのは、この黒焔の大蛇だけでは無い。

 大蛇を出現させたジャミアスは、突如、【グォォォ!】という雄叫びを上げながら、力を増幅するかのように体を震わせはじめたのだ。

 またそれに伴い、黒焔の大蛇もより大きな蛇へと成長を始めたのである。

 俺はこのジャミアスの動作を見て思った。

 奴のこの気合の入れようは、俺達を一辺に葬り去る為の動作である気がすると……。

 と、その時である。

 身体を震わせるジャミアスは、俺達の恐怖心を煽るかのように、幾分低い声色でオドロオドロしく話し始めたのであった。

【……我がモディアスの力を退けられる唯一の聖法武具サリュア、水星の器・スファディータは今や我が手中。始源七星ウェアルソーサの器を持たぬ眷聖サーラの末裔なぞ、何の脅威でもありませんが、万が一という事がありますからね。眷聖の血統は根絶やしにしてやりますよ。クックックッ】

 ジャミアスはそう告げると、不気味に噛み殺したような笑い声を上げたのであった。

 そして俺は、今のジャミアスを見るなり、嘗てないほど背筋に寒いモノが走ったのである。

 何故なら、俺の人生で経験した中でも断トツのヤバさを、あのジャミアスという奴から感じたからだ。

 恐らく、この恐怖心は本能的なモノなのかもしれない。

 またそれと共に俺の足腰は、奴から発せられる圧倒的な威圧感で、ガクガクと震えっぱなしなのである。

 隣のエルに目を向けると、俺以上にジャミアスに対して怯えて震えていた。

 無理もない。男の俺でさえ、こんな感じなのだから……。

 だがその時だった。

 ジャミアスではなく、俺達の中から動きがあったのだ。

【ウァ…ヒィィィィィ!】

 青いローブを着た魔精術師2名が、悲鳴のような雄たけびを上げて、聖域の出口へ全力で駆けだしたのである。

 その刹那。

【逃がすかッ】

 上空のジャミアスは、逃げる魔精術師達に向かい頭上の大蛇を放ったのだ。

 黒焔の大蛇は、獲物を狙うかのように、物凄い早さで飛び掛かる。

 そして魔精術師達は悲鳴を上げる間もなく、あっという間に、黒焔の大蛇に飲み込まれてしまったのであった。

 魔精術師達を襲った黒焔の大蛇は、役目を終えると、すぐにジャミアスの所へ戻ってゆく。

 だが次の瞬間……。

 俺は全身に悪寒が走ったのだった。

 何故ならば、魔精術師達がいた場所には、黒い灰の山しかないのである。

 黒焔を浴びた2名の魔精術師達は、一瞬で灰となって消えてしまったのだ。

 俺は今の恐ろしい力を目の当たりにするなり、身体全体から嫌な汗が噴き出した。

 またそれと共に、恐ろしき黒焔の威力を見た俺は、震えが止まらない程、ジャミアスに対して恐怖したのである。


 魔精術師をあっさり葬ったジャミアスは、愉快に笑いながら俺達に言った。

【クックックッ。無粋な真似は慎んで下さい。折角私が、アナタ方全員をまとめて、一緒に消してさし上げようと努力してるのですから、少しは待ってもらわないと困りますよ。これでも気を使っているのですから、感謝してください。クックックッ】

 この言葉を聞いた全員が、青褪めた表情になっていた。

 勿論、俺もである。

 相手は化け物の上に、頭も病んでそうな奴だから、もはや最悪な状況である。

 その為、俺は脳内で怯えると共に叫んだのであった。


 ――今度こそ、確実に終わりだ……。

 ア、アレは漆黒の戦士なんか目じゃないくらいにヤバい。

 何なんだよ、あの黒い炎は。

 襲われたら一瞬で灰になるんて最悪じゃないかッ。

 あんなの成す術なんて無いッ。

 あんな理不尽な力が、何で存在するんだよ。

 まだやりたい事が一杯あったのに。なんで、こんな事に……。

 しかも、なんでこんな所で、こんなバケモンに殺されなアカンのじゃァァァ――


 俺は半泣きになりながら脳内で絶叫していた。

 今の俺はそんな嘆きの言葉しか出てこない、半ば恐慌状態に陥っているのである。

 だがその時。

 あの声がまた聞こえてきたのだ。

《……ソーサリュオンの継承者よ。1つ聞きたい……》

 俺は震えながらも返事をした。

「な、な、何だよ?」

《そなたは助かりたいか?》

 この謎の声は事もあろうか、こんなバカげた質問をしてきたのだ。

 さすがの俺も頭に来たので、怒りを込めて言ってやった。

「あ、当たり前だろッ。誰が好き好んで、こんな化け物に殺されなアカンのじゃ! つーかお前、誰なんだよッ。さっきから、わけワカンネェ事ばっか言いやがってッ」

 だが謎の声は、俺の心理状況なぞお構いなしに、冷静な口調で答えた。

《ならば、1つ頼みがある。私が長年蓄えた魔精ジンは、そなた達を助ける為に、先程、殆ど使ってしまった。今のこの状況を打破する為には、そなたの魔精ジンがどうしても必要なのだ。使わせてくれまいか?》

「はぁ? 何言ってんだ、お前。俺の魔精を使わせろだッ? 何のことだよ一体」

 俺は頼みごとの内容が意味不明なので、逆に聞き返す。

 だが謎の声は、そんな俺を無視して2つの選択肢を示したのであった。

《……説明している時間はない。そなたの魔精を使わせてくれるか、くれないかを聞いている。どうなのだ?》

 遠慮なく言う謎の声にムカついたが、俺は1つだけ確認をする事にした。

「つ、使わせなかったら、どうなるんだよ?」

 すると謎の声は、間髪入れずに、アッサリとした口調で答えたのだ。

《この国はお前諸共、確実に滅亡する》と。

 俺は思った。

 選択肢が1つしかないィィィィィィッ……。WRYYYYYY。

 と、その時。

「ソースケさぁん……」

 隣にいるエルが、弱々しく俺の名を呟きながら、潤んだ目で俺を見ていたのだ。

 そして俺の左手を両手で掴み、すがるような表情で見詰めてきたのである。

 多分、俺が独り言を言ってるのを見て、謎の声と会話していたと思ったのだろう。

 こんなエルを見てしまったら、流石に保護してやりたくなってくる。

 あまりにもか細い声だったので、余計にそう思ってしまうのだ。

 はぁ……仕方ない。……やるしかないか。

 とりあえず俺は、最後にもう一度だけ尋ねた。

「この状況を打破できる確率はどのくらいだ? それと、魔精を使う事によるデメリットは何? あるんだろ、そんな聞き方するくらいだからさ」

《奴を撃退できるかどうかは分からない。しかし、奴は復活したばかりであり、尚且つ、私が強化した守護結界の影響で、この聖域ではモディアスの力を完全には操れぬ筈。そこが唯一、我々に利がある部分だ。だが、そこを考慮したとしても、確率を言うなら五割といったところだろう》

「五割かぁ……」

 俺はガッカリしながら呟く。

 謎の声は俺を無視して続ける。

《それと魔精を使う代償だが。そなたの未熟な魔精を使う事で、数日間、そなたは目を覚ます事はないだろう。だが死の心配はない。そこは安心してほしい。……さて、決めてもらおうか》

 この謎の声が淡々と話す重い内容に、俺は腹が立ちっぱなしだ。

 だが、最早迷っている時間はない。

 俺は諦めたように項垂れると、ボソッと呟くように返事をしたのだった。

「……分かったよ。俺の魔精とやらを使えばいい。だがな、五割なんて言わず、十割になるように努力してくれよな。俺はこんな所で死にたくなんかないんだ」

 すると謎の声は、若干、感謝したような口調で言った。

《すまぬ……ソーサリュオンの継承者よ。そして、事態を打開できるよう、最大限の努力をしようぞ》と。

 そしてその直後。

 俺の身体は早速、声の主に操られて、宰相達のいる方へと向かい歩き始めたのであった。



 [2]  ―― 聖域での決戦 ――



 俺の身体は脇目もふらずに真っ直ぐ、宰相達のいる方向へと歩を進めていく。

 上空ではジャミアスが力を溜めており、その頭上にて渦巻く黒焔の大蛇も、更に大きなモノへと変化していた。

 俺はそれを見るなり、背筋にゾゾッと何かが走った。が、俺の身体は構わずに進み続ける。

 程なくして俺の身体は、ジャミアスに怯え続けている宰相達の所に到着した。

 だが俺の身体はそこで止まらず、宰相達の間をそのままスッと通り過ぎていったのだ。

 謎の声の目的地は、此処ではないという事なのだろう。

 だが通り過ぎる途中、宰相が慌てて俺に声を掛けてきた。

「お、お前……ど、何処に行くッ。な、何をするつもりなのだッ?」

 俺の身体は、そんな宰相の言葉を無視して、真っ直ぐ歩み続ける。

 そして宰相達の所から、やや離れたある場所で、俺の身体は立ち止まったのだ。


 なんとそこは、ジャミアスが上空から見下ろしている、真下付近であった。

 俺の身体は、よりにもよって、そんな危険な場所で立ち止まったのである。

 暫しの間、静かな時間が過ぎてゆく。

 今になって気付いたが、ずっと揺れ続けていた地震も、何時の間にか治まっていた。

 多分、このモディアスとかいう化身が復活したからだろう。

 などと考えていたその時。

 ジャミアスは、真下にいる俺を眺めながら、静かに話し始めたのであった。

「ほう……今の黒焔の力を見た後で私に近づけるとは、中々、勇気のある方です。第5魔精術師団の中にも、貴方の様に度胸のある者がいたのですね。褒めて差し上げましょう。クックックッ」

 ジャミアスはそこで不気味に笑うと、演説を続ける。

「ですが……気に入りませんねぇ。私はね、力無き者が強者に刃向う無謀な姿に、虫唾が走るのですよ。貴方のように、第5魔精術師団程度の力無きゴミが、この強大なモディアスの力に向かってくるというのは、まさしく無謀という物です。良いでしょう……そこまでして死にたいのなら、貴方から始末して差し上げましょう」

 しかし、ジャミアスが話している最中。

 俺の口は、何かの呪文のような言葉を唱えていた。

【ウーオ・オデ……リーキニ・キテン・ブーブテ……】――

 だがそれは奴には聞こえない程、小さな詠唱であった。

 そして俺の口が小さく詠唱を続ける中、ジャミアスは声高に言ったのである。

【力無きゴミは、今すぐ消えるがいいッ! 目障りだッ、死ねェ!】

 その瞬間。

 あの黒焔の大蛇が俺に襲い掛かったのだ。

 俺は呆然と、迫り来る黒焔の大蛇を見詰めていた。

 だが丁度その時。

 ――【……アガン・ヴィースノ…ウユ・チキータ……スファディータ】

 俺の身体は、呪文を唱え終えると共に、両手を真上に掲げたのである。

 そしてその直後!

 七星法転輪ソーサリュオンが青く美しい輝きを発し、俺を中心にして青白い霧を発生させたのであった。


 この青白い霧は波紋のようなモノを浮かび上がらせて、俺を中心に、聖域の大部分にまで広がってゆく。

 それはまるで、青く澄んだ美しい海で波うつ、穏やかなさざ波を思わせる神秘的な現象であった。

 黒焔に襲われようとしている事すら忘れてしまうくらいに、神秘的な……。

 その為、俺はこの夢の中に出てくるような光景に、一瞬、目を奪われたのであった。が、それも一瞬の事であった。

 そのすぐ後に、恐ろしい現実がやってきたのである。

 何故なら、黒焔の大蛇は、もう俺の目の前に来ていたのだ。

 だがしかし……黒焔の大蛇は俺に到達する事なく、この青白い霧に掻き消されて消滅したのであった。

 まるで深い霧の中に向かってゆく、列車の様に……。

 それを見たジャミアスは、すぐさま声を張り上げた。

【なッ、滅びの黒焔の力を退けただとッ!】

 するとそこで、俺の身体は、間髪入れずに呪文を唱え始めたのである。

【ワーウィータ……ヨーノ・リト・モーレオ・アジュナーム】

 そして詠唱を終えると共に、俺の身体全体に白い光が纏い始める。

 その次の瞬間。

 なんと俺の身体は、真上上空にいるジャミアスに向かって、垂直に飛翔したのであった。

 俺は脳内で思わず叫んだ。


 ――と、飛んでる……。俺、今……空を飛んでいるゥゥゥゥゥ!――


 ジャミアスは予想外だったのか、慌てたように言う。

【なッなんだとッ!】

 俺の身体は、真上にいるジャミアスのところまで意表をついて飛翔をする。

 そしてジャミアスよりもやや上の位置まで飛翔したところで、俺の身体から白い光が消えたのだ。

 その途端、万有引力の法則が俺に働き、身体は自然に落下を始める。

 だが落下しながらも俺の口は、何回か聞いたあの呪文を、素早く唱えたのであった。

【スーデン・ケーナ・イータ・ミ・アバーセ・ト・イーラ・ラドラム】

 唱え終えると同時に、光の剣が右手に出現する。

 その刹那。

 俺の身体はジャミアスと至近距離で、擦れ違い始めたのである。

 と、その時。

 ジャミアスは俺に向かい何かを言いかけた。

【き、貴様は……何……】

 だが俺の身体はジャミアスの言動には構わず無視する。

 そして擦れ違いざまに、出現した光の剣をジャミアスの左肩から胴体へと、袈裟に斬りつけたのだった。

【ウグッ オノレェェ!】

 するとジャミアスは叫ぶと共に、斬られる瞬間、大きく仰け反った。

 その為、光の剣は奴の胴体には届かず、左腕だけしか斬れなかったのだ。

 だがその瞬間。

 左腕が切り落とされると共に、ジャミアスが抱えていた銀色の箱のようなモノも、地面へと落下したのである。


 箱と共に俺の身体も、地面へと勢いよく落下する。

 だが俺の口は落下の最中に、飛翔の呪文を即座に唱えたのだった。

 そして唱え終えると、またあの白い光が、俺の身体を覆い始めたのである。

 白い光が俺の体を覆うと共に、落下速度も緩やかになってきた。

 そして、フワリと羽が舞い落ちるかのように、俺自身も地面にゆったりと降り立ったのであった。


 俺はたった今経験した、物凄い一連の出来事に、言葉がでてこなかった。

 また、この七星法転輪ソーサリュオンという腕輪の秘めた力についても、理解不能であったが、その凄まじい能力に驚愕させられたのである。

 そして俺は脳内で、一言、こう呟いたのであった。

 な、な、なんちゅう腕輪だ……規格外すぎるやろ、と。

 だが俺は、今の一連の内容を思い出すと共に、至近距離で擦れ違いざまに見たジャミアスにも恐怖したのだった。

 それは何故か……。

 俺が擦れ違いざまに見た、奴の顔を覆うフードの隙間からは、深淵の暗闇以外、何も見えなかったのだ。

 そして何故か分からないが、そのどこまでも続いていそうな深い闇が、俺自身を吸い込んでしまいそうに感じたのである。

 だから俺は奴に対して、得体の知れない恐怖心を抱いたのだ。

 はっきり言って、もう金輪際関わりたくない相手である。

 だがまだ戦いは終わっていない。

 その為、今はそれをなんとか考えないようにし、上空のジャミアスへと意識を向けたのであった。



 [3]  ――  七番目の眷聖 ――



 俺が地面に降り立った直後。

 上空から呻き声のようなモノが聞こえてきた。

【ングゥゥゥゥ……】

 声は勿論、ジャミアスからであった。

 ジャミアスは斬られた左腕部分を、右手で押さえながら呻いていたのである。

 するとジャミアスは、俺を見下ろしながら、若干苦しそうに話し始めたのだ。

【グゥ……わ、わかったぞ、貴様の正体がッ! 黒焔を退けた力や、先程見せてもらった力の数々。そして何故、スーシャルの守護結界が操れたのかも……。どうやら私は、貴方に対して、大変な思い違いをしていたようです。第5魔精術師団のローブを纏っていたので、すっかり騙されてしまいましたよ。そして、ガルナを倒したのも、どうやら貴方のようですね】

 ジャミアスはそう言った後、身体を震わせる。

 そして【ガァァァ!】という奇声を発すると、斬られた左腕を再生させたのだった。

 俺はジャミアスの腕を見るなり、少し引いた。

 何故なら。腕が影のように真っ黒だったからである。

 いや、もしかすると周囲に蠢く黒焔の所為で、そう見えるだけなのかもしれない。

 それはともかく、腕を再生させたジャミアスは続ける。

【私も数々の文献に目を通してきましたが……まさか……七眷聖ソーサーラの伝承が本当だったとは思いませんでした。私の持論では、七番目の眷聖は存在しないと思っておりましたのでね。ですが、先程の貴方を見た私は、持論を変更せざるを得ませんでした。少しショックでしたよ。……今日は本当に、想定外の事が続く日です。フゥゥゥゥ……】

 ジャミアスはそう告げると共に、大きく溜め息を吐いた。

 なんか知らんが、俺の存在を知ってガッカリしたようだ。

 だがジャミアスは、すぐに元の雰囲気に戻る。

 そして不気味な笑い声を上げながら、話し始めたのであった。

【クックックッ……まぁ良いでしょう。さて、ではここは一旦、引く事にしましょうか。第一の目的である、モディアスの封印は解くことが出来ましたからね。それに……貴方のような不確定要素が現われた以上、此処に長居するのは愚か者のする事です】

 と、そこでジャミアスは、今よりも上空へと浮上を始めた。

 だが10m程上昇したところで、一旦、奴は止まったのだった。

 そして俺達に振り返り、付け加えるように言ったのである。

【ああ、そういえばスファディータの事を忘れてましたよ。先程、地上に落ちたそのスファディータですが、私以外には解けない禁忌の封印を施しておきました。だから、しばらくはアナタ方に預けておきましょう。どうせ解くことは出来ないでしょうしね。ではこれにて失礼します……またいつかお会いしましょう、眷聖グラムドアの末裔と七番目の眷聖サーラ・リュオールの末裔よ!】

 ジャミアスはその言葉を最後に、更に上空へと上昇する。

 それからどこかへと向かって、勢いよく飛び立ったのであった。


 ジャミアスが去って行った後、この聖域は暫くの間、シーンと静まり返っていた。

 誰もがこの状況について行けず、頭の中で整理がついてないからだろう。

 とその時だった。

 俺の身体に自由が戻ってきたのである。

 俺は指先を動かしながら、身体の確認をした。一応、どこも異常は無いようだ。

 とりあえず俺は、命拾いした事にホッとした後、緊張を緩めると身体を反転させた。

 そしてエルや宰相達がいる方向へと振り向いたのである。

 だがエルや宰相達は、呆然と俺を見詰めていた。

 多分、衝撃的な展開が多かったから、まだ目が覚めてないのかもしれない。

 まぁそれはともかく、俺は彼らのところへと向かい、歩き始めたのだ。が、しかし……。

 俺はそこで意識が朦朧とし始めて、片膝を着く。

 またそれと共に、体全体に物凄いオモリを付けられたかのような錯覚を覚えたのであった。

 この突然現れた体調変化に、俺は脳内で呟いた。


 な、何なんだ、この物凄い疲労感は……。

 ううう、とてもではないが、立っていられない……。

 何か知らんが、ボーとしてきた。

 アレ? なんだ急に? 突然、真っ暗になったぞ。

 どうしたんだ、いきなり夜になったのか。なんで急に……。


 俺がそんな事を考えていると、こんな言葉が聞こえてきたのであった。


《そなたの魔精ジンを使わせてくれたお蔭で、この国の危機はとりあえず去った。礼を言う。ありがとう、ソーサリュオンの継承者よ》


 ――なんだまたアンタか……上手くいったんなら別にいいよ。つーか、ところで魔精って一体なんなんだよ。


《魔精とは、そなたの国の言い方で言うならば、霊力の事だ》


 ――はぁ霊力? 余計にわけわかんねえ……。というか、眠くなってきたよ。ふわぁぁぁ。


《今はゆっくりと休むがよい。また会おう、ソーサリュオンの継承者よ》


 ――はいはい、また後でねぇ……ムニャムニャ……。

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