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:西の偽善者と感情論

西の偽善者の話です。今回は、主人:男、従者:女。

男性主人が、今回、異質体質の持ち主です。



錯夜の回より、早めに終わる可能性が高いです。

西の空は曇っていた。

一台の黒バイクが、曇天の下の街を走っていた。バイクの運転手は若く、十代後半から二十歳といったところの青年だった。黒髪が混じった金色の髪には黒いヘアバンドがはめてあり、透き通る青い瞳の上には、黒い縁のゴーグル。黒いロングコートに、中には白いシャツを来て、足元もまた黒一色であった。

「…陰気な街だな。人がいねぇ……」

低い声音でそう囁くと、バイクの速度を落とす。すると後ろの方から足音が聞こえてくる。青年は振り返った。

「主人! 駄目です。こっち、誰もいません!」

女の子の声だった。長い艶のある黒髪に、赤黒い、闇のような瞳をもっている。青年に似た黒のロングコートを羽織り、ベルトでその上から締めているせいか、軸が細いボディラインがはっきり見える。足元はショートブーツで、黒いミニスカートの下は、見るに見とれる様な、すらりと長く細い、色白い足が露出していた。背格好から推定すると、歳は16、17ぐらいだろう。

「おぉ。ありがと。…なぁ、煉影(レンエイ)。ここは本当に滅んだ街じゃないのか…?」

煉影と呼ばれた少女は、辺りを見渡す。

「向こうの方には、人間らしい気配は一つもなかったです。ただこっちはどうでしょうか……。来る途中に、まだ新しいゴミが落ちていたから、恐らく誰かがいるんじゃ……」

「……ゴミ、か。……つかお前、寒くないのか? 足とか……」

美脚。まさにその通りの足の持ち主である煉影は、黒いコートの中で一際目立つ、自分の足をさする。

「私は平気ですよ。心配してくれて、ありがとうございます。主人」

「お付きが体調不良になっちゃまずいだろ。仕事の心配であって、お前の心配じゃない」

「相も変わらず、素直じゃないですね」

「……黙れ餓鬼が」

青年はバイクから降りて、周りを見渡した。空っ風が肌を刺し、止む気配はない。むしろ、止む方がおかしいというぐらいだ。故に、青年は警戒心を解かなかった。

「…………」

「…どうします? 家を一軒ずつあたってみますか?」

「どうすっかな…。それが一番良さそうだが………」

その時、青年の懐から、着信音が鳴り響く。素早く耳に通信機を付けると、マイクを口元まで伸ばす。

「はい。こちら西ブロック。ギド・ディス・エース。どなた?」

『やぁ、ギド。気分は良好か?』「なんだよ。お前かよ、錯夜」

通信してきた主は、逆方向の東方面を仕事場にもつ、東神錯夜だ。

「良好なモンか。天候のせいで、気分まで荒んじまう。そっちは晴れてんのか?」

『たまには、お天道さんも休暇をとってほしいモンだね。コート暑くてたまんないよ。煉影も元気…?』

「まぁな。相変わらず生意気だが。どうした? まさかそんな話する為に連絡してきたわけねぇよな?」

『鋭い。いや、実はさ。俺の方から連絡してくれって上司が。西方面のとある街に気をつけろって。確か、年中厚い雲に覆われて、風が止まない、人一人見かける事が、滅多にない街だってよ? ……なんでも、仕付けの悪いワンちゃんがいるらしい……?』

「仕付けの悪いワンちゃん……? まさか、記録しろってか?」

『意地悪な人だよなぁ。まぁ、頑張って。じゃ』

そこの会話で通信は切れた。錯夜に呼ばれた青年ギドは、耳から通信機を外し、溜め息をついた。

「あんの馬鹿。なにが頑張ってだ。勘に触る……」

「今の、錯夜さんのだったんですか!? 主人ずるい! 私も話したかったです!」

煉影はギドの腕に、自分の腕を絡め、ギドの身体を揺する。

「引っ付くな煉影…!」

「主人、なんで換わってくれなかったんですか!?」

「……!! おい、いい加減に……!!」

「主人!!」

「いい加減離れろ、Eカップ!」

その瞬間、煉影が片腕で胸を隠し、後ろに下げた足に力を込め、もう片方の手を拳に変えると、ギドの顔面にその拳を叩き込んだ。

「……!!?」

ギドは、軽く地面から浮き、後頭部から、地面に落ちて倒れる。

「な、なんで私のバストサイズ知ってんですか!!」

顔を赤面化させ、両腕で胸を隠す。ギドは後頭部と鼻を押さえ、上体を起こす。

「……こうでも言わねぇと、お前離れねぇだろ……!」

「…だから、どうして知ってんですか! 私が知りたいのはそこですよ!!」

「文句があんなら、南に行った馬鹿に言いやがれ!!」

「最っ低です、主人の馬鹿!!」

「お前それ以上馬鹿って言ってみろ! 今度はスリーサイズ暴露するぞ!!」

「主人、許可なく私、解放(リベレイション)しますよ!!?」

ギドは後退りした。煉影は構える。

「待て、煉影! く、来るな!!」

「個人情報暴露する、あの人も許せませんが、せめて…、この怒りの矛先をぉ……!!」

煉影は膝を軽く曲げると、ギドに飛び掛かり、胴に股がる。

「ぐわ……っ!? や、やめろ、煉影! お、俺は、じ、女性恐怖症で……!!!」

「知ったことじゃありません!! 主人、お覚悟ぉ!!」

ギドは、目を限界まで見開き、女性である煉影に太ももで胴を挟まれ、首に細い指が絡むという、今の状況に、鼓動はもはや、早鐘同然だった。

「…人か……?」

「「…………!!!?」」

首を絞めようとした煉影が、正面を向く。ギドはパニック状態になっていた為、身体が硬直し、動けなかった。

一方煉影は、自分の目の前にいる、者を見ていた。銀髪に、赤い瞳。白いシャツに黒いストレートパンツを穿いている、一人の青年が立っていた。

「……人。人か………。何ヵ月ぶりだ……。やっと餌が……!!」

すると青年の身体が、だんだん大きさを増していく。口がさけ、全ての歯が鋭くなり、髪がざわめく。やがて、その姿は、二足歩行の犬の姿に変貌した

「……主人…!!」

「…錯夜の忠告通りだな……。ありゃ、犬神だな……!!」

「旅の者。……その血肉、もらうぞ!!」


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