:東の大嘘つきと正義6
非常に展開が早いです。
「……存在、証明…?」
ラルクはまだ戸惑っている。錯夜は漸の顎を撫でながら喋る。
「そう。世間から外された君達に、自分達が生きていた証明を示す。故に、存在証明……。俺はそれが仕事なのさ。こんなチャンス、滅多にないぜ? それに、ヴァンパイア、ドラキュラ基吸血鬼のページには、更新の要請が丁度出ててね」
甘えた声を出す漸を一旦離すと、錯夜は黒刀の刃を、自分の腕に添える。
「それじゃ、探し物があるんで、少し……」
そう言うと、錯夜は刃を自分の腕に立てた。皮膚が破れ、肉が斬られ、その場に血が落ちる前に、錯夜はその手を振り払い、ラルクと向かってくる村民に向かい、血を撒き散らす。ラルクの頬に、血が飛び散った。
「………!!? 人間の血、…しまった!!」
錯夜は次に自分の太股を斬る。直ぐ様大量の血がその場に落ちる。ラルクの鼻の奥に、錯夜の血の匂いが入り込み、理性を失いそうになる。
「……もっと。もっとだ……」
「やめろ旅の人…!! それ以上は……!!!」
ラルクの後ろから、怒号が響き渡り、声の大砲をモロに受けた。後ろを振り向くと、正気を失った村民達がこちらに向かって走ってくる。
『生き血をよこせぇぇぇぇ!!』『血が、血がぁぁぁぁ!!』『人間の生き血ぃぃぃぃ!!』
もはや人の目ではなかった。理性を失いかけてるラルクも、その人の波に呑まれそうになり、震える。叫び声も喉まで出かかっている。それでも耐えた。
「……自分で傷を付けるの、めんどくさいな。……漸。蒼氷雨」
すると、漸の回りに蒼炎が現れ、錯夜の頭上に浮上。蒼炎は固まり、頭上から氷柱の如く、降り注ぐ。錯夜の頭は勿論、頬、肩、首、胸、腕と斬り裂かれていく。漸の攻撃が止むと、錯夜は駆け出し、ラルクの頭上を飛び越すと、村民達の真ん中に降り立った。
錯夜の身体に滴り流れる血は、村民逹の嗅覚を刺激した。血の匂いを漂わせる錯夜は、もはや血の固まりでしかない。村民達は牙を剥き出し、血眼をギラギラと光らせながら、飛びかかってきた。
『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
錯夜は黒刀を振るう。村民達の手足が身体に巻き付き、牙を立てられるが、峰の部分で気絶させ、または急所を外して斬り裂いた。
「………! まさかあの若造」
ラルクの父が声音を低くした。「この村の源を狙っているのでは……」
「……!?」
ラルクは顔を青くした。
すると、傍観していた漸が、ぴくりと耳を動かす。その視線の先には、怪しく光る、赤い光。あまりにもその光が強いため、錯夜が殺り合いの中でも確認できる程だ。
「……あの光は……」
レイアが呟く。
「……みぃっけ…。レイア!」
錯夜が村民の中から叫ぶと、レイアは身体をびくつかせた。
「あの光の所に行ってくれ! 早く!!」
「え……」
「この村を救いたいなら、一からやり直したいなら! あの光の所に! 急げ!!」
レイアは、必死な錯夜の声に、戸惑いを見せつつも、すぐ赤い光を放つそこへ向かう。
「…行かせるか、アイハード!!」
ラルクと父が追いかけようと走り出すが、漸が前に立ちはだかる。蒼炎を回りに出現させ、その青い瞳でただ黙って睨んだ。
「くそ…! 尾が無駄に多い狐が……!!」
レイアが光をたどって行くと、一つの洞窟にたどり着いた。レイア自身、この様な場所があったなど知らなかった。見知らぬ森の道を掻き分け、着いたのが、この洞窟だ。入り口が光で埋め尽くされ、レイアは目を開けてるのも精一杯だった。
「なんなのこの光……」
いざ洞窟の中に入り、光の中を岩肌で道を確認しながら進む。そして、その光の正体に早くも会ってしまう。
「……これは、水晶……?」
光を放っていたのは、手の平に収まる水晶だった。水晶は、石の上に置かれ、四方から細、錆びれた鎖で封印してあるかの様に水晶に絡み付き、岩肌に食い込んでいた。
「綺麗……。でもこれ……」
「触れるなアイハード…!!」
後ろを振り向くと、そこにはラルクの姿があった。着物も身体も傷が付き、血が落ちる。見るからにぼろぼろの状態だった。
「ラル! ……触れるなって、なに?」
「言葉の意味通りだ。…さっさとここから離れるぞ。馬鹿な事をするな…!」
「駄目! 錯夜さんが待ってるの。そこどいて、ラル!!」
「アイハード……!!!」
光輝く水晶を、無理矢理鎖を引きちぎりながら手中に収める。ラルクはレイアから水晶を奪おうとする。レイアは身体を丸めると、ラルクの鳩尾に肘うちをする。
「……!?」
ラルクは、膝を落とす。直ぐ様外に出ると、ラルクの父と交戦していた漸が、外で待っていた。レイアは駆け寄る。
「早く、これを錯夜さんに!」
しかし漸は差し出された水晶を無視し、体制を低くし、腹を地面につけた。
「……乗れって、こと?」
漸は黙ってレイアを見る。洞窟からラルクの足音が聞こえてくると、レイアは水晶を握り締めて、漸の背中に乗る。漸は乗ったのを肌で感じると、すっと立ち上がり、駆け出した。
村の方では、ラルクの父が漸の手によって瀕死状態になっていた。村民達の相手をしつつ、しかし笑いながら刀をする錯夜。「若造……。貴様一体何者だ……!!」
「嫌だな村長さん。貴方のいう通り、俺は政府の犬ですよ。この村の源に用があるだけの…ね……?」
「政府の犬が、この村の源になんの用があるのだ! あの源に手を出すな! あれがなければ、我々は死ぬ!!」
叫ぶラルクの父。錯夜は問うた。
「この村は、最初から吸血鬼の村ではなかった。全ては、その村の源がやってきてから…。違いますか?」
「…なぜそれを……!!」
「安心して下さい。その呪縛は、俺が解放しますから…。その為にわざわざ自分の血を撒いて、村民全員集めたんですから……」
「なに……!?」
「断言する。…あなた逹は、必ず救う、と」
錯夜は黒刀を振り払う。
「ふざけるな! 我々を蔑ろにする人間風情が!! 挙げ句騙して、否定して、壊して! なんなのだ貴様!!」
「何を言うかと思えば、そっちこそふざけるな。蔑ろ? 否定する? 先に引き剥がしたのはどっちだ」
村民達が、全員倒れた。
「自分達を認めて欲しいくせに、自分達が存在を示さない。似非孤独者が…!!」
その時だ。
「錯夜さぁん!!」
レイアの声に振り返る。目の先には、漸の背中に乗ったレイアが、水晶を掲げていた。
「あれは…!」
ラルクの父が、冷や汗を流した。錯夜はニヤリと笑うと、そこに向かって走り出した。
「レイア! それ投げろ!!」
「え!? あ、はいっ!!」
レイアは振りかぶると、錯夜に向かって全力投球した。それは見事に錯夜の手中に入り、錯夜は川の真ん中で止まる。
カァァァァ…。
錯夜のコートの裾が光を放つ。その内側から取り出した物は、鎖がかけられた古書だ。
「やっぱり、妖玉だったか。なら…!」
古書が同じ光を放つ。水晶を近付けると、鎖が空気を破る音を放ちながら砕け、パラパラとページがめくられる。
「``古の記憶よ、存在無き者逹に、生の証を示さん``……!!」
水晶こと妖玉は壊れ、古書に吸い込まれる。それはあっという間だった。レイアもラルクの父と、遅れてきたラルクも、その光景に、唖然とした。光が全て吸い込まれ、その場は静まり返った。すると、村民達が起き上がる。しかし村民達の身体に、錯夜のつけた切り傷等は一切なく、皆の目には、光があった。
「……どうなっている。なにが起きたんだ…」
錯夜は古書を閉じ、コートの内ポケットにしまう。
「……安心しろ。君達はもう吸血鬼じゃない。俺が今、その原因を壊し、回収した…」
「ま、待て! 旅の人! なにをした!!」
錯夜はラルクを見る。
「だから言った通りだ。君逹はもう吸血鬼じゃない。もう血に飢える必要はない。だが、あなた逹が『何者かである者』であった時の存在証明は、今ここに記しました」
理解出来ないという顔をするラルク。錯夜は笑うと、漸に合図をする。漸はレイアを乗せたまま錯夜の元に来ると、錯夜はレイアを抱えて下ろす。すると、漸は瞬時に人間の姿になる。
「錯夜様…」
漸の身体がぐらりと揺れ、錯夜の胸に倒れ込む。
「ごめんな漸。…さて、仕事も済んだし、俺達はおいとまするか」
錯夜は漸の頭を撫でると、漸をおぶり、バイクのある所へ歩き出す。
「え……。ち、ちょっと!」
あまりの呆気なさに、レイアはすたすたと先を行く錯夜を追う。
「錯夜さん待って下さい! か、帰るんですか!? もうこの村から出るんですか!?」
「そうだけど?」
「そうだけどって……」
レイアは視線を下ろす。錯夜は鞘袋を拾い上げ、器用に黒刀をおさめる。
「だって、俺の仕事は、奴等の存在証明を記すこと。…あと、君の願いも叶えた。この村に長居する必要はないだろ?」
「だけど…」
バイクの所についた。錯夜はゴーグルをはめ、レイアが黒刀と一緒に持ってきてくれた荷物を荷台にくくりつける。
「…漸。猫になれるか?」
漸は肩にしっかり掴まると、黒い煙を出し、黒猫の姿になると、フードの中に潜った。
「……………」
「…もう一回言うけど、真面目にここには、長居する理由はない。それに、この村をやり直したいと言った君の願いに、俺は邪魔そのものになってしまう。だから…ね?」
錯夜はバイクに股がり、エンジンがかかる。
「それに、早く逃げないと、彼や彼の父上がうるさそうだし…。じゃぁね、レイア。楽しかったよ」
錯夜は逃げるように、バイクを発進させた。レイアは短すぎる別れに、ただ小さく口を開けていた。
「錯夜さぁん!! 私ぃ! ご飯作って待ってまぁす!!」
遠くに見える黒い影が、大きく手を振った。
・東神錯夜 『Record』記録師ver.古書
吸血鬼 ページ更新 確認完了
再び荒野を走る一台のバイク。もう夜を迎えていた。錯夜は向かい風に黒髪をかびかせ、ライトで見える道を行く。
「こりゃ野宿だな……。はぁ、レイアの飯が恋しい……」
「そう言えば錯夜様……」
「うぉわぁぁぁぁ!?」
猫の姿でフードに入っていた漸の声が聞こえ、錯夜は驚く。
「……僕なんかしました……?」「心臓に悪いからやめろって言ってんだろ!」
「錯夜様……」
「返事は?」
「はい……」
漸は落ちないように錯夜の腰に抱きつく。風の勢いで、フードが後ろに落ちた。
「それで錯夜様。僕、貴方の血を撒くのに出ててたから知らないんですけど。……解毒ってどうでした?」
「……解毒? あぁ、噛まれるまでは俺本体だったからな。……言ったろ? レイアにやってもらったって。……漸?」
「……バイク止めて下さい」
錯夜は言われた通りに、道から外れ、木の下にバイクを止めた。
「質問します。間を開けずに答えて下さい……」
「…別にいいが……」
漸は質問を始める。
「解毒剤はどんな感じでした…?」
「…液体状で、色はなかったから、水みたいな感じだったな……」
「錯夜様、その時の容態は…?」「死ぬほど身体が熱かった。指一本動かすのも無理なくらい」
「…じゃぁ、解毒剤はどうやって飲んだんです………?」
「…………………」
錯夜は黙って、バイクを降りた。
「見ろよ漸。星が綺麗だぞ?」
「空は見事に厚い雲に覆われてますけど……」
漸もバイクから降りる。錯夜は後ろを振り向いた。すると漸が距離を一気につめ、錯夜を木に追いやる。
「……おい、漸……!?」
「質問に答えて下さい錯夜様。………どうなんです?」
「…………どうやって飲んだってそりゃぁ………」
顔を赤くする錯夜。そっぽを向き、こう答えた。
「……く、口移し……」
そう言うと、漸はもう数センチしかない距離を更に縮め、錯夜の唇との距離を完全になくした。
「………!!? ん……んぅ……!!? 漸…何して………!!!?」
「はぁ……。ずるいです。あの娘ばっかり……」
「なにがだよ…! つか漸、舌入れんな………!!」
「ヤです……」
「漸……!!」
漸の身体を引き離すと、錯夜は口元を拭いながら大きく酸素を吸い込む。
「……すみません」
「…どうしたんだお前……」
漸は錯夜に抱きついた。錯夜はいつもの癖か、漸の頭に手を置く。すると、漸の耳がぴくりと反応し、垂れる。
「………ずるいです………」
それを聞くと錯夜は、漸の頭を撫でてやった。撫でると同時に、シャツを第二ボタンまで開ける。そこには、無数の傷跡があった。
「錯夜様……?」
「荷物の中に、救急箱あるから、それでこの牙の跡、治療してくれるか…?」
「……喜んで」
微かに笑いながらそう言うと、漸は荷物の所まで小走りする。すると錯夜。
「……そう言えば俺。ファーストキスの相手、確かお前だったよう…」
「早く治療しますね錯夜様」
direction east end...
これで一旦、東方面は終わりです。
次は、西方面を仕事場にもつ、偽善者の話です。