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:北の偽者と光明戦線説6

「…はぁ…はぁ……」

旧市街に全速力で走りきったせいか、肺が痛い。汗が肌を滝のようにつたる。

「…間に合ってくれ……」

息を吸い込むと、再び足を進めた。




「ゲホッ、ゴフ……ッ!! いつの間にこんな強くなってるとはねぇ。お嬢様は嬉しい限りだよいろんな意味で」

『紅夜の使人』になっているせいか、自我を保つのがやっとで、あまり戦いに集中出来ない。結果、冥利の呪術に圧されていた。一方の冥利はかなり怪我を負っているものの、顔色一つ変えない。

「宮路お姉さん、痛くないの? 傷口舐めたげようか?」

「馬鹿抜かすなクソガキ!! いてまうぞゴルァ!!」

怒号に身体を縮ませるシエラ。

「でもでもぉ、お姉さんがあの戦闘民族の出とは驚いたよ。ビックリビックリ。その力があれば、このわんわおのお仲間とか、すぐ殺せるじゃーん。ねぇねぇお姉さん、一緒に殺戮しなーい?」

「悪ぃけど他を当たりな。俺はちまちま記録しながらバトってる方が性に合うんだよ。それに、旅は何が起こるか解んねぇから、スリルがあって楽しめるモンじゃねぇかと思うぜ? 違うか?」

「一理あり。異議もないよ。宮路お姉さんカッコいいなぁ。じゃ、スリルを満喫してもらおうか、な…? わんわお、解放(リベレイション)無限解放(オールタイム)! あ〜んど、属性変化(バージョンジョーカー)!!」

「…な……!?」

煙を吹く冥利の影は、人狼へと姿を変える。

「お、おいおい。解放(リベレイション)って、お前は腐っても影だろうが! なんでそいつの命令で解放(リベレイション)してんだ! 誰の許可で勝手にそんな」

「お姉さん馬鹿言っちゃいけないよ」

シエラに遮られると、彼はそのまま冥利の横に並ぶと肩に手を置く。

「確かに僕は、影は主人そのものだと言った。それは認めるよ。でもね、彼は『僕が作り出さなければ生まれなかった存在』。解るよねお姉さん。つまり、作り出した僕が、彼の影を自由に扱えるんだ。無論、お姉さんの言うことは聞かないけどね?」

歯を食い縛る。シエラはエメラルドの瞳を細めて笑うと、冥利を自分と向き会わせて、頬を撫でた。

「試したげようか? 冥利君…だったかな? 抵抗しないで委ねてみ?」

シエラがそっと冥利に口付けると、冥利も片手をシエラの首に添えて舌を絡めた。

宮路は目を疑った。

「冥利君可愛いね……。んぅ…ん……」

「は、ぁ……、んァ……」

シエラが冥利の腰を撫でると、びくりと反応し、今の今まで無表情だった冥利の顔が赤く染まっていく。

「…めろ」

宮路は口の中で小さく呟いた。

冥利の事は大事だ。大切な従者であり、弟みたいなものだ。いつしか好意を抱いてきた冥利は、宮路にとっていい経験になっていた。突き放されそうでも、今の距離を常に保って、彼女の為にと身体を張った。

目の前にいるのは影だ。本人ではない。しかし、無性に腹が立つ。怒りがこみ上げてくる。

宮路は自我が爆発しそうだった。

−−−あぁ、やべぇなこれ……。まだまだ情けねぇな俺……。怒って暴れるだろうけど、落ち着くな……。


「−−−−−−−!!!!!!!」


「お…?」

物凄い声だった。シエラが動きを止めて宮路を見ると、言葉に表せないほどの殺気、憎悪、妬みと様々な感情が溢れ出ていた。

「……あんなんなるんだ…。やり過ぎた…かな……?」

冷や汗を流す。みなぎる殺気に地面が割れ始める。

「影諸共ぶっ殺してやる…!!」

もう自我などどうでもいい。

無性に暴れたい。血を浴びたい。

「……つぁ!?」

シエラは腕に視線を落とすと、そこは出血していた。立て続けに足からも出血するとシエラはバランスを崩す。

「え、なに…? なんでいきなり…」

念を感じると、シエラは気付いた。

「獅童の『電撃戦闘(ソルジャーレイ)』みたいだな……。まさか、遠距離でダメージを与えるって……」

すると冥利がいきなり宮路に突っ込む。シエラが止めようとするが、時既に遅し。しかし影は、宮路に呪術をぶつける。

「…邪魔だ、まやかし……」

宮路の言葉の後に、冥利の影に亀裂が入る。皹が広がり、影は跡形もなく散った。

「うそん……」

シエラは思わず言葉を漏らした。

まさか自分が作った影が、劣った。宮路のその目はシエラに向けられる。

「次はてめぇだな、オベリスク……」

「え!? いやいやいや、僕は強くないって言ったよね!? それきたら僕一発でこの物語から退場だよ!!? まだバトルパート残ってるって!! あ、メタ発言しちゃった! てへっ☆ わぁ、ごめんなさいごめんなさい!! ていうか本当に死ぬ!! 多分僕のファン今回で沢山増えたと思うんだ!!」

「興味ねぇ」

「鬼!!」

銃口をシエラに向けると、シエラは言葉を飲む。

「死ね」

「……!!」


「二階堂さん!!」


−−−−………。

宮路の殺気の渦の中に、誰かが飛び込んできて、宮路の身体を抱いた。

「二階堂さん、目を覚まして下さい! 二階堂さん!!」

聞き覚えのある声が、微かに脳内に響く。 −−−お前は…誰、だ……? 何処かで……聞いたような……。

「二階堂さん!」

「…な、せ……。俺は…」

ギリッと歯を鳴らし、その人は宮路の肩を乱暴に掴むと、真っ正面から吠えた。


「二階堂隊長!!」


−−−…は……?

久し振りに呼ばれた、帝国軍での名称。

気がふっと抜ける。その人は額を宮路に当てた。




『素晴らしい功績をしたようで、流石ですね…』

『もうちょい骨のある奴がいるといいんだがな……』

『それでも、隊長はまた強くなっているでしょうね…。貴女の強さは、底知らずですから』

『あぁ、俺はどんどん腕を上げる。…だから、お前も頑張れよ…?』

『貴女にそう言われては、しないわけにはいきませんね……。必ず強くなって、貴女に会いに行きます。どうかそれまで……、貴女は貴女らしく、己の信念を貫き通して下さい……』

『おぅ! 約束な!!』




流れてきたのは記憶だった。

宮路は男装をして軍服を着ている時、自分と話している青年は、目の前にいる彼だった。

「澪…いや…。お前、神風(カミカゼ)……?」

目の前にいたのは、あの飛鳥樹澪だった。澪は神風と呼ばれ、額を離し、笑った。

「隊長…。よかった……」

攻撃に備え、腕で顔を庇っていたシエラが腕をどけると、宮路を見て眉をしかめて、澪を見た。

「あっれぇ? なんで君がここにいるの? 飛鳥樹君……。しかも、神風って君……」

「オベリスクさんすみません、俺は彼等に恨みはあれど、隊長まで手をかけるつもりは毛頭にありません……」

力が抜けて膝を折ってしまった宮路をその場に座らせる。

「…神風……。お前、だったのか……。ごめん、俺……」

「やめてください。そうしたのは俺なんです…。間に合ってよかった……」

宮路の腕に装着された銃器を外すと、シエラを睨んだ。

「なになにぃ? 今まで褒美欲しさに動いてきた君が、今回の宮路お姉さんになった途端寝返る気? アギトが泣いちゃうよ?」

「勘違いしないで下さい。協力も何も、あれは半ば拷問でしたよ。俺も抜かりました。まさかあんな方法で彼等を殺めるとは……。褒美なんていりませんよ。ありがた迷惑です。ですから……」

澪は宮路から外した銃器を拾い上げると、シエラに向けた。

「俺は神風天城(アマギ)。元帝国軍二階堂隊、副隊長。そちらの反逆に習います」




「歯車が飛んでくるわ、石畳は浮くわ、マジで機巧屋敷だな……」

「ちょっと! いい加減離してくださいよ!」

「もうちょい足を観察させて?」

「この鎖破ったら絶対最初に殴り飛ばしますからね!!?」

「いや、出来れば蹴りで」

「そんなリクエストは聞きません!!」

「ケチだな」

ギドは立ち上がると、自分の様を確認した。コートの左部分がシャツごと破れ、肩から出血が絶えない。胸から腹まで対角線状に切り裂かれ、シャツが赤く染まる。ヘアバンド越しでまだ深傷は負わなかったものの、頭部からの出血で右目が満足に開けず、金髪についた血が乾いて変色しかかっている。

「…いてて……。なぁ兄ちゃん、サシでやんね?」

「話聞いてた? 俺に傷付けたら、あんちゃんの勝ち。おめでとーって話だったでしょ? おたく、ちゃんと耳ついてる?」

「健在でーす……。あだだ……。やっぱ痛いわ……。レンガとかなめちゃいかんね…。日常の方がよっぽどの凶器だ……」

「そうだよ。日常に蔓延るおたくらの従者みたいなのがいるから、世の中安全に暮らせねぇんだよ。帝国は腐ってく一方だし、第一、おたくらの犠牲者何人いるか考えたことあるのかよ。記録記録って、一方的なんだよ。どうなろうが、異形や能力(スキル)なんかなけりゃ、どうでも……」

遮った。否、遮られた。

目の前の、ギドの和やかな笑みに。

この状況で笑うのはおかしいが、笑いは笑いでも、この戦況で出るような笑いではなかった。

ギドはその笑みを煉影に向けると、銃口を向けた。

「な、何を…!」

「ごめんな、お前の相手は出来ない…」

発砲した。煉影の心臓に着弾すると、煉影の影が砂のように消えていく。

「…ただし、仇は取る……」

「…え………」

「だから待ってろ……」

消えていく煉影に笑うと、煉影は最後まで理解できないという顔で消えていった。

煉影を縛っていた鎖が落ちると、ギドはヘアバンドを取り去って捨てると、アギトを睨んだ。

「…場違いなイケメン笑顔をどーもありがとさん……。で、なんだよ」

「いや、優しく笑いかけたくもなるよ。つか、同情? 可哀想だなぁって……」

「……は…?」

笑いを漏らすと、銃口を向けた。

「煉影達を生んだのは誰だよ。俺達人間の思いじゃねぇか。はたまた神様か。だけど……。だとしたら、奴等がこの世に生まれてこなくていい理由なんてあんのかよ。俺は宗教なんて知らねぇし、信仰もどうでもいい。けどこれだけは知ってる。もし神様が この世を創世したってんなら、この世に生まれてこなくてよかったなんて命は一つもない。当然、人と異形は反発し合う。だから殺し合って共存して、世界は成り立ってんだろ! この世界にもし、俺達人間だけだったら、毎日が退屈で同族で殺し合う! だから彼等がいるんだろうが! 俺達がいて彼等がいて! それでこの世界だろ! もう一回侮辱してみろ!! 俺達は同族だろうが容赦しねぇぞ!!!」

「あっつ〜いお方〜…。いいよ、全開錠(フルオープン)してやる。おたくが初めてだよ? こぉんな、ウズウズすんの♪」


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