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:西の偽善者と光明戦線説3

「あ、はぁ…! あぁ……っ!」

「…そんなに苦しいか?」

青年に冷たく吐き捨てる黒い影。青年は後ろ手に縛られ、衣服は所々破れて出血していた。その出血は、刀の刃を立てられて絶えず、流れていた。

「あ、あぁ…っ! や、やめ……っ! いや、だ……!! は…!」

「お前はもう少しいたぶった方が嬉しかったんだっけ……?」

「は、ぁ……! んぅ…!!」

苦しむ青年の顎を上げると、抵抗できない事を良いことに、口付けた。舌を絡めとると、青年はそれに酔いしれる。

「じゃ、そろそろ言ってもらおっかな…? 早く止血しないと、おたくヤバイし……」

「はぁ…はぁ……っ。あ…」

よく定まらない視界の中で、青年はうっとりとした目で見つめる。

「…で、うまくやってくれてる? つかやってくれてないと困んだけどね?」

「は、はい……。それは…勿論……」

「良い子。後で褒美やるな? …じゃ、引き続き頼んでいいよね…? 期待してんだから、頑張って…?」

「わ、かりました……」

「んじゃ、褒美な?」




ギドは逃げていた。

「あぁくそ! なんだこの複雑な気持ち!!」

観光地の女性から逃げていた。なんやかんやで二枚目であるから、女性からはモテる。だが、女性恐怖症である彼にとっては、かなり複雑な気分だろう。

やっとの思いで振りきり、路地に入って腰を下ろすと、

『くそ! 出来れば太股をじっくり観察していたかった……!!』

などと要らぬ後悔をしていた。

「でも、不良の兄ちゃんちからいい情報は貰えて良かったぜ…」

小さなメモを見直すと、長く息を吐いた。喧嘩を振ってきた不良グループを、一発で土下座させるまでにシメ上げた結果、この国では不可解な事件が多くなってきているらしい。その新聞の一面の切り抜きも貰い、詳細も聞けた。

「主人!」

「ぎゃぁっ!!?」

情けない声を上げる。それというのも、煉影がいきなり抱きついてきたのだ。

「煉影さん! 死ぬ! 俺の中で何かがくたばる五秒前!!」

「主人! 私なんか似たタイトルの少女漫画知ってるんですけど大丈夫でしょうか!」

「うん、漫画の心配より主人のメンタルを気にして!!?」

が、次第に慣れてくると、抱き着かれた状態での会話を試みる。

「な、なんで煉影ここにいんの?」

「それが聞いてくださいよ。ミヤちゃんから言われた方に行ったら、都市が滅んでたんです。死人に口無し。聞くものも聞けなかったので、主人の所に風の速さで戻ってきたんです!!」

「そ、ソーナンダ、スゴイネ……」

「主人! ごめんなさい! 帰ってきて主人の素晴らしい滑舌!!」

「命とメンタルの帰還を望まれない俺ってなんなの!? 人として!」

煉影は離れると、頭を軽く下げた。

「そ、それで、何か聞けました…?」

「あぁ。えっとな…。かくかくしかじか、あれがこうで、これがああで、なんやかんやはなんやかんやな訳だろ。……まぁ、こんなところだ……」

「なるほど。解りました!」

「うん、もうツッコむ気も失せた」

「でも主人。私、ここに来るまで不良グループをシメ上げて聞き出したんですけど、たぶん内容は同じだと思いますよ?」

「え、待って。なんでシメたの?」

「そこに居たからです」

「深いしカッコいい!! でも最低!!」

「いやぁ、そのままそれで走り出すところでした!!」

「どれで!!?」

まだツッコめそうだ。が、ギドは煉影にメモを見せる。

「これがそれですか? 不良から聞いた情報とドンピシャですよ?」

「さいですか……」

「…主人、私もう少し調べてきます。似たような情報だけじゃ話になりませんから」

煉影はメモを返すと、砂埃を払い立ち上がる。

「じゃ、先に行きますね」

そう言って路地を出ていった。




冥利は人気のない街を歩いていた。瓦礫には乾いた血痕の跡が見られる。

食器等の破片や、衣服の切れ端があるのを見ると、まだ壊れて日が浅いと解る。

「…何があったんでしょうか……」

そう言った後、冥利はいきなり足を止めた。そして、横にある半壊した建物を睨んだ。

「誰ですか、そこにいるのは……」

「ありゃりゃ、気付いちゃったぁ? やっぱワンちゃんだから鼻が利くとかぁ?」

幼い声が聞こえる。出てくる様子はない。冥利はとりあえず動かずにいた。

「君ってさ、帝国の犬なんでしょ? 知ってるよ、妖を記録して国の歴史に残すんだっけ……?」

「それがなにか……?」

「バッカみたーいって思って。妖も人間も本望のままに生きて何が悪いの? 君やあのガンファイターのお姉さんがしてることは、ただのお節介なんじゃないの?」

「…そう思うのもまた自由。そう私は思いますよ?」

するとその声の主は高笑いはじめた。回りの建物に木霊し、誰もいないその場で声は腹立つほどに響いた。冥利は苛立つと、錫杖を素早く組み立てた。

「天晒し!!」

錫杖が呪符を下記連ねると、それが声の主の方向に斬撃のように吹き飛ぶ。が、高笑いは止まなかった。

「ヒャハハハ!! あぁ、ハハッ、お腹いたぁー……。まったくおんもしろい、最高だよ君。何を言い出すかと思えばそんなこと。…あぁ、失敬。まぁ、そう焦んないでよ、直ぐに相成す事になるんだから、さ…?」

「……!!? どういう意味ですか!?」

「じゃぁね、わんわおー♪」

高笑いは止んだ。ついでに気配もない。冥利は回りを確認しつつ錫杖を分解。袂に戻した。

「さっきのは一体……」




「うーむ。流石伊達にブラついてねぇな、おじ様方は。おかげでいろいろ聞けたぜ」

宮路はとっくにあの酒場を後にしていた。帰り際に、

『また来いよー! 今度はバニーガールにでもなっておっぱい揉ませてくれよー!!』

『おぅ、解ったぜ!! 触った瞬間最高の極楽に逝けるように拳磨いとくからなぁ!!』

と言って帰った。

「しかし、飛鳥樹の兄ちゃんからはもちっと聞きたかったなぁ」

なんだかんだ言って、一番情報を提供してくれたのは澪だった。が、彼は途中で配達に行ってしまい、その後は聞いていない。宮路はメモをポケットにしまうと、持っていた携帯端末が鳴る。

「誰だ」

『私です』

「んだよ、冥利か? なんか聞けたのか?」

掛けてきたのは冥利だった。

『お嬢様の言った通りでした。先程、ハンターらしき人物に接触しました』

「マジかよ。やっぱ相手は小心者か相当のタフだな……」

宮路はニヤリと笑う。

『やはり、あちらも我々に気付いているようです』

「だろうな。しかし、三日間もそいつら探してて、かき集めた情報は国で起きてる不可思議事件ばかり…。そいつらが関わってるかどうか知らねぇが、この三日間で何されてっか解んねぇのも事実。気を付けろ、今度は挨拶じゃ済まねぇかもだから」

『御意』

宮路は通信を切った。

そして、冷や汗を流した。接触したということは、いつ自分に回ってくるか解らない。しかし、今回国の事件に関係しているかも問い質したい気もある。

−−−しかし、三日間以上調べてんだぞ。事件の事も聞いたのは今回が始めてだ。しかも、飛鳥樹の兄ちゃんからもらった記事は、三日前のモンだ……。もしかして、敵も手を掛けたのはつい最近って事か?

「二階堂さん…?」

目の前に視線を移すと、そこには澪がいた。澪は嬉しそうに笑う。

「皆さんから、いい話は聞けましたか?」

「お陰さんで。…なぁ、飛鳥樹さんよぉ。話してくれた事件の事なんだが、あんたはいつ知ったんだ?」

「あぁ、意思なく夜中徘徊するというものですか? 俺が知ったのは二日前です。でも、事件は四日前からあったそうですよ。…あ、それと……」

澪は手招きをし、宮路を寄せると耳打ちをした。

「これは、あまり出回っていない情報なのですが、先程貴方に渡した記事の前日、どうやら死人が出たとか……」

「死人…?」

「えぇ、もう人がいない街の方に捨てられていたそうで……。貴女が知りたがっていた怪しい人物も目撃されてるとか」

「本当か!!?」

しかし澪は宮路の口に人差し指を添えて黙るように促す。

「…すまん……」

「いえ、先程は他のお客様がいたので、言えずにいました。すみません…」

「で、その街は…?」

「え、まさか、行くつもりですか!?」

今度は宮路が澪の口に人差し指を添え、黙らせる。

「ちと、興味があってね。つかそれがメインみたいなモンだからな……」

「いけません、興味本意でそのような場所に女性一人で行かれてはな……!」

宮路の懐から拳銃が出てきた。彼は息を呑む。

「こんなん持って『すぐに片付けてくる』って言う奴ほど、殺られるのがオチなんだけどな…。俺はそういうフラグは無視していくつもりだからどうでもいい……」

宮路は踵を返すと、歩き出す。適当に行ってれば着くだろうという、なんともアバウトで根拠のない考えを持っての上だ。

しかし、その手を澪に掴まれる。

「……っ!」

掴んだ本人が驚いている。何か言いたそうな顔をしているが、言い出しそうにない。宮路は手の甲で澪の額を小突いた。

「心配すんな、今まで、いくら血みどろになっても、死にゃぁしなかったんだ。ありがとな、澪」

握る力が弱まった手を払うと、宮路はすぐに走り出した。

払われた手を見ながら、澪はその手で肩を掴み己を抱いた。

「……っ! ……!!」




「余計な真似すんな」

「いやだなぁ、挨拶だよ挨拶。今回はバトルパートが大半なんだからさ?」

「そろそろ動くぞ。奴も働いてくれてるだろうからな」

「褒美欲しさに? 物好きだねぇ。それとも、なんか因果関係でもあんの?」

「さぁ、そこまでは知らない…」

「あったりするんじゃないのぉ? 所詮世の中ドロドロがオチなんだからさ。昼の刑事ドラマでも依頼人の血縁者が犯人っていうのが王道で明け暮れてんだよぉ? そんで大体、隠し子とかさ。『そうです、彼は貴方の父親です』みたいな台詞とかむしろ笑うしかないよねぇ、ヒャハハハ!!」

「まぁ、言えてるな」

「でしょ!? さぁて、開始三秒ノンストップで殺戮開始だよぉ!? 馬鹿でも開始十分で血みどろオチにしてやんよ♪」


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