:(SO)東の白狐と町娘
後日談
私が買い物の帰り道で出会ったのは、黒い、何やら可愛らしい男の子がいた。
「…ねぇ君。ここにいたら通行する人の邪魔だよ……?」
その子は私の方を振り向いた。髪はブラッシングしていないのか、髪は色んな方向にはねていて、前髪が長くて目が伺えない。十五、六ぐらいのその子の身体全体は黒いローブで包まれていて、手足が見えない。
「……お姉ちゃん、誰…?」
問い掛けられて少し戸惑う。
「わ、私はただの町民だよ…? 名前はリア。買い物の帰りなんだ。ていうかとりあえず立って」
私は彼に立つように促す。立ち上がった彼は、私より少し小さかった。私は友達の中じゃ普通の大きさなのだが、男の子のわりに小さいと思った。
「君、何してたの……?」
「……座ってたの…」
「う、うん……。うん……? うん……」
どう返していいか解らない。すると彼は私の持っていた紙袋に鼻を近付ける。
「……甘い匂い…」
「あ、うん…。バゲットと林檎が……」
グギュルル……。
「「………」」
人混みの中でもよく響いたのは、彼の腹の虫。彼はいきなり膝を折った。
「…お腹減った……」
「さっき踞ってたのはそれが真意ね!?」
ツッコミを入れているか、確認をしたいのか解らなかったが、彼の手を引いて脇のベンチに連れて行った。ぐったりしている彼に、私はバゲットを彼の手に持たせた。
「…くれる……?」
「うん、これ食べて」
目を見なくても解る。彼の目は確実に輝いている。口元を綻ばせると、小さな口を開けてバゲットにかぶりつく。
「美味しい…?」
「…ん、おいし……。んぐんぐ…」
感想こそお粗末だが、彼は凄く幸せそうに食べてた。小さな手でしっかりバゲットを掴み、ペロリとたいらげてしまった。
「…お姉ちゃん、ありがと……」
「う、うん……。あの…」
紙袋に鼻を近付けてくる。
「……」
「林檎、食べる……?」
「…くれる……?」
このやり取りが続き……。
「…お腹一杯……」
「じゃないとどうしようかと……」
買い物の品を全て食べられてしまいました。ものの三分で……。
「…ねぇ君……。あれ、ちょっと…!?」
彼はローブを翻しながらベンチから降りると、こちらを向き、笑った。風の勢いで、前髪が浮き、彼の優しそうな目が見えた。
「…お姉ちゃん、ご馳走さま……」
「え、あ、うん……。わっ!」
彼の目に見とれていると、いきなり風が吹いて、空になった紙袋が顔面に張り付いてしまった。
「ぷはっ! はぁ……。あれ……?」
紙袋を取ると、彼はいなくなっていた。
まるで、先程までの彼が幻だったのように、町は普通に流れていた。
「…いいや、また買いに行こう……」
それにしても、彼は一体何者だったのだろうか……。
「漸、もう昼飯の材料買ってこいって言ったのになんで手ぶらなんだよ」
錯夜は抱きついている漸の頭を撫でながら問い掛ける。
「…食べちゃいました」
「食べちゃいましたじゃないでしょ!?」
「…ごめんなさい、お母様……」
「……いや違うよ!? 一瞬自分でも違和感なくてタイミングずれたけど違うよ!?」
錯夜はフードを取って、漸の耳を弄る。漸は嬉しそうにローブの中の尻尾をゆっくり振り始めた。
「ほら、買いに行くぞ…。早くしないと暁が煩いからな」
「…はぁい……」
End...




