:東の大嘘つきと正義3
数分して、レイアは帰ってきた。錯夜の膝で眠る漸を見て、微笑むと、ナイトテーブルの上にある器を回収する。
錯夜は漸を撫でながら話し掛ける。
「アイハードさ…」
「レイアでいいですよ? それに錯夜さんの方が年上でしょ? 普通に話してくださって結構ですよ?」
「……レイア。村に宿はあるか? ここに長居すると失礼だから、明日になったらここを…」
「あぁ、その事ですか? 実はさっき、村長からも言われたんです。やっぱり、男女が一つ屋根の下は危険だって。宿の一室を用意するから、そこに明日来なさいって」
「………はぁ」
「私は別によかったんですけど…。かなりきつく言われたので。錯夜さんから、もっとお仕事の話聞きたかったですし…」
器を洗うレイア。錯夜は小さく瞬いた。
「……ご飯。美味しかった」
レイアは、錯夜の声に振り返る。目の先の錯夜は優しく笑った。
「また食べに来て、いいかな?」「……もちろん! 是非来てください!! ご馳走します!!」
「………錯夜様。………錯夜様……」
「…………う…、ん?」
「普段なら既に起床のお時間ですよ。目を開いて下さい」
漸の声に目を開いてみると、まず、カーテン越しの朝日が眩しい。寝た上体で足元に目をやろうとすると、その前に人間の姿に変している漸が、錯夜の腹に股がって座っていた。
「……………」
「おはようございます」
「……なんでお前、変身解けてるんだ?」
「僕に聞かれても困ります。それがですね錯夜様。実は朝起きたらこの姿になっていて……」「朝起きたら……?」
「普段ならこんな事ないのですが。僕も異変に気付いて起床したのです。すると錯夜様の隣で寝ていて……」
漸は真顔で、フードを更に深く被りながら、そう言った。錯夜は上体を少し上にずらし、壁に寄りかかる。その際、漸が自然に太股の上に移動した。
「あの娘ならまだ起床しておりませんよ。ご安心を」
「そうか…。とりあえず、そこどけ。起き上がれない」
「嫌です…」
そう言うと漸は錯夜に顔を寄せる。錯夜が問いかけようとすると、漸は上目で彼を見る。
「まだ貴方に甘えていません」
「…甘えってなんだよ。何する気だよ」
漸は顔を更に寄せると、自分から向かって右側の錯夜の頬に口付けし、次に首へ移動すると、首筋を舐めた。
「おい、漸………!? なにするんだ。やめろ……!!!」
「いつも僕が猫になる度、貴方にしてる事ですよ? 今更何をおっしゃるんです…? ほら、いつも通り頭を撫でてください。錯夜様」
「お前……。せめて猫になれって………!!」
「嫌です。面倒くさい」
漸の吐息が首にかかる。錯夜は肩を震わしつつ、手を漸のフード越しの頭に置き、撫でてやる。ついでに首もさすってやった。目を閉じて気持ち良さそうにしている漸を見て、錯夜は肩を撫で下ろした。
「……ありがとうございます」
「だから舐めるのやめろ」
「もっと撫でて下さい……」
溜め息をつくと、言われた通り撫でてやる。漸は目をうっとりとさせ、甘い吐息を漏らしながら、錯夜の胸にもたれた。
「錯夜様。口付けをさせてもらってもいいですか…?」
「駄目に決まってるだろ!!なに考えてんだ!!」
そう言うと、漸は俯く。錯夜はしょうがなく、その頬に唇を落とした。
「……朝方ですし、宿についたらこの村を少し歩きますか?」
「お礼は……?」
「ありがとうございます」
漸は頭を下げた。錯夜は後頭部を掻く。
「そのつもりだ。あと、お前が言ったことの確認」
−−−この村には『何者かである者』がいる。
「それにしても、お前の変身が解けてるって事は、それが関係してるのか?」
「可能性はあります。僕みたいなタイプのする変身は、自分の意思でなければ、他のものに変身は出来ませんし…。実のところ、この村自体が怪しいのです。誰が『何者かである者』でも可笑しくはない。正直な話、僕はあの娘も疑わしいのです。」
「レイアが……?」
「気の強弱がつけられる者だという事を考えて。……しかし、可能性など指で数え切れないほどあります。彼女が普通の村民であるとは断定できません。完全に……」
「…………漸。彼女が起きる前に、村を少し歩こう。村長なら、この時間起きてるはずだ」
「わかりました」