表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/51

:東の大嘘つきと暗黙談6

※過剰にボーイズラブが含まれています。ご注意ください。

「ロア……」

呼び声に後ろを振り返ると、そこには獅童がいた。椅子に腰掛けていたロアは、腰を上げて、獅童に歩み寄り、ニット帽を取り外すと、獅童の銀髪を優しく撫でる。

「ずぶ濡れじゃないか…。大丈夫?」

「外は術者の雨でどしゃ降りやから。すまんな、心配した…?」

獅童も頭を撫で返すと、髪に口付けた。

「君に限って心配なんて不用でしょ…? でも……」

ロアは長身の獅童の首に背伸びをして抱きつく。

「君が彼らに汚されて無いようで、安心したよ……。君まで失ったら…」

「…なんや、心配してくれてはったん…? ツンデレか……?」

「いいよ、好きなように捉えて…」

ロアは離れると、ニット帽を被せ直す。

「幼馴染みは命令通り連れてきたで。どないするん…?」

「…そうだね、まずは…」

ロアは獅童の後ろに目を向ける。

「再会を喜ぼうか…。暁君……」




凩が目を冷ますと、光に瞬きを繰り返し、全身の痛みに表情を歪める。

「…コガ兄…! よかった、目が冷めて…!」

漸の声が聞こえる。凩は身体を起こすと、横の本棚には、錯夜が暁に刺された傷口を押さえてぐったりとしていた。

「よぉ、お前も殺られかけてたなんてな………。大丈夫か…?」

「あぁ、大事ない」

痛みを感じるのは、左肩。そこからは未だ出血していて、じんと熱い。

暁が付けた傷だ。

「…錯夜様、兄ちゃんは一体……」

「さぁな…。俺はとっさに刺されたからな……。けど、あいつは俺を刺すことを解ってた」

「正気ではある。が、奴は操られていた……。血をあの小僧に飲まれたから、らしい……」

凩はマフラーを解き、歯で細く千切り、傷口に巻き付ける。それを数本作ると、それを錯夜に投げた。

「残念だが、今の某らには戦力もまともでは無い。…もう少し落ち着かなければ」

「…そんな、一刻も早く……!!」

「死にたいのか」

漸は凩の声音に、身を縮ませる。

「死に急ぎたいならば止めはしないがな……。助けに行こうにももう遅い。悔しいがな……。だが、手遅れには絶対にさせん」

「……凩、休むと同時に、聞いてくれないか? この国の事だ…」




「獅童は理解できる。でも悪いね、君の事はガチでオブラート並みに記憶が薄いんだよね……」

「悲しいなぁ……」

とは言うものの、当然というような顔をするロア。少し間を開けると、暁に歩み寄り、首に手を当てた。ロアの身長は、173cmの暁よりも小さいにも関わらず、その華奢な体格からは、とてつもない威圧を放っている。

「ま、無理もないよ。僕がそうさせたようなモンだから…。でも、彼らの中で一番まともな君には、少し期待を寄せていたんだけど……」

「僕の記憶なんて宛にしない方がいいよ。ましてや、君みたいな誇大妄想にお熱な奴の事なんて……」

「……君とは後でゆっくり話そう。詳しい事はその後だ……」

暁に背を向けると、暁の後ろのドアがいきなり開き、現れたロアの部下であろう二人組が、暁の腕を拘束した。そのまま乱暴に連れていくと、ドアが閉められる。

「…獅童、暁君の状態は…?」

獅童は笑顔で右手をロアに見せると、ゆっくりと拳に変える。

「……なるほど。早くも血を飲んだんだね。流石、言葉巧みな上、キス魔な事だけはある……」

否定せず、静かに目を伏せる。その時だ。獅童の身体が後ろのソファに押し倒され、ロアがその上に股がる。

「獅童、僕にその血を寄越せ…」

「…暁の血だけ…? 俺はそんなん出来へんで……?」

「僕を誰だと思ってるの…?」

整ったその美しく凛とした顔を近付ける。男とは思えないほどの、きめ細かい美白に赤黒い瞳は宝石のようだ。

「僕は絶対だ…。僕が寄越せと言ったら寄越せ。君は何もしなくていい……。ただ僕に委ねればいい。ただそれだけだよ」

獅童は生唾を飲み込むと、恐る恐るロアの後頭部に手を添える。

「…僕、獅童のそういうとこ、好き」

「でも俺は、従順な犬とちゃうで…?」

「どうだか。僕から見れば君は、いつも僕の爪先を飽きもせず舐めて、尻尾を振ってる下品な犬のように見えるけど……」

「どないやねん…。…ん、ぅ……つ!!」

重なったと思った瞬間、獅童の舌を拐うと、歯で噛み千切る。生暖かい鉄の匂いが口内に充満すると、ロアはそれを飲み干さんと舌にしゃぶりつき、一滴残さず飲み干す。

「はぁ……ぁ…。ロア、餓えすぎ…」

「仕方ないだろう。こうでもしないと飲み干せない。僕は君にしか心を許してないから、暁君から直接もらうわけにはいかない……」

喉仏が上下すると、ロアはすぐに離れる。口の端から零れる血を拭い、獅童を起こし、首に腕を回す。

「感謝してるよ、獅童。悪いけど、また彼から血を貰ってくれる…?」

「浮気せぇへん…?」

「しないよ。これで彼も晴れて僕の手中だから。……僕は絶対だ。逆らう奴は容赦しない……」




「では、この国にいた者は、先程の小僧に殺られたというわけか……」

「多分、な……」

国歴録を広げ、順々に見ていく。

大国の異形の集まりは、もう十年以上前かららしい。かなり時は経っている。しかも、共存していたというのだ。それでも獅童は誰彼構わず殺したと考えられる。

彼の体質(サイン)を直に喰らったモノになら、それを納得するには容易い。

「…あいつ、兄ちゃんを知ってる口振りだった……」

「おそらく顔馴染みだろう。…各言う某も、微かではあるが、奴とは面識がある」

「マジかよ旦那」

凩は黙って頷く。

「某がまだ『靄』として村々を襲い、最後に行き着いたのは、暁のいた村だ。が、その村は既に壊れかけていた。某が手を掛けずとも惨劇のような様だった。その中であの小僧は、炎の中で手を広げ人を殺していた……。故に、風雷録で某が最後に襲った村に関しては、創作された物だ」

「本もあまり宛にならないんだな……」

「話や説ははいろいろとある。漸に至ってもそうだ。九本の尾を持った妖狐は、一本は本体から生えているが、残りの八本は、肛門から下半身を出した寄生虫という説があるからな。鬼は、本当は副を招く神の存在。だが、東方の国の節分という行事では、『副は家、鬼は外』という言葉で、豆を巻き、鬼は邪として扱われる……」

腕を組み、様々な話を並べる。

「とにかく、あの小僧を止めなければ話にならん……。どうしたものか……」




「…二度ある事は三度ある。とか言うけど、冗談にもほどがあるよ……」

「確信犯や。…いや、でも、あんさんのクセになりそ…」

突如、部屋に入ったきた獅童は、無言で両手を後ろ手に縛られていた暁を床に押し倒し、ロアと同じように舌に噛み千切り、血を飲んだのだ。

「冗談じゃないよ。しかも両手を縛った状態で、キスするって、そんな特殊プレイ望んじゃいないぜ…?」

「つれない奴……。そないな事言わんといてぇな。再会したんに、もうちょい喜ばんの…?」

「とか言われてもねぇ……」

「せや、治療せな…」

再度顔を近付けると後退りする。

「や、あの…。マジでやめてくんない?」

「せやけども、かなり深く切ってしもうたから、半妖やからそない心配する事も無いやろうけども…。ま、口実やな。俺、根っからのキス魔やから。体質(サイン)使ってもええけど、ここは治癒術使わせてもらうわ…」

暁は逆に噛み千切ってやろうとしたが、体質(サイン)でそれは封じられ、舌を絡められた。合間を縫って治癒術の詠唱を唱えると、二人の間に小さな魔方陣ができ、深い切り傷がだんだん癒えていく。

「は、ぁ……、あ…」

「ええなぁその声……。そそられる…」

詠唱が終わると離れ、無理に起こす。

「もうちょいでロアがここに来る。あいつは俺みたいにはせんけど、あいつの体質(サイン)上、何するか解らへんから……。それだけは忠告しとくわ。でも、俺としちゃ、両手に花で万々歳やけど」

「僕はラフレシアだけどいいの?」

「いんや、あんさんは東方の国のサクラやな……。いちいち儚い……」

「あのおチビちゃんは……?」

「なんやろね……。強いて言うなら、薔薇やろか……。真っ黒な…」

「…黒い薔薇……。確かに、彼に合ってそうだね……」

獅童は目を伏せると、暁を再び押し倒す。しかし今度は強引でなく、ゆっくりに。

「……花言葉は『束縛』。これ以上あいつに合う言葉はないやろね…」




「…ごめんねクロード。ご飯もうちょっと待っててね……」

「クゥ…ゥ……」

尻尾をゆっくりと振るクロード。ロアはクロードを人撫ですると、暁の部屋に向かった。

「僕はラフレシアだけどいいの?」

ドアノブに手をかけると、暁の声が聞こえた。

「いんや、あんさんは東方の国のサクラやな……。いちいち儚い……」

花の話をしているのか。暁はあの淡い桜の花に例えられたらしい。

「あのおチビちゃんは……?」

おチビと言われて解ってしまうのは少し複雑だが、ロアは自分の事だと理解した。

「なんやろね……。強いて言うなら薔薇やろか……。真っ黒な…」

その言葉にロアは反応する。

−−−黒い薔薇…。僕が……。

「…黒い薔薇……。確かに、彼に合ってそうだね……」

少しの間を置くと、再び獅童の声が聞こえる。

「…花言葉は『束縛』。これ以上あいつに合う言葉はないやろね…」

否定はしなかった。

獅童は自分に仕える者。彼もそれは承知のはずだ。

ロアはドアノブに手をかけると、ドアを開く。そして一瞬硬直した。

というのも、両手の自由を利かなくする為に、後ろ手に縛られた暁に、獅童が上に股がり、顔を至近距離に近付けていた。

「……獅童、暁君に情でも湧いた?」

「せやかも。幼馴染みスキルはええで? せやけども…」

獅童は暁の薄い唇を舐めた。

「俺はロアさえおればええねん。暁が追加される言うんなら、俺は両手に花で万々歳。…それだけの事やないの」

「……あいつが見たら、何て言うんだろう……」

右手を払い、獅童に退けるように指示を出すと、やれやれと獅童は暁の上から退く。ロアは暁の身体を返して、縄を解くと、その場で彼を見つめた。

「なんでこいつを解かなかったの…? こんな縄、君なら簡単に解けただろうに……」

「すぐに逃げちゃ、面白くないでしょ」

笑う暁に、ロアは黙って瞳を揺らしていた。

「……ねぇ、暁君。単刀直入に言うね? 僕は君が好きだ……」

「……………え…」

言葉も出ない。ロアはその場に手をついて、四つん這いになり、暁に寄る。

「君が好きだ…。だから、君の全てが知りたい。その為にまず……」

ロアが暁に股がる。

「……君を殺さなくちゃならない。安芸ノ須木暁君……」

ロアの右手が、暁の視界を覆う。暁は息を切らした。

「君の、君のその、忌々しい能力(スキル)を……。僕のこの能力(スキル)で……」

「……!!?」




−−−−『×××××』




僕の名前…? 聞いてどうすんの? まぁいいよ、教えてあげる。

僕は、安芸ノ須木暁。

妖であり、善人あり、何より人間が大好きなんだ。

皆の笑顔が保たれれば、それが僕の幸せだよ。うん、そうだよ。本心だよ……。



−−−ごめん、全部嘘だよ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ