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:東の大嘘つきと暗黙談2

今更ながら、今回は共同戦線です。

「いやぁ、偶然だね二人共。いやはや偶然偶然。こんな事ってあるんだね。まったく、何処で進路を間違えたんだろう。この歳でボケなんて恥ずかしい限りだよ。……とまぁ、とりあえず言いたい事がありそうだからどうぞ」

「来んの遅い!!!!」

と言ったのは東神錯夜だ。その横には携帯食のパンを頬張る、従者の漸がいる。

街の奥に来ると、錯夜と漸が屋根の下で雨宿りをしていたのだ。

「ハンター共がいるかもしんないから、今回は二組行動だって言っただろ! 何してたんだ!!」

錯夜の妹、二階堂宮路からの報告上、もし合間舞えた場合、一組で太刀打ち出来ないと判断した、八十神野分の考えである。

そして割り振られたのが、

南、東神錯夜様、安芸ノ須木暁。

北、ギド・ディス・エース、二階堂宮路。

割り振りを聞いたときは、女性恐怖症のギドが半ば気絶しかけていたが、宮路と暁を組ませたら、宮路の血糖値が上がるのと、暁の命が危ないと判断した結果である。

「いやぁ、可愛い町娘を見かけてさ、ついつい軟派しちゃった」

「しちゃったじゃないわ!!」

「でもさぁ、可愛い娘を見かけたら声をかけるのが男の常識」

「じゃねぇ!!」

「じゃないかもしれないけど、ついつい女性をなめ回すような目で見ちゃう事はあるよね」

「そんな『つい』が生じるのは変態だけだろうがぁぁぁぁ!!」

「でも錯夜君。前回のおまけで従者とベーコンレタス炸裂させといて、変態を自覚しないのもどうかと思うぜ? てかなんで君が下なの? なんで方程式にすると君が右にいるの? ここは普通君が上に行き、更に左に行くべきなんじゃないのかい!? 帝国政府の局内から巷まで、自分が右に配置されてる薄い本が出回っていたら、君は悲しくないのかい!?」

「どうでもいい!!! 死ぬほど!!!!!」

国中に木霊する錯夜のツッコミ。

「どうしてそこに行き着いちゃったの!? あんたの外道スピリチュアルトークに合わせてあげられるほど俺の脳内はピンクでもお花畑でも一年中立春新春豊かでもねぇんだよ!」

「錯夜君、ツッコミくどい」

「うん、今自分でも思った!!」




「漸よ、某の主がすまなんだ」

「……ううん。へーき」

離れた屋根の下で、従者組は静かに熱いお茶を啜っていた。

「…兄ちゃんは元気だね、いつも……」

「困るがな。煩くて」

「……ねぇ、コガ兄。なんで兄ちゃん、びしょびしょなの……?」

凩は質問され、暁を見た。怒る錯夜を見ながら、雨の中で笑っていた。

下の屋根で見た笑顔と、同じだった。

暁以上に、雨が似合う男も少ないだろう。 格好いい、画になるという意味ではない。 単に、雨の中にいる彼が、妙に自然体だったのだ。

雨の下ならば、彼がいるのが当たり前という。雨があるから、そこに暁がいる。

何故だろうか。

そのような、よく解らない公式が成り立ってしまい、納得出来てしまう。

「雨が好きだそうだ……」

簡単に答えた。漸はお茶を口に運ぶ。

「……なんか、解る気がする…」

「そうか」

「だって兄ちゃん、泣いてるもの……」

漸の言葉に、暁の手が止まる。

「いや、泣いた跡がある、かな……」


『飲み水にも出来るし、洗濯の手間も省けるし、それに……』


「……暁、そういう事か…」

お茶から漂う湯気が屋根から出ていき、視界を遮り、暁がぼやける。

「…兄ちゃん、泣かせたの? 憎いねぇ…、コガ兄……」

「ど、何処でそんな言葉を覚えてきたのだ!!?」

「…嘘。でも、兄ちゃんらしいなぁ…」

目を細め、ローブに顔を沈める漸は、白い息を吐く。

「……どこまでも自分を隠して、どこまでも自分が大嫌いなところが……」




「で、暁。ナンパした女の子の話はいいから、それより、人を見掛けたか!?」

ただの口論で、息切れをする錯夜とは違い、暁は雨に濡れながらも涼しい顔をしている。

「いいや、見掛けてないよ。気配すらも感じないね。ここにも居なさそうだけど、錯夜君も見掛けてないのかい?」

「あぁ、裳抜けの空だよ。どうなってんだこんな立派な大国が……」

「さぁ。僕もそこまで情報通じゃないからなぁ。とりあえず、なんか胡散臭いんだよね。……うん、臭うんだ」

「に、臭う……?」

暁の言動に、錯夜は小首を傾げた。

「人が居なくなっても、入国手続きの警備員はいる。てことは、まだ人が居なくなって日が浅いと僕は読んだ。でもそこで不思議なのが、なんで大国の人間全員が居なくならなくちゃならなかったのか…かな…? 僕は君みたいに頭は良くないから、人の行方を探す知恵も無ければ、策士にもなれない。『策士策に溺れる』に為りかねないから……。で、どうだい? 錯夜君」

錯夜は手を顎に添える。フードから流れ落ちる雨の滴を睨みながら、今後の事を考えていた。

「…くしゅっ!」

嚔をしてしまった。暁は吹き出した。

「とりあえず、何処か入ろうか。君が風邪引いたら、君の従者とキャッキャウフフに為りかねないし、薄い本が作成されそうだし……」

「う、煩い! くしゅっ! お前こそ風邪引くぞ? フード被れよ」

「ありがとう。でもいいよ。いいんだ…」

暁は後ろに振り返る。コートの端から雨粒が悲し気に散り、錯夜は、暁のその折れそうな芯で支える背中に見入った。

雨に似合う、冷たい表情をして、暁は雨にかき消されるぐらい小さな声で、そっと呟いた。

「…僕は、このままでいい……」


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