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:東西南北の皆無だった赤面事情2

会話量多い。

八十神野分は、46代目『八十神野分』である。

と言っても、いきなりそう言われては解らない者が大半だろう。

『Record』設立者、初代『八十神野分』から代々受け継ぐ者は、男性だろうと女性だろうと『八十神野分』と名乗る。

そんな46代目の八十神野分は、現在帝国政府本部に身を置きながら、なかなか減らない書類を処理している。

「……モノローグはこんな感じでいいかい? 局長さん…?」

「いや、いきなり生々しい話をするなよ。…つか同じネタを使い回すな」

「お前も人の事言えねぇだろうが。嵐山野郎が」

「俺は修学旅行生のお土産スポットじゃねぇからな?」

書類のファイルで肩を叩きながら、呆れた顔で言う。

「野分様、ご無沙汰しております」

「…冥利ぃ……。お前だけだよ俺を敬ってくれるのは……」

「……!! 野分兄ちゃん……?」

凩に抱かれて寝ていた漸の耳がピクリと動き、寝ぼけ眼で野分きを見つめると、凩の腕を離れ、駆け足で野分の胸に飛び付く。

「兄ちゃん! 野分兄ちゃん! 会いたかった……!!」

寝起きとは思えない太陽の様な笑顔で野分の胸で甘え、首に摺より、キスをねだり出し始める。

「おぉよしよし、漸。いい子いい子。本当に久しぶりだな。俺も会いたかったよ」

耳を弄りながら額にキスを落としてやる。漸は首に腕を回し、気持ち良さそうな声を出した。

野分は漸を抱き上げると、皆が寛ぐ方へ足を運んだ。

「八十神さん、すみません」

錯夜が立ち上がり、頭を下げる。

「別にいいよ。漸はもれなく可愛いしな。大丈夫だよ。錯夜もお前らもお疲れ様」

「給料弾んでくれるんですよね!?」

「煉影、お前は相変わらずだな…」

またもや耳を弄りながら煉影のがめつさに苦笑する。

「ん、ぅ……。兄ちゃん、や、ぁ………。くすぐったい……」

「局長の獣耳フェチも鈍らないな」

ギドが頬杖を付きながら言う。

野分が漸を愛でるときは、必ず漸の狐の耳を弄る。野分はとにかく動物が大好きらしい。

「だって漸の耳すごい気持ちいいんだ。ホニホニするのが楽しくてな。錯夜はいいよなぁ。こいつの耳いつも触れて」

「確かに、野宿の時は、こいつの鎖を解いて、九尾を布団代わりにしているな…」

「漸君の毛皮は確かに気持ちいいだろうね。上質な毛布みたいで…。それこそ錯夜君が羨ましいなぁ。ウチはただの鬼だからねぇ……」

「暁、卿も端くれながら鬼であろうに」

「なんだい凩。野宿の際は君が僕を抱いて寝てくれるとでも言うのかい?」

「卿が望むなら、某は別に構わんが…?」

「ざぁんねん。僕は宮路君か煉影ちゃんか解放(リベレイション)した漸君に抱かれて寝たいんだよ」

「死んでもお前なんかには、んなパッションピンク染みた事しねぇけどな。お前なんかにやるぐらいなら、その辺のチンピラかヘタレな野分にやった方がまだマシだぜ」

「私は貯金全部くれるならいいですよ?」

女性陣の発言に、暁は笑うしかない。やれやれと掌を上に上げた。

「で、お前ら、なんか報告はあるか…?」

野分きは椅子に腰掛けると、漸を膝に座らせる。

「東は何もありません。記録したのは、吸血鬼です」

「西も異常なし。記録は犬神」

「南は女の子のそうく…」

「南も同じく、特に変わった事はなかった。記録したのは鬼だけだ」

「宮路ちゃんはどうだ? 北は何かあったか……?」

「よくぞ聞いてくれた。大有りだぜ?」

宮路はニヤリと口の端を上げる。皆の視線が、彼女に向く。

「一応報告はするぜ。記録は猫又と鳳凰。で、俺が言いてぇのが、敵の存在だ。『何者かである者』を抹殺する者。……奴はそう言った」

「抹殺……?」

鸚鵡返しに凩が聞くと、今度は冥利が口を開く。

「…我々と同じ、黒装束を身に纏った、20代前半ほどの青年でした。銀狼の子供を連れていて、ロアと名乗り、私とお嬢様の事を知っていました」

「ただ知ってるだけじゃねぇ。俺は二階堂の家に養子入りして苗字が違うにも関わらず、俺が東神錯夜の妹って事も知ってた。勿論、冥利がレンの弟って事もだ。しかも奴は、俺の事をそこの変態と同じく『宮路君』って呼んできて、あろう事か、『相変わらず』なんて、見知ったような口さえ言ってきやがった。そこは『戸惑わせる作戦』って疑う所なんだが、奴の素振りは、演技にゃ見えなかった。だから、奴は俺達、東西南北に散った『Record』の情報を全て把握してる可能性が高い」

「宮路、そいつは他にはなんて言った?」

錯夜から問いに、宮路は記憶を探るように、顎に手を当てて考える。

「『君がそんなんだから、俺の仕事が増えるんだよ』って…」

「……思い出した…」

凩が口を開く。

「ロア・ヴィンス・ナイレン。殺し屋より残忍な反帝国政府組織の上を仕切ってる男だ。鬼の中ではかなり有名な奴でな。某も一度、接触した事がある……」

「確かかい? 凩」

「あぁ。組織の名前は『Rebellion』。反逆という意味だ。奴等にとっては、我々は邪魔であろうな。そもそも奴等の集まりとは、『何者かである者』に身内を殺された者から、嫌悪している者、逆に、殺したいほど好きで殺しを好む狂った者という、異端者の集まりだからな」

「随分詳しいな、旦那」

ギドが発言する。ファイルを閉じた野分はその後に続けた。

「そいつが宮路ちゃんに接触してきたって事は、今度は全員に接触するかもしれんな。奴らも組織っていうぐらいだからな。一人じゃ無いだろうし。…しかし、『Rebellion』って言いにくいな……」

「え、いや、そこ……?」

「よし、略して『ハンター』で」

「いや、ハンターってもう一応合ってるからツッコミ入れる必要ないんですけど、なんかツッコミたい……」

錯夜がウズウズしている。

「…まぁ、今回はご苦労だった。皆出発は明日か……?」

「えぇ…。そのつもりです」

「そうか。まぁ今日はゆっくり休んでくれ……。危ない夜は過ごすなよぉ?」

「「「「「「「「やかましいわ」」」」」」」」

「『かま』だけ……」

「「「「「「「言わせぇねぇぞ」」」」」」」」


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