:東西南北と皆無だった赤面事情
東西南北の皆が集まっているせいで、とってもとってもやかましいです。
「ロールプレイングゲームに最終的なクリア条件はこれと言って存在しないわけだけど、まぁ、ラスボス倒して終わり…? 継続? 周回? みたいな……。でも、もしそのゲームに『これをコンプすれば称号が貰える』みたいなのがあると、特典イベントが! 大好きな声優さんが! と思い巡らせ、ユーザーはその条件を満たそうと頑張るわけだけどさ。……でもさ、よくよく考えると、ゲーム会社は無理矢理ゲームのクリア条件をケチ臭くして、ユーザーを呑めり込ませようとしてんじゃないのかなぁって思うんだよね。……宮路君、君はどう思う…?」
そう言った暁のこめかみに、いかにも機嫌が悪そうな宮路が歪んだ笑顔で、銃口を添える。
「開口一番からごちゃごちゃ五月蝿ぇんだよエセニートが! そのスカスカな脳ミソぶち抜いてやるから大人しく殺されろ!!」
暁は愛想のいい笑顔を崩さず、ケタケタと笑っていた。
「いけないよ宮路君。そんな野蛮な物を人に向けちゃぁさ。ほら見てみなよ、君のお兄さんも従者も、揃いも揃ってしどろもどろだぜ…? ねぇ錯夜君、冥利君」
振られると、向かいにいた二人は立ち上がった。
「そうだぞ宮路! お兄ちゃんは一人手でお前を育ててきたが、そんな野蛮に育てた覚えはねぇぞ!!? まぁそいつならゴキブリ並みに生命力あるから問題ないが!」
「そうですよお嬢様! 錯夜様の前だからと照れくさいのも解りますが! いきなり銃口を向けてはなりません! 暁様なら、謝罪は一ミリも必要ないとは思いますが!」
「ねぇ。君達は僕の従者かい? なんで同意をしたどさくさに紛れてもれなく罵倒が付いてくるんだい? そんなサディスティックなおまけはノーサンキューだぜ?」
錯夜と冥利の言葉に、やはり笑顔で応じる。ここまで来ると不気味である。
「宮路嬢。某の主がすまなんだ。馬鹿と踏まえた上で、どうか銃口を下ろしていただけぬか」
宮路の背後から、銃口を下げさせて来たのは、暁の従者である凩だ。宮路は銃を上げる。
「まぁ、旦那が言うなら仕方ねぇな」
「ほら冥利も! 暁さんなら良いものの、いきなり失礼な事言っちゃ駄目だよ!」
そう発言したのは、冥利の姉である煉影だ。煉影は失礼と言っておきながら、暁を指差している。
「煉影ちゃん。野郎ならともかく、女の子に指差されるって、かなりつら…」
「おそらく20代のくせに頭が中年男性思考野郎は黙ってて下さい!!」
「うわ……! きたよ、きたよ、煉影ちゃんの罵倒。……結構これ応えるねギド君」
「俺は応える応えない以前に、異性と一緒ってだけで常時崖に追い詰められた犯人だよ……」
「足フェチは、貴方ですね!」
「そうです。15歳以上の女の子の足見ててすみませんでしたってやかましいわこの腐れ鬼畜生が!!」
暁の頭にギドの平手打ちがかまされる。かなり乾いた音がした。
「……? にゃ、ぁ……?」
乾いた音に暁の膝で丸まって寝ていた漸が起きる。
「おや漸君、起きたかい? 僕の膝はよく眠れたかな…?」
前髪を掻き分けるように髪と、頭を撫でた。漸はもぞもぞと動き、暁の首筋に頬擦りをする。
「……ん。錯夜様が一番ですが……。暁の兄ちゃんも、凄く温かくて気持ちいい、です………」
そのまま暁の首筋に唇を落とした。
「おやおや。悪いね錯夜君。君の従者を取っちゃって……」
「嫌だなぁ、暁さん。膝が解放されてこっちは万々歳だよ」
「こちらも漸が相手してくれて万々歳だ」
凩は錯夜の横で腕を組みながら言った。漸を愛でながら暁は笑顔でいる。
「ミヤちゃん、冥利なんかしなかった? 大丈夫?」
煉影はマガジンの入れ換えをしている宮路に問い掛ける。
「そうだな。背後から抱きついてきたり、キスされたり…。されたことと言えば散々だぜ……?」
−−−ガシャン!
「あ、姉上!? なぜ鎌を構えているのですか……!!?」
「『かま』だけに……?」
「やかましいわ!!」
冥利が言葉遣いを崩した瞬間である。
「ミヤちゃんになんて事するの! いくらミヤちゃんが可愛いからって、そんな事しちゃ駄目だよ!!」
「待てよレン! 俺の何処が可愛いんだよ! 変な事抜かすな!!」
「宮路君がそんなんで危なっかしいから、守ってあげたいって思うんじゃないのかい? 愛されてるねぇ。お兄ちゃんとしてはどうなんだい?」
「あんな野蛮な妹でも好きになってくれて嬉しいよ……」
目を擦りながら涙を拭う振りをする。錯夜は冥利の両手を力強く握った。
「宮路の事、よろしく頼むな冥利!」
「え、あ……。あの、錯夜様……。私は、まだお嬢様の隣にいるには未熟な……」
「いや、お前だけが頼りだ!」
力強く推されると、冥利は頬を赤くしながら、小さく頷いた。
「おい兄貴! なに勝手に言ってやがんだ! 俺はこんな青二才認めねぇぞ!」
「いやいや宮路君。『まだ』認めてない……じゃないの……?」
その暁の言葉にキレたのか、宮路は目を赤く光らせ、銃器を纏い、全ての銃口を暁に向ける。
「いちいちいちいちちまちまちまちまうるせぇんだよこのトークヘンボクがぁ!! 鬼の欠陥品だかなんだか知らねぇが今ここで天にめしてやるわ!! 覚悟しやがれぇぇぇ!!!」
「お待ちくださいお嬢様!!」
「やめろ宮路! そいつに怒ったらエネルギーの無駄だ!!」
冥利と錯夜が宮路を押さえる。
「っせぇ! はっなせ兄貴、冥利!! こいつには一旦眉間ぶち抜かねぇと気が済まねぇんだよ!!」
「死ぬよねそれ」
「元から灰にするつもりだゴルぁぁぁぁ!!」
笑っている暁の頭に、凩の拳が降ってくる。暁は「アイタ」と声を漏らす。凩は膝に座っている漸を抱え上げる。
「あまりからかってやるな暁」
「いいじゃないか。僕の唯一の楽しみなんだからさ」
「う、ん……? コガ兄? ご飯…?」
「いや、飯はまだ半刻ほど先だ。まだ寝ていていいぞ…?」
「凩さん! お金はいつ出ますか!?」
「知らん」
よく解らない煉影の振りに、凩は呆れ顔で言った。
「主人! 私、やっぱり諭吉が恋しいです!! 下さい!!」
「だぁ!!? やめろ、来ないでくれ! 死ぬ!! ……ってうわぁ!? 抱きつくなぁ!!!」
「そこぉ、イチャイチャするなぁ」
そんな時、騒がしい部屋に一人の青年が入ってきた。
長い黒髪は一つに纏められ、目元は優しい。黒いロングコートは装飾が激しく、見た目物腰が柔らかそうな青年だ。
「相変わらず元気だなぁ、お前ら…」
暴れていた宮路も、ギドに金を要求する煉影も、漸を寝かし付ける凩も、宮路を止める冥利と錯夜も静まる。
暁はギシッと椅子にもたれた。
「やぁ、八十神野分。気分は良好かい?」
「呼び捨てすんなよ。これでもお前らの上司だぞ…?」
「あぁ失礼。で、久しぶり。八十神局長さん……?」




