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:北の偽者と黙示見聞録6

固定キャラの存在とは一体……。

「なんで共存出来ないのかな……。なんで共存しようとするのかな……」

「クゥン……」

「出来ないなら、しなければいい。…それでいいじゃない。……だから、そんなんだから、俺の『仕事』が増えるんだよ……。ねぇ宮路君。……君はなんの為に、皆の存在を証明するの……?」




北の豪邸。

冥利は、錫杖を使わず合気道と手刀で、使用人達を気絶させていた。しかし、呪術を使うよりマシとはいえ、数が多いのもあればひっきり無しに来る素早い使用人達を一度に相手するのは、流石に戦闘慣れしている冥利でも辛い。

「キリがない……!!」

使用人達は混乱状態にあるせいで、隙あらば主であるカレンを襲う。しかし彼女も猫又であるだけ、動きが俊敏である。傷つけまいと、護身術で応戦している。

「カレンさん、離れないで下さい!」

冥利はやむを得ずカレンの身体を抱き寄せると、「失礼します」と謝りを入れ、抱え上げると、窓から出る。使用人達は案の定追い掛けて来る。冥利は屋根を上がり、鐘の下にやって来る。カレンをそこに下ろすと、冥利は下を伺う。使用人達が上に上がってくる。冥利はカレンを見る。

「弁償は、帝国が責任を持ってしますので、ご安心を…」

カレンの返事を待たず、冥利は錫杖を足元で構えると、その先端を鐘を吊り下げている金具に向かって、振り上げる。

鼓膜に痛い金属音が響き渡ると、鐘は屋根を崩しながら、使用人達一直線に崩れながら落ちてくる。

「……!!?」

「み、皆さん…!!」

「この程度なら下敷きになるぐらいです。急ぎましょう」

「ど、何処へ……?」

「お嬢様の所です」

そういうと、カレンを抱き、下に降りた。



「あぁあぁ……。鳥に啄まれる趣味はねぇってのに……」

宮路は腕の出血を押さえながら言った。無論、ハーツも骨折に加え銃弾でかなりの重傷を負っているが、宮路も切り傷や火傷を負っている。額、腕、腹、足に深い切り傷を負い、ワイシャツは腕の部分を切り裂かれている。

「二階堂…と言ったか? お前は何者なんだ……」

「あぁ? 自己紹介聞いてなかったのかよ薄ら馬鹿が。俺は人間が大嫌いな人間だっつったろ?」

拳銃を拾い上げ、マガジンを外す。

「だから支離滅裂で荒唐無稽なお前達、異形の存在が大好きなんだよ。人間ほど単純すぎちゃ、学院の心理学も聞いて呆れらぁ。動物の方がよっぽど探求心を煽られるぜ。人間なんて、何処向いても馬鹿ばかりだからな……」

「なら、『何者かである者』に肩入れするのか?」

「いいや、俺は人間が大嫌いでも、腐っても堕ちても人間だ。だから、俺は正しいと思ったことをする。なんだ? 中立っつーのか? 輪廻転生しても、俺はそうするぜ?」

「その覚悟は、お前にあるのか…?」

肩に掛けていたライフルを持ち、自分の所持している銃をその場に落とした。

「なんのつもりだ……」

「これ以上流血サービスしちまったら、もれなく怒られちまうからな。リミッターを解除するだけだ。−−−さぁてやるぜ! かなりオーバースペックだがな、まぁ許してくれよなぁ!? 行くぜ、全召喚(オールスタンバイ)!!」

銃器が浮く。そして宮路の身体に形を変えて装備されていく。

手足を銃器の装備で覆われた宮路は、腕に付いた大型ライフルの長い銃口をハーツに向けた。

「火力はMAXだぜ? 至近距離でぶちかましてやるから、動くんじゃねぇぞ!! シュート!!!」

瞬時に銃口から弾では無く、衝撃波が撃ち出された。衝撃波はハーツ自身を狙わず、ハーツの羽を撃ち抜いた。視界を覆っていた炎の明かりは一気に消えた。

「〜〜〜〜〜!!!?」

声にならない悲鳴を上げるハーツ。

宮路は悶えるハーツを見て、歪んだ笑顔を浮かべ、だんだん笑い声を漏らす。

「は、はは……!! はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!」

狂っている。

ハーツは悲鳴を上げることも忘れ、目を疑った。

宮路の目が、血の色をしていた。元々自分を血を浴びてから赤かった宮路の目は、それ以上に赤かった。

赤い、紅い。

闇のように黒く蠢き、混ざり合い、目がつり上がっていく。傷口から血が吹き出る。

瞳孔が細長くなっていき、肉食動物の様な目になっていく。無風のその場に、殺気という風が流れてくる。

「………!!?」

「あぁあぁあぁあぁ……!! なんだこれ……。血がたぎる……。血が沸騰する……!! いいねいいねそのスクリーム…! 聞かせろよ! もっと!! なぁおい!!!」

衝撃波を再び放ち、もう片方の翼を撃ち抜き、街を照らしていた翼の光は消えた。

「ぐ、ぅ……!!?」

「終いしてしやるよ、不味い肉に用はねぇからな。『妖玉だけ回収すりゃぁ、てめぇらは全員お払い箱』だからなぁ!!!」

宮路が一思いに銃口に力を込め、発射する。その時だった。

「お嬢様!!!」

聞き慣れた声と共に、後ろから腕を回され、視界を手で覆われる。きつく抱き締められると、耳元から声が聞こえた。

「聞こえますか、お嬢様……。私の声が…………」

冥利だ。

そう認識すると、力が抜け、銃口が音を立てながら落ちる。身体の温度も、衝動も、一気に消えた。

「気を確かにしてください。思い出してください。貴女のその銃は、武器は、人を殺める為の物ではないはずです…。貴女のその武器は、世に背を向けてしまった者達を引き戻す為に、貴女が手にした物…。違いますか……?」

−−−ガシャン!

まとわりついていた装備が外れ、元の銃器の形に戻る。

「……冥利、ありがとな。もういいぞ。離れろ……」

「しかし…」

「いいから! 早く離れろ、恥ずかしいだろうが!!」

宮路は目の前の手を取り払うと、頬を赤らめて冥利と距離を取る。目は、いつも通りの藍色に戻っていて、それを見た冥利は表情を緩めた。

「やはり、貴女にはその瞳が一番合います……」

「な、なんだよ急に……」

「……藍色の瞳…。貴女のお兄様、錯夜様と同じ……」

宮路は目を背けた。

「貴女は昔から、憧れであった錯夜様と同じ目を持ったことが、一番の喜びと言っていました。……ですから、その憧れの元、どうか、世に背を向けてしまった者に、救いを与えてください……」

冥利は真っ直ぐと彼女を見つめる。

「私が愛した貴女は、信念に揺れる方ではありません。……そうでございましょう? 宮路お嬢様…」

自然に口にされた告白に、宮路の血圧が上がる。口を手の甲で押さえて、喉まで出掛かっている言葉を呑み込む。

「……わーった。わーったよ……。もうしねぇよ…」

口にしたはいいが、後味が悪い。

「……おい冥利、小太刀持ってるよな? 貸してくれ…」

手を差し出す宮路。冥利は不思議に思いながら懐から小太刀を出し、宮路に渡す。宮路はそれを受けとると、鞘を捨て去った。そしてつかつかと虫の息のハーツに歩み寄る。冥利の血の気が引いた。

「まさか…! いけません、お嬢様!」

だが、宮路の耳には届いていないのか、はたまた無視をしているのか。反応が見られない。

一瞬でも本気だった『紅夜の使徒』に腕を折られ、羽さえも失う結果になったハーツは、最後の抵抗として宮路を睨み付け、一方宮路は見下した。

「お前、さっき俺に輪廻転生しても、己の信念を貫く覚悟がどうとか言ってたよな…? 悪いが、俺はまだ死んでねぇから、その証明は出来ない。が、これからの事は、もう腹をくくった」

宮路はそう言うと、片手で髪の毛をまとめ上げると、小太刀をそのまとめた根本に持ってきて、そのまま髪の毛に刃を入れ、切り落とした。

『……!!?』

ハーツ、冥利、カレンが目を疑った。宮路は小太刀をその場に落とし、切った髪の毛を風の吹く方に流す。

「俺はもう、間違ったやり方で『何者かである者』を正当化しない。『紅夜の使徒』の力に勝って、無駄な血を流させない。最初に武器を取ったときの志を貫く。これは、その覚悟の証だ……」

「………」

「……見てくれたよな。俺の覚悟。故に、俺はお前を殺さない。大人しく降参してくれ。天秤が傾く方向がどちらか、解るよな。−−−鳳凰」

ハーツは睨んでいた目を緩め、一旦目を伏せる。

「……降参しよう」

それを聞いた宮路は、薄く笑う。

「そうか、よか……っ!!!?」

肉に無理矢理刃が入ったような音。宮路は目の前の光景を疑った。

ハーツの身体の中心を、大きな氷の刃が貫いていた。

「鳳凰!!」

即死だった。もう気配は無い。

宮路も冥利もその場を見渡した。

「こいつが首謀者じゃねぇのか!? まだ何かいるってのか!!?」

「きゃぁっ!!?」

カレンの悲鳴の向こうに目を向けると、カレンは見知らぬ青年の手に握られていた氷の刃を、首に突き立てられていた。

おかしい。

カレンと冥利の距離は2メートルほどだった。それは今でも変わらない。

−−−だからって、『あの』冥利があの距離で気配を感じなかっただと…!? しかも、刃を立たせるまでの隙まで与えるほどに……!?

「てめぇ誰だ!! お嬢さんを離せ!!」

「宮路君、君は相変わらずだね……」

澄んだ声で自分の名前を口にする青年。そのまま続けた。

「君が中途半端な事するから、俺の仕事が増えるんだよ…。いい加減にしてくれないかな? これでも労働力は無い方なんだからさ……」

「なんで俺の名前を……!」

「知ってるよ。知ってるよ二階堂宮路君。いや、宮路ちゃん。帝国軍の狙撃部隊の隊長で、東を持ち場にしている、東神錯夜の実の妹さん……。で、ワンちゃんの君はその従者の冥利君。西を持ち場にしている、煉影の実の弟……。もっと言おうか…?」

「「………!!!?」」

青年はカレンを離し、背中を乱暴に押し、冥利に返す。

「…行くよ、クロード……」

その青年の背後から、銀狼の子供が顔を出すと、青年はクロードと呼んだその銀狼の子供を抱き上げる。

「今回はあいさつだけ……。その鳳凰を殺すことだけだったからね……。そろそろ行くとするよ…」

「待てよ! 質問に答えろ!! お前は誰だ! 焦らしたらただじゃ帰さねぇぞ!!」

「野蛮だな宮路君。…解ったよ。名乗って上げるよ……。

−−−俺はロア。『何者かである者』の抹殺を任された者だよ。これから仲良くしてね……?」



・二階堂宮路 『Record』記録師ver.古書

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その後の事は覚えていない。

気が付いたら、カレンの家のベッドで朝を迎えていた。

なんでも、気を失って倒れていた宮路達を、正気に戻った使用人達が運んでくれたらしい。

傷の治療もされ、ご飯を少量もらう。

そんな時、別の部屋で寝ていた冥利が訪ねてきた。

「…よぅ、よく眠れたか?」

「えぇ、お陰様で……。お嬢様も、怪我の具合は如何ですか?」

「五体満足だ。問題はねぇよ…。あ、そうだそうだ。おい冥利、頼みてぇ事があんだけどよ……」

冥利は手招かれると、ベッドの横に腰を下ろす。

「……髪の毛、整えてくんねぇか?」

確かに、宮路の髪は雑に刃を入れたため、毛先がバラバラである。

ボブを通り越してショートカットになった宮路は、どこをどう見ても男性だ。それはそれで新鮮である。

「解りました。今やりますね」

「頼む」

宮路はあらかじめ用意していた鋏を渡す。冥利は近くにあった新聞紙を広げると、鋏を受け取り、髪の毛を整え始めた。

「……ははっ。もう俺、本当に男みてぇだな…。髪は女の命、一回死んだ気分だぜ………」

どんどん切り揃えられていく。宮路は続けた。

「まぁでも、切ったおかげで頭は大分軽くなったし、手入れに気ぃかける必要もねぇし、むしろよかったかもな」

鋏の音が止み、新聞紙が丸められる音が聞こえる。

「お? 終わったのか? 流石早いな、冥利。ありが……」

言葉を呑んだ。冥利は宮路の肩に顔を埋め、前に優しく腕を回す。

「お、おい、冥利……?」

「もう、無茶な事はしないで下さい…」

冥利は唇を耳元まで持ってくると、髪の毛に口付けを落とし、指で鎖骨をなぞった。

「……!? んだよ、いきなりプレイボーイかましやがって……。なんだかんだ言って、冥利君も年頃だねぇ…」

余裕ぶって言う宮路。が、その余裕ぶった口は、冥利の唇で塞がれる。

「ん……!? ぅ……」

冥利の手が髪や耳を撫で、唇を優しく啄まれた。

「〜〜〜!? …っか野郎! 離れろ!!」

冥利の身体を引き剥がすと、口を直ぐ様押さえた。冥利は裏腹に、宮路に笑って見せた。

「…とても、お綺麗ですよ。宮路お嬢様。……まったく持って愛しい……」

「……!!?」

「また髪、伸ばしてくださいね……?」

「さぁな。知るかよ……」

宮路は冥利にしてやられたと思うと、鋭い目付きで睨み付ける。

「…兄貴が認めても、お、俺はまだ認めてねぇからな! 俺をモノにしてぇなら、それなりの男になりやがれ! お前なんてまだ三流だからな! 覚えてやがれ!!」

「……はい。貴女に認められる男になれるよう、日々精進いたします……」


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