表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/51

:北の偽者と黙示見聞録4

早いです。展開が。

宮路は夜の中、北の豪邸の屋根の上に、仁王立ちして腕を組み、街を見下ろしていた。街はまだ明るい。戦いの場を攻略するように見渡すと、歪んだ笑顔を浮かべた。横にいる冥利は片膝を付きながら錫杖を磨き、手袋をはめる。

「……!! 相手も動いたか…!!」

「前方北北西に、だそうです……」

「クハハハハ……。殺り合おうじゃねぇか……」

「まだいけません」

冥利が内心慌て錫杖を前に出す。宮路は舌打ちをした。

「しかし、カレンさんは戦いに参加させないのですか…?」

「あぁ、仔猫ちゃんにゃぁ悪いがな、御令嬢に傷が着いちゃまずい。そこは俺の立場もあるからな。よって、仔猫ちゃんは俺が守るってこった!!」

「ニュアンスを取り違えると、とんでもない誤解になりますよ?」

「抜かせ!!」

すると、前方から爆音と共に、煙が上がる。冥利は錫杖を払った。

「お嬢様!!」

「戦闘開始の狼煙ってかぁ? いいぜ、先制を譲ってやったんだ。楽しませてくれよぉ……!!!?」




敵の一人が、銃を片手に徘徊していた。回りを警戒しながら歩いていると、砂とタイルが擦れる音が聞こえ、素早く構えた。が、力は直ぐに緩まる。

「……クゥン…」

「い、犬……?」

驚いて損したと、敵は銃を下ろす。犬は路地裏に戻って行った。

「ばぁか」

敵の背中が、スーツ越しに斜めに引き裂かれた。敵は掠れた声を出してその場に倒れる。

引き裂いた人物は、一人の青年だった。血に濡れた爪先を舐める。月明かりに映えるその容姿は、どこか穏やかであった。

長い黒髪は緩く後ろで結われ、結い紐が靡く。白いファーがついた薄手の黒いコートの下は、黒一色のスーツだった。

青年は手元の小太刀に付いた血を舐め上げる。

「愚かな……」

青年はそう吐き捨てると、小太刀を払い、持ち直す。

「……!!?」

その場を素早くバックステップで離れると、瞬時に弾丸が飛んできた。

「いたぞ! あの猫の使いだ! 撃ち殺せ!!」

声の方向には、男が三人。青年は足を移動させると、飛んでくる弾丸を後方に残し、男達の前に姿を現す。

「な……っ!」

青年は目を見開かせると、目の前の男達に念を送るように瞳孔を縮ませると、男達はいきなり気を失い、その場に倒れる。

「ほっんと、愚かだね……。まったくもって、実にくだらない……」

冷めた声音でそう言うと、小太刀をコートの内側へしまった。




「おらおらどうした虫けらが!! なんもしねぇなら塵にするぜぇ!!?」

宮路はこれまでにないご満悦な顔で、掟破りのシェットシェル二丁を構えて敵を、文字どおり蹴散らしていた。

「調子に乗るなクソガキ!!」

敵は宮路の背後を捉えるも、瞬時に頭に痛みを覚え、倒れる。

「ナイス援護、冥利」

「気を付けてください。お嬢様は何処までも危ういんですから……」

「虎穴に入るのだぁいすき!!」

「そのようで……」

呆れた。冥利は魔方陣を展開する。

「……汝、我が炎の前に、刹那に散り行け…軍勝秘呪(グンショウヒジュ)!!」

魔方陣の端から夜を照らす炎が、火柱の如く上がる。

「け…っ、いい仕事しやがんなぁ…。んじゃ、ご主人様も、盛大に中2病炸裂させんぜぇ!!?」

宮路は銃口を上に向ける。

「頭上にはご注意くだせぇ!! 流星群!!」

二丁のシェットシェルから、無数の弾丸が飛び出し、敵が空に目を向けると、冥利の火柱と、宮路の放った弾丸が隕石のように降り注ぐ、正にその手前だった。

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!?」

「「チェック……!!」」

街に一気に響いた爆発音。二人はその爆発音を後方に残して、次に向かう。

「い、いきなり流星群を使うとは…」

「祭は派手にやらねぇとな!」

「祭ではありません!」

「………?」

少し離れた所で、宮路が速度を落とし、辺りを見渡し始めた。冥利は数歩離れた場所で止まる。

「……おい、猫ちゃん達にゃぁ、ここまで来る指示は出してねぇよな…?」

「お嬢様がそう指示したのは、私も覚えています。それがどうかしましたか?」

宮路は冷や汗を流した。

「……俺達は協力者だぜ? なんで……。なんで、今そこらの建物の陰にいる数匹の猫ちゃん達が、俺らを狙って構えてんのかねぇ……?」




「ヒスカ、誰にやられたんですか!? 治癒を……!」

カレンは使用人の一人に駆け寄ると、救急箱を置き、消毒液やらを出す。

「……カレン様、実は……。仲間に、やられて……」

「仲間って、家の者にですか!?」

ヒスカは黙って頷く。

「そ、そんな……! なんで……」

「同僚は皆、目の色が変わっていました………。まるで、身体を操られているような…どれにしても、正気のようには見えませんでした……」

カレンの血の気が引いていく。

「に、二階堂さん……。冥利さん……」




「どういうこった猫ちゃんよぉ!!」

宮路はライフルの銃口を払い、襲い掛かってくる使用人とメイドを薙ぎ倒す。四方八方から来ると、ウェスタンブーツで蹴り払う。

「つか、猫耳付けたメイドさん殴るのは気が引けんぜ……」

「お嬢様後ろ!!!」

振り替える。だが構えるには遅く、腕を切り裂かれた。

「〜〜〜〜〜!!? ってくれん、なぁ!!!」

反対の拳を顔面に叩き込んだ。そのあとに回りに殺気をぶち撒ける様に鋭い目を巡らせた。使用人達はぴたりと動きを止める。そして唖然とした。

−−−宮路の目が、赤い。

血のように赤く、また、闇のように黒くも捕らえるその目は、宮路の目の中でぐるぐると回っている。無機物でも見ているような目だ。

「っざっけんなよ。そっちの気はねぇっつーのに……」

宮路は呟く。すると、使用人の一人が口を開き、震えた声で言った。

「く、紅夜(クヨ)の使人……!!!」

どよめいた。宮路は目を細める。

紅夜の使人。赤い目を持つ、獰猛な妖怪、神獣達を従える戦闘種族。普段は何変わらぬ普通の目をしているが、一度本性を露にすると、その目は赤く染まる。また、自身の血を見ると変わることがある。種族は人間との区別を無くすため、あえて容姿に優れた者と身を結び、以後、生まれてくる者は、九割が美男美女である。

戦闘であれど拒まぬ。むしろ、歓喜という種族。それが紅夜の使人だ。

「う、う…っ! うわぁぁぁ!?」

使用人の一人が取り乱し、宮路に突っ込んでくる。宮路は込み上げる殺意に耐えながら、黙って攻撃を受けようと構えた。

−−−ドッ!!!

鈍い音と共に、宮路に入ってきたのは、使用人の身体を貫く鈍色の刃の姿。使用人は枯れた声を出すと、その場に吐血して、だらんと身体の力を抜いていった。

「……!? ……!!?」

宮路が驚いていると、身体を冥利に抱き寄せられて、その場を離された。

「おい何してんだ、離せ!」

腕の中で叫ぶも、冥利は前方を睨んで動こうとしない。宮路は気になって前を見ると、使用人の身体から刃を抜く男の姿があった。それもただの男ではない。

背中から、炎で覆われた翼が、夜に怪しく光っている。

「……んだ、あんたは」

宮路は問うと、男は渋い声で言った。

「異形の類い『何ものかである者』……。そう言ったところか。元より始末する予定だったが…。娘、貴様は紅夜の使人か」

「だったらなんだよ」

異形の男は黙っている。宮路は冥利から離れると、面倒臭そうに答える。

「知るかってんだ…。両親のどっちかがそうだったみてぇだが、今となっちゃどうでもいい。俺は紅夜の使人兼戦闘民族っていうだっけ……? だったら血に逆らっちゃ可哀想だろ? 俺は血に逆らわねぇよ!!」

「本能の、本性の、本望のままに、か…。愚かな……。いいだろう。そこの従者、力を解放しろ。二人まとめて相手してやろう。もう小細工は無しだ」

「2対1(ツーオンワン)か。俺はいいぜ? 冥利、お前はどうだ? リクエストだぜ?」

冥利は宮路の前に出る。宮路は笑いを溢し、笑い声を堪えた。

「…私はいつでも、貴女の仰せのままに…………」

「あぁあぁ!! やっぱ大好きだぜ冥利君!! 行ってやれ! 解放(リベレイション)!!」

夜に似た黒い煙が冥利を勢いよく包み、一瞬の内に晴れる。

黒い毛並みに、逞しい足が見え、綺麗な青い炎が揺らいでいる。鋭く闇に似た赤い目が男を睨んでいた。呪符が緩く身体を覆っている。人ではない。その姿は狼だった。

夜に合う遠吠えが、街に木霊する。

「まぁ、猫ちゃんと言やぁ、ワンちゃんだ。あんたも名乗ったらどうだ?」

男は羽を広げる。

「ハーツだ。身に纏いしは不死鳥! 人間を拒む者だ」

「なるほど理解した。俺は二階堂宮路! 人間が大嫌いな人間だ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ