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:北の偽者と黙示見聞録3

彼女の名前は、カレン・レイワースというらしい。

北の豪邸に住んでいる、御令嬢だそうだ。 今回、彼女がいた訳を聞くと、買い出しに護衛を陰に連れて行っていたところ、突然の銃声にパニックを起こして、その場を離れてしまったらしい。

そこに居合わせたのが、またもや宮路だったという、二度も助ける結果になった訳である。

現在は、彼女を助けたという理由で、豪邸に招かれている。更に言えば、宿も壊れてしまったので、ある意味都合がいい。

「……つか、なんで御令嬢が昼間にウエイトレスなんてやってんだよ…」

「あぁ! 言わないでください言わないでください!! 家の者にはお忍びでやっているんです……」

カレンは身体を縮める。

「先ほどの男……。やはり、知り合いなのですか…?」

単刀直入に聞いてきた冥利に対し、カレンは顔を上げて、激しく首を横に振る。

「本当に知らないんです! ……だけど、昼間といい、先ほどのことといい、訳が解らないんです……!」

「悪ぃな、疑うのも俺達の仕事なんだよ。…まぁ、そこまで言うなら本物だな……。でよ、知らないって言うなら、心当たりはあるか?」

宮路からの問いに、カレンは間を置いて、紅茶に映る自分を見た。するて立ち上がり、ブックラックから新聞を持ってきて、二人の前にとある記事の一面をテーブルの上に広げた。

そこには、連続殺人犯の事件内容があった。記事を読み進めていると、『被害者は、レイワース家のメイド』とある。

「おい、ここのメイドじゃねぇか。…って待てよ。この殺人犯が、さっきの男だっていうのか……?」

「……まぁ、第一印象がアレであれば、そう思うのも無理は無いですが……。奴の言葉を考えると、可能性はありますね……」

『お前の命、あと二日は無いと思え』

あんな言葉を言ったぐらいだ。次は彼女を狙うだろう。そして、関わるのなら、宮路も冥利も消される。

二人が帝国政府の人間だと知っていないだけ幸いだが、相手が何者か解らない以上、深追いは出来ない。

「おかしいんです……。この頃この街の様子が……。元々この街にも、マフィアはいるんですが……。一層ぴりぴりしてきて…」

「なるほどな……。つか、あんたを狙ってきたのは、ただの金銭欲か…?」

「多分、私達の毛皮かと……」

「「……………」」

沈黙。否、固まった。

カレンはこう言ったのだ。

「毛皮」と。

「…髪の毛……?」

「あぁ! す、すみません。そうですよね、びっくりしますよね…。実は……」

カレンは立ち上がると、目を閉じて力んだ表情をする。すると、耳が変形し始め、背後からも、ひょろりと長い物が流れる。

「これは……!!」

「わぉ、マジかよあんた…。驚いたぜ、お嬢さん。…いや、仔猫ちゃん…?」

「こ……!? や、やめてください!!」

仔猫。表するにはかなりぴったりだ。カレンの耳が髪に似たブロンドの猫耳になっている。背後には、長い尻尾が流れている。

「いやいや、マジで可愛いぜ? てか、昼間のメイド服にそれだったら、マニアにウケると思うがなぁ?」

「……!! そう、ですか……?」

赤くなるカレン。嬉しいのか照れなのか、尻尾が左右に揺れる。

「お嬢様、天然たらしもいい加減になさってください……」

宮路は無自覚だが、彼女は誰問わず口説く『ような』台詞を言ってしまう天然たらしである。容姿もあってか、被害者が多い。

「んぁ? 別にたらしてねぇよ。…あぁ、そうか、お前もしかして妬いてんのかぁ?」

「な……っ!?」

冥利の血色がいきなり良くなる。

「やだねぇ冥利。男の嫉妬は見苦しいぜぇ……?」

「ご、誤解なさらないで下さい!! 後から処理する私の身にもなってください!! 私が言いたいのはそこです!!」

「へぇへぇ……。以後気を付けるよ」

ニヤニヤと笑いながら見下すような目で見ると、冥利は顔を背ける。

「で、あんたのその毛皮を求めて……。まぁ、猫の毛皮な……。三味線にでも使うのか……?」

「練習用のばかり増やして、良いのですか……?」

「それか、猫又である私達の始末……」

カレンはソファに座る。

「あの男の言った言葉……。私にはそうしか聞こえなくて……。この街の人間は、妖怪を酷く嫌いますから……。昔、大量虐殺された時代に生きている人もいますので………って…」

カレンが宮路を見ると、何か小汚ない本を取り出したと思ったら立ち上がり、カレンの横にドサリと座ると、顔を近付けた。

「……!!?」

「ちょいと失礼……?」

宮路は本で軽く彼女の額を叩く。すると、鎖が鎖が砕けて、光を放つ。

「……ほい、猫又の回収おーっわり! 仕事も終わり! よし、じゃぁ行っか!!」

散々期待をさせておいたにも関わらず、宮路は何事もなかったかの様に立ち上がる。すると冥利も立ち上がり、共に部屋のドアに向かう。

「い、行くって何処へ……? というか、え、回収……。仕事って一体……」

宮路は振り替えると、ニヤリと笑いながら名乗り上げた。

「帝国軍隊長兼、帝国裏組織『Record』の、二階堂宮路だ。仕事は、記録をすること。……仔猫ちゃんよぉ、相手があと2日ってんなら、俺達は1日にしてやろうじゃねぇか………」

「え……」

「協力、してくれねぇか…? 伊達にお高くとまってねぇよって、痛い目見させてやるってんだ。……これも何かの縁だ。一緒に暴れてみねぇかい?」

宮路の誘惑に、カレンはキラキラと目を輝かせ、即答した。

「お、お願いします!!」

「……♪」

その横で冥利は頭を抱えた。

「家のモンに召集かけてくれ。至急だ!」

「はい!!」

カレンは入り口からかけて出ていく。

「お嬢様、その癖、なんとかなりませんか……?」

宮路はニヤリと何か感情を抑えるように、歪んだ笑顔を浮かべた。

「ごっめーん冥利君。生憎お嬢様は生粋のバトル馬鹿なモンでな? そろそろ諦めて、黙って従え。それに、なかなか愉快じゃねぇか……」

「……と、言いますと?」

「強面なお嬢様が、大量の仔猫ちゃん連れて、人払い♪ ゾックゾクしてたまんねぇんだよ……。血が沸騰するかっつーぐれぇになぁ……!!」



・二階堂宮路 『Record』記録師ver.古書

猫又 新規登録 確認完了



「裏組織の人間……?」

「あぁ、あのコート。それにあの野蛮な女、ありゃ帝国軍の隊長だ。しかも、狙撃部隊のエース」

「……作戦変更だ」

「と言うと?」

「今日中に叩く。武装許可を出す。全員、戦闘配置に着け!!」


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