:南の秘密主義者と劣等感6
展開が早いうえ、わかりずらい
「知ってるかい? 某ロールプレイングゲームでは、ボスはHP4分の1になると、こちら側から攻撃を受けていても、無条件で秘奥義をだせるんだ。大体は全体攻撃型の秘奥義が多いからね。攻略本に習った推定レベルで行くと大体はパーティ全滅ってなるから、僕はちゃっちゃとエンドロールが見たいから、かなりレベル上げて行くんだよ。だけどそれで悲しいのが、敵さんの秘奥義ともあろうものが、こちらのHP半分も削れないっていう、つまんない結果になる事さ。雑魚戦や準ボスで焦らして溜めておいた回復アイテムの意味が一気に消えるっていうね。……とまぁ、長々と失礼? とりあえず、レイドボスは独占タイム10分で倒してあげるから、そのつもりでね? 副賞は、強化アイテムとかどうでもいいから、下着の確認一択でよろしく」
「……だそうだぞ童」
「口が絶えぬ小僧が!! 一人増えたところで、倒すことなど雑作もないわ!!」
エナの髪の毛が蠢くと、握られた小刀が大きさを増し、二刀に別れる。
「…妖刀『黒鷹』と『夜』。なるほど、貴様は妖刀造りで名の知れた鬼一族の者か」
「我輩の村は、貴様によって滅ぼされたも同然。−−−我が名はエナ。弌柄等ノ囘梛だ!! いざ尋常に、参る!!」
エナが突っ込んでくる。まず凩が前に出る。大太刀を片手で持つと、妖刀と交える。
「……なっ!?」
凩の手が痺れる。力が緩んだところを狙ったエナはもう片方の妖刀で、凩の手首を狙う。
「背中がガラ空きだぜ、おっじょうちゃん!!?」
素早く後ろを取った暁が薙刀を振るう。
「嘗めるな小僧が!!」
直後、暁の目の前には、妖刀の一つ『黒鷹』の刃が現れる。瞬時に反応した暁は薙刀で防御する。
しかし、驚いたのは、その刀の様。
刀が宙に浮き、刀が一人手に暁を襲っていたのだ。
「……!!?」
「『黒鷹』は、狩りをする鷹の如く、敵を斬る。持ち主の意志に関係無くなぁ!!」
「冗談……!!」
妖刀は人に握られているような力で、暁に襲い掛かる。
妖刀を何とかせねばと、凩は『夜』を弾きに掛かる。
「……!!!」
またもや痺れる。力を加えれば加えるほど、感覚が麻痺してくる。
「馬鹿が!! 力を加えればお前の神経は壊れるぞ!!」
「厄介な!!」
凩は一旦離れ、舌打ちをする。暁も同じ事を考えたのか、妖刀と距離を取る。
「どうした? さっきまでの威勢はどうした! ならばこちらから行くぞ!!」
と言って刃を向けた方向は暁だった。
「暁!!!」
声を張り上げる凩の前には、『黒鷹』があった。
「暁!!! 右側の隙を狙えぇ!!!」
「ナイス遠距離援護、凩」
エナの胴を狙って刃を入れに掛かると、直ぐ様『夜』が入る。すると暁は刃を返し、ウェスンタンブーツのつま先を腹に妖刀ごと叩き込んだ
「……ぐ…ぁ……!!」
エナの身体は吹っ飛んだものの、暁の足には鈍い痛みが走る。痛みに気に描けていると、エナが距離を詰めて、足首を暁の首に叩き込んだ。
「……!?」
「よくもやってくれたな小僧! 死にさらしてくれる…!!」
エナは暁の前髪を掴むと、軽々と持ち上げる。しかし、暁は笑っていた。
「この期に及んでまだそんな顔をするのか。死が怖くないのか……?」
「さぁね、考えた事もないね」
どこまで軽い思考を持っているか。暁は続ける。
「死ぬことを拒絶した事はあったね。それで二回目の生を受けたわけだけど。しかし、死ぬことなんて、どうでもいい。朽ちる命を悔やんだところで、意味ないからね」
「………」
「……かと言って、僕はこう思うよ。生きることほど、幸福な事はないってね。生きることは劇的だ。いくら平凡でも退屈でも、それが人間でも植物でも、妖怪でも。……君達はそれを食した。幸せになる権利は平等にあれど、君達には、不幸になる権利があるね」
「……貴様ぁ!!!」
バキン……ッ!!!
金属の砕ける音。エナは後ろを振り向いた。するとそこには、息を切らした凩。
だけだった。
「な、んだと……!? 『黒鷹』が、まさか……!!」
凩の足元には、砕けた『黒鷹』の残骸が無惨にも散っている。
「凩が無駄に声を張り上げてたと思うかい? 全部、蓄積してたのさ」
「まさか、覇気を妖刀に蓄積していたのか……!!」
「御名答。ガチに渡り合ったら、キリがないからね。まったく、ウチの従者はどっかの鬼と違って利口だなぁ」
「小僧ぉ!!!」
『夜』を降り下ろすエナ。が、意図もあっさりそれを躊躇なく暁は刃を掴んで止めた。
その時だ。妖気を感じるエナ。しかも、目の前だ。みると、暁の耳の上辺りから、凩に似た歪な角が生えている。角の先から、通電のような電流が渡り、ピリピリと伝わる。手の甲に黒い邪印。頬に波打つ模様。金の瞳。エナは戦慄した。
「疲れるから本当は嫌だけどね? 同族が相手ならいいよね?」
「小僧、まさか貴様、同族か……!!?」
油断した。エナは腹に叩き込まれた暁の拳で、とんでもない距離まで飛ばされた。
「僕はおこぼれ。出来損ない、成り損ない、欠陥品さ。知りたくもない自分の姿。しかとその目に焼き付けてくれよ?」
おこぼれ。しかし、エナが受けた衝撃は、人間が使える腕力をずば抜けている。思わずその場に吐血した。胃が変形したのかと思うくらいぐるぐると血の巡りが悪い。
エナが声の方向に目を向けると、そこに暁の姿はない。が、後ろに気配を感じる。
二つも。
「「連携…」」
「………!!!?」
「「鬼衝連牙!!」
背後に走る衝撃に、血液が流れ出る。『夜』でも防御が間に合わない。吹き飛ばされる途中で見た敵の姿。
鬼が、二人いた。
「「連携……斬戯鬼!!」」
追うように放たれる斬撃。かわしたものの、休む暇はない。
「爆砕斬!!」
「なんだ、なんなんだ一体!!!!」
いきなり起こった連携攻撃に、エナはヤケクソになり、吠える。
「凩の態度からして、僕らはミスマッチっていう声が多いけど」
二人の鬼が声を揃える。
「「相性はこの上なくベストだ!!!」」
「烈空!!
「刀劇、刀踊り!!」
地中からの気配にエナはその場を離れる為、空中に逃げる。無数の刀が地面から突き出てくる。空中に逃げたものの、暁の放った斬撃が当たり、怯む。
が、更に最悪なのは、逃げたさきには、凩がいた。
「演舞、滅!!!」
目の前に凩がいない。が、胴に十字の傷が入り、声にならない悲鳴が口から漏れる。落下地点に目を移すと、鬼が二人構えていた。
「「連携……、鬼神・白雷光!!」」
薙刀と大太刀が上がったと思うと、それは直ぐに地面に突き刺される。すると、エナの視界が一気に白く輝いた。
そして身が焼けるような落雷が、エナの身体を貫いた。
「さぁて、下着の確認確認」
「やめろ馬鹿者」
脳天にげんこつを落とす。
「焼死体の下着なぞ、悪趣味にも程がある……」
「最もだ……」
二人の前には、見るも無惨な鬼女の焼死体があった。顔と身体の原型はなく、真ん中がぽっかり開いている。
「何故殺したのだ……? 童の中にあった妖玉を狙ったとはいえ、殺すまで火力を上げるなど……」
暁は悲しそうな顔をしながら笑い、目を細めた。
「救いたかったけどね、もう気付いた時には遅かった。…元の女の子の身体が、完全に乗っ取られてたから、あの土壇場で彼女を救い出す方法が思い付いたら、それはそれで都合が良かったんだけど……。駄目だったみたい……」
「……暁…」
暁は脱力するように目を閉じると、姿を人間に戻していく。戻った直後、暁の身体が崩れ落ちる。
「暁!」
凩は素早く暁を支えた。
「あぁ、ありがとう……。やっぱ、無理するモンじゃないね……。すごく疲れた…。君は平気かい……?」
「某は大事ない……。しかし、今は卿の方が……」
暁は凩の腕を支えに自力で立つと、再び焼死体を見る。
「…凩……。気付いた時には遅かったって言ったでしょ…? 意味解る……?」
暁を支えながら凩は答えた。
「童がまだ、妖玉の中に生きるおなごがまだ生きていた……ということか……?」
「そう……。救いたかったなぁ………」
やはりまだ自力で立てないのか、凩に身を預ける。凩は暁を担ぎ、おぶると、その場を後にするように歩き始める。
「凩……?」
「卿が救えないと悟ったのなら、それが正解だったのだろう。卿はひねくれてはいるが、常に正しい。正しすぎるほどに……。某は卿を責め立てたりはしない……」
暁はそれを聞くと、凩の首を締めるぐらい強い力でしがみつき、肩に顔を沈めた。
「……ねぇ、凩。僕は、欠陥品の分際で、妖玉の鬼女を殺したけど、どうなるのかな………。残った鬼は……」
「山に帰るか、死ぬか……。いずれかであろうな……」
「そうか。まるで、前の僕みたい……」
凩は足を止めた。
「あの時は、本当に東西南北お先真っ暗で……。死ぬことしか考えてなかった……。だけど、何処かの鬼に救われた……。嬉しかったなぁ。何を思ったのか、生きていてくれって泣きながら言ってくるからさ……。一族でも、皆、人間との混血ってだけで嫌悪して、差別を受けて、死んだところで悲しむ奴なんていないのに……。嫌われ者の僕に、唯一泣いてくれた……」
「……暁…」
「……ありがとう、靄。君には、救われてばかりだ……」
凩は照れくさそうに顔を赤らめると、そそくさと歩き始めた。
「……某も、卿のおかげで殺人衝動を抑える事が出来たのだ……。忝ないと思っている……」
「持ちつ持たれつ……か。思えばお互い、随分遠いところまで来ちゃったね……」
暁が山の方に目線を向けると、朝日が差し込んできた。乗ってきた黒バイクがくっきり見える。
「……そうだな…」
「もっと遠いところまで行こうか……? どうせなら女の子がいっぱいいる所にでもいかないかい……?」
「黙れ暁。卿にはまず、休ませることが必要だ。鉄の馬は某が操縦する……。後ろでしっかり捕まってろ……」
「画としては全然美味しくないね……」
「知るか……。そう言えば暁。卿は、まだ妖玉におなごが取り込まれてない時があったと言っていたが、何処なんだ…?」
暁は薄く笑う。
「彼女が僕に抱きついてきた時だよ……」
・安芸ノ須木暁 『Record』記録師ver.古書
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