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:南の秘密主義者と劣等感3

鬼が住み着いた村。

焼け焦げた村。

村民は怯えに怯えているのに、安芸ノ須木暁は、嬉しそうにケタケタと笑っている。他人事に変わりないのだが、それでも、その笑いは、傍観者のようだ。そのまま夜を迎え、雨宿りぐらいにはなるその家で、夜を明けることにした。自分の上着を布団がわりにして寝るのも、やむを得ない。

「鬼か……。鬼ねぇ……。凩、君はどう思う……?」

彼の従者、凩は目を伏せながら言った。

「見ず知らずの相手を、どう思うと言われても、某は困る」

「君と同類かもしれないのにかい?」

「戯れ言を抜かすな、暁。村を一つ焼く悪趣味は、某にはない。同類などと、片腹痛いわ」

凩は相変わらずだ。暁は、寝返りを打つ。

「しかし、あんな女の子が、狂気混じりに取り乱すほどって、どんなんだろうね」

「どうあれ、始末するまでだ」

「アハハ、違いないね」

剽軽というか、野放図というか、掴み所のない男、暁。凩は溜め息をついた。この男と付き合うのには、まだ骨がいる。

「君も昔は、あぁだったり……?」

暁の言動に、ピクリと反応する。

「楽しかったかい? (アイ)。人を殺すのは……。君にとっては、快感に等しい行いだったんじゃないかい?」

「……暁、黙れ」

しかし暁は、笑顔を絶やさず続ける。

「無差別に肉を斬れるのは、さぞや解放感に溢れているんだろうね。君の目には、何が焼き付いてる? 断末魔をあげる人? 血肉? 中身が全部抜けた死体? 骨の砕けた人らしからぬ者? ……どれが一番のお気に入りなんだい?」

そう言い終わった最後、暁の呼吸は、一旦首を絞められ、止まる。身体にいきなりかかった重りを確認すると、凩が暁の上に股がり、刀の矛先を、暁の首に突き立てていた。

刀が動けば、暁の命はない。しかし暁は、剣幕な凩とは裏腹に、ただ笑っていた。

「なんだい? 靄、君は、主人に手を上げるのかい? まぁ確かに、下克上類いの事をすると、嬉しいよね。主人を殺せば、君は晴れて自由の身。晴れて、また本能のままに動けるんだから……」

「黙れ!! その名で呼ぶな!!」

「そうだね、君にとっては、久しくも、思い出したくない名前、否、真名だよね。……また血肉を見れる第一号に僕はなれるわけだ。ちゃんと焼き付けてほしいねぇ?」

殺されてもおかしくない状況にある中で、凩に映る主人は笑っていた。

殺されてもいい。否、殺してみろ。という目で見てきた。だが、刀を握る力は、殺意が込められ、暁が次に一言でも発すれば、矛先が喉を貫く勢いにある。

一方、そんな事は知らないという笑顔を見せる暁は、口を開いた。

「ねぇ、靄。…僕は君をからかってるだけだけど、それに加えて、闘魂を加えてるんだよ。その勢いで、鬼をどうぞ蹴散らしてくれ」

「……!!?」

ふざけている。否、やられた。

暁は、いつの間にか緩んだ凩の手を、首からどかすと、上体を起こし、人差し指を立てて、可愛らしく小首を傾げながら肩目を瞑り、凩に言った。

「寝込みを襲うなんて、僕の柄じゃないけどね? ここはベタに行こうじゃないか。どうぞその矛先を、主人に同類と疑われた、鬼に向けてくれ。僕はお堅い凩が大好きだから、君の剣の錆になるのはごめんだよ。死ぬ時は、北のスナイパーさんの膝の上か、煉影ちゃんのコスプレ見てから死にたいからね」



エナを小屋に置いて、闇同然の村であった中を、鬼のいると言われた小屋に向かう。音を立てないように進むにも、炭になった木片を踏みしめると、ボフッと、空気の抜けたような音がする。

だがそんな細かい事は、気にする方がおかしいと思い始めた。

小屋に近づくと、ダミ声に等しい、下品な笑い声が聞こえてきた。

暁は吹き出してしまった時には、足音を気に掛けることなく、小屋に着いてしまった。小屋の扉から漏れる光に近づくと、その上に開いている小窓の隙間から中を伺う。

中では、人間に似た姿に、角が生えた男が五人ほど確認できた。手に盃があるのを見ると、晩酌中だろう。

「それにしても、まっこと、この村の連中は弄りようがないのう!」

鬼の一人がそう切り出した。

「そうじゃのう。も少し腕の立つ奴がいればよかったのじゃが、男衆は貧弱じゃし、女衆は痩せこけた奴が多くて、十人食べても腹の足しにもならんわ!!」

またもや下品な笑い声が響き渡る。暁は向かいにいる凩を見た。

「……女の子を十人食べても、校長の話を大人しく聞けないってさ」

「どんな例えだ」

呆れると、凩は続ける。

「鬼が人を食べるなど……。某の村ではない話だ。それに、帝国の支配下に置かれてからは、人を襲うことは立派な罪だと、死刑になるほどだ」

「そうだね。人狼や鬼の存在が、Recordの記録書のおかげで分かってからは、法が増えたよね」

「おなごが十人も犠牲になっているのは確かだ。この村の男衆は全滅。……暁」

「分かってるぜ従者さん。でも、どこかのロールプレイングゲームじゃないんだ。イベントで『話し合おう』とか主人公の方から言っといて、戦闘画面になる。なぁんて事にはしないさ。文字通り、話し合いから入ってやるぜ?」

「よく分からんが……。相手はイカれた鬼だぞ……。出来るのか?」

暁はその場を離れると、扉の前に移動し、足を上げたかと思ったら、その扉を蹴破った。

「な、何事じゃ!!?」

鬼が騒ぐ。主人の行動に、凩は眉間のしわを揉む。

暁は慌てふためく鬼たちを、愛想振り撒いて笑いかけた。もはや無駄に等しいにも関わらずに、ニコニコと笑っていた。

「まぁ凩。そこはご主人様の力を信じてみてよ、ね……?」

「暁……、その発言は蹴破る前に言って、出来れば蹴破らないで欲しがったのだが…」

「誰だ貴様ら!!」

鬼の背後には、手足と口を塞がれた若い女性が横たわっている。

「蹴破ったのはちゃんと理由があるさ。どうせ普通に入ったって、今と同じ反応するでしょ? って思った結果だよ。それより…」

暁は、笑いながら目付きを鋭くした。

「人間は食い物じゃないっていうぐらいは、知っておいてくれるかい? ましてや女の子に手をあげるなんて、みっともない真似するなよ。今から手厳しくご指導してあげるぜ? 出血したぐらいで弱音吐いたら殺すから、ね……?」


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