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:南の秘密主我者と劣等感2

暁が何故凩に荷物を持ってこさせたのかと言うと、まず、自分の手間を無くすため。しかし本題は、暁を襲ってきた少女の怪我の治療だ。

下着の話をした瞬間、大人しくなった少女の掌を見てみると、見るも無惨な有り様だった。皮はほとんど剥がれ、血に濡れた真っ赤な表面は痛々しく腫れ上がり、血肉が剥き出しになっていた。暁はなんの躊躇も見せず少女の手に霧吹きを吹き掛け、治療を始めた。素人ではあるが、未だ出血し続ける少女の両手に、包帯を巻くぐらいの事は出来た。

そして今、その治療の終わったところである。少女は暁を見上げ、何か言いたそうに口を微かに動かす。しかし、頭を下げてしまった。

「お礼なんていらないよお嬢さん。止血は一応したから、で、替えの包帯も置いておくね」

「暁が優しいと、返って気味が悪いな」

「酷いな凩。僕は女の子には優しいよ? 野郎は知らないけどね、その辺で吠えてろってぐらい」

「残酷な奴だな」

「違いないね」

すると少女が暁のコートの裾を引っ張る。暁はしゃがんだ。

「……あ、ありがとう………」

か細いながら、精一杯のお礼の言葉が聞けた。暁はいつもの笑みを更に深くし、少女の頭を撫でた。

「いいえ。怪我、ちゃんと治そうね…って」

最後まで言っていないところで、少女が暁に抱きついてきた。暁の肩で啜り泣き始めると、暁は後方にいる凩と目を合わせる。

「凩、この子は十年後、いいお嬢さんになっている事を踏んで、僕がこの子と結婚するのはどうかな?」

「馬鹿か貴様は。寝言は寝て言え」

「まったく、なんで凩にはユーモアというモンがないんだい? 人生もっとエンジョイしなくちゃ」

「3000以上生きる某も、貴様以上に人生に苦楽を覚えることは、恐らく無かろう」

「悲しい! 夢が無い上に悲しいよ凩! 確かに君は三世代前のお堅い将軍口調で、性格も堅くて融通きかないし、冷たいし第一声は罵倒から始まるし」

「おい、先程から某に対する苦情しか聞き取れんのだが……。暁よ、それよりこの童に聞くことがあるだろう」

「おっとそうだった。……ねぇお嬢さん、君がさっき言ってた化け物について教えて欲しいんだけど、聞かせてくれるかい?」



焼けた後ではあるが、それでも原型を保っている家屋を見つけ、少女とそこで雨宿りをし、話を聞くことにした。少女の名は、エナと言うらしい。歳は一桁後半か、10、11ぐらいだろう。暁達と初対面なのもあるせいか、元からなのか、とても寡黙な少女だ。暁達はは自分の自己紹介を軽く済ませると、少女に話を切り出した。

「それでエナちゃん。君が僕を化け物と勘違いしたモノを教えてくれるかい?」

暁が自分のコートをエナの肩にかける。エナはコートを掴むと、肩を震わした。

「……鬼、の……形相………」

「「………!!?」」

エナの口から出た言葉に、二人は息を呑んだ。エナは続ける。

「家、を、壊して……。火、つけて……、それで……、人を……た、べ……!!!」

あまりの恐怖に怯えに怯え、エナは泣き出してしまった。暁は落ち着かせるように背中をさする。

「暁よ、この童が言うのはもしや………」

「単純な日本昔話。つまりは昔話に出てくる確率が一番高い、王道キャラの事かな?」

「洒落たように横文字を使うな馬鹿者。なぁ童よ、その化け物とやらは何処へ去って行ったのだ?」

凩は問う。エナはコートを頭から被り、覆う。

「まだ………、いる……」

「この村にか……?」

エナはコクリと頷くと、とある方向を指差す。その先には、小さくではあるが、綺麗な家屋があった。エナはすぐに指を下ろすと、続ける。

「あの家、に……、住み着いた……。私達を……、全員、食べるつもりなんだ……」

暁はそれを聞いて立ち上がると、凩の横に立つ。

「……凩」

「一先ずは、そ奴等の正体を突き止めねばな。しかし暁よ、此度の件、どうするつもりなのだ?」

「はっはぁ、愚問だね凩。妖玉絡みの匂いがプンプンするよ? これで一つ用事が済むじゃないか」

「結局、(オノ)が仕事の為か……」

「主の攻略は早めにお願いね、従者さん」

「誰が主なのだ?」

「僕だよ」

「貴様のようなちゃらんぽらんが我が主とは……。某の人生も呪われたものだな」

「まぁそんなんどうでもいいとして」

「読みづらい」

「…魔婀蹲楠瞳弟喪異爲聖弖」

「読みづらい」

暁は溜め息をつくと、家屋に目を向け、いつもの無情の笑みを浮かべながら手を叩き始めた。テンポよく刻まれるリズムは、小降りの雨の中によく響く。

「手の鳴る方へ……ってね……。真相を暴こうじゃないか」


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