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:西の偽善者と感情論5

お金は大切に。

ギドは拳銃を構える。その先には、呪符を身体に巻き付けた鎌鼬が、殺気をぶち撒けている。前足を上げて、鎌を見せつける。

「………!!!」

イースは怯む。犬神ともあろうとも者が、苦虫を噛み潰したような顔に陥る姿は、なんと愉快なものだろうか。ギドは思わず高笑いする。

「おらおら、どうしたワン公。達者なのは威勢だけか?」

「く…っ! 怯むな! 鎌鼬がなんだ! 掛かれぇ!!」

イースが手を薙ぎ払うと、回りにいた犬神が襲いかかる。

「あぁ。あとはその勇気を買おうか」

足をバネにして、飛びかかる犬神達。ギドは溜め息をついた。

「馬鹿、お前ら!!」

「所詮脳ミソも犬ってか?」

イースが声を上げた時、ギドは既に発砲していた。

「ギャンっ!!?」

手前の犬神の肩から鮮血が散る。ギドが銃口を後ろに下げると、鎌鼬と化した煉影が前足の鎌を振るう。風で吹き飛ばされたという感情は一瞬で消え失せ、痛覚が一気に襲いかかる。

犬神はそこに倒れた。煉影はギドの肩に乗ると、尻尾をふわりと首に絡ませ、ギドに頬擦りをする。

「なんで飛び道具相手に空に逃げるかね。面白味の無いワンちゃんだなぁ。出来る芸は『無知蒙昧』、なんて珍しい芸なんだ。あとは精々、『お手』ぐらい?」

「……!!! 黙って聞いてれば言いたい放題! 行くぞ! 旅の人…!!」 そう言うと、爪を前に構えてギドに向かい突っ込んで来る。しかしギドは動かない。動いたのは煉影だった。

「……!!」

鋭く光る眼光。イースは怯んだ。瞬時、煉影は鎌を振るう。刃はイースの目の下の皮膚を斬り裂いた。

「うぐ…!!?」

「戦場での迷いと命。…それを天秤にかけたら、それはどうなる?」

「………!!?」

「命の方が重いよ、なぁ!!?」

笑いながら叫ぶ。

「煉影! 螺旋烈風!!」

煉影はその至近距離で、言われた技を放つ。刃を含んだ風は、血を混ぜて、イースを吹き飛ばした。

「ハハハハッ!! 愉快だ愉快!! おいワン公、お手が出来るなら、学習能力を他に活かそうな!? ハハハハッ!!」

「た、旅の人ぉ…!!!」

イースは血の滲んだ拳を固めて、目の前で腹を押さえて笑うギドを睨んだ。ギドは笑いではち切れんばかりの腹を押さえるのに必死で、その場に拳銃を落とす。呼吸も苦しいのか、ひーひーと酸素を取り入れようと必死だ。

「……まぁ、冗談はこれくらいにして……」

いきなり笑うのをやめるギド。態度の変化に、イースは食い縛っていた歯を緩める。

「これ以上このワンちゃんを苛めると、動物愛護団体がブッ飛んできそうだし。…煉影。施錠(ノットリベレイション)

その直後、煉影は足元から黒い煙を出して、人間に姿を戻す。

「私だけこんなに労働しちゃった……。主人酷いです…」

「悪りぃ悪りぃ。後でどら焼買ってやるから」

「嫌です!! 私、諭吉を二桁と片手分くれないと許しませんし働きません!!」

「おま…! 諭吉は偉大なお方なんだぞ! とある銀行から大量生産されて、それ相応の行いをした者だけが、諭吉と友達になれることを許されるんだ! 諭吉は頑張らない人間が嫌いだって言ってたぞ!!?」

「私ちゃんと戦いましたよ!? 諭吉は私とお友達になってくれると信じています!!」

「そんなに諭吉が大事かお前は! お前に諭吉はまだお高い! ワンランク下に印刷された樋口さんと仲良くしなさい!!」

「でもお高いんでしょ!!?」

「心配ございません! 少しお堅い樋口さんだけじゃ流石に空気が死ぬので、今回は、五百円玉よりも好感度を上げようと必死な、皆の味方。フレンドリーな野口さん×3も付けて! なんと! 驚きのこのお値段!! 買うなら今のうちですよ、皆さん!!!」

「えぇ!!? これは買わざを得ないですね!! 今から五分以内に電話をくれた方には、樋口さんも付けてくれるんですって!!?」

などと、通販番組でまさかの現金を売り払うというこ芝居付きである。イースは痛みの中、口をポカンと開けていた。

「さぁて。冗談はこのくらいにしといて……。イース君よぉ、ちょっといいかい?」

歩み寄るギドを見つめると、ギドのブーツの踵が腕を踏みつける。

「……!!?」

「痛いよなぁ? 今の俺だったらいくらこんな逞しい腕でも、折れるぜ…? そんな君に俺から二択、提示しよう」

ギドは人差し指を立てる。

「一つ目。俺達に犬神様の場所を吐かずにここで煉影の鎌の錆びになる」

中指を立てる。

「二つ目。俺達に犬神様の場所を吐き、仲間もろとも助かる…。いくら得意技が『無知蒙昧』とはいえ、それくらいどっちがいいかなんて、分かるよな…?」

更に腕を踏みつける。これでは一択に責められているようなものだ。イースは踏みつけられている腕に力を込めると、ギドを見る。

「この街をそのまま抜けると、右の方向に森がある……。その先を進むと洞窟があって、祭壇の所に、犬神様はいる……」

ギドはそれを聞くと、ゆっくり足をどけた。

「はい、いい子。じゃぁこれは褒美な。……煉影!」

ギドの後方で、「はぁい!」と返事をする。イースは煉影を見た。そこでは、倒れている仲間を、治癒術で治している煉影の姿があった。

「これだけだから、あと3分もあれば終わります」

「おぅ、頼むぞ」

「おい、旅の人……。こ、れは……」

「褒美だよ。まるで漫画のダークサイド主人公でもなった気分だ。…だから勘違いすんなよ? 俺は偽善者なんだから。偽りの優しさや行いをして相手がどう思ってくれてもいいが、優しさを見せた君に言っとくよ」

ギドは怪しく笑う。

「忘れるな。俺のそれらは全て、無情無心って事を、な…?」


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