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:西の偽善者と感情論4

ギドは拳銃を構える。イースは足の指に力を込めた。周りの犬神も、爪を自分の目の前にもってくる。

「変態の戦闘に、はたして君はついていけるかねぇ……?」

「た、旅の人ぉ……!!」

イースは飛び掛かる。ギドは嬉しそうにニヤリと笑った。

「ワン公は結構頭いいんじゃなかったか? ……飛び道具相手に空中に行っちゃ負けだろ」

「しま……っ!?」

ギドは、イースの眉間目掛けて、素早く発砲。しかし、近くにいた仲間が、爪で弾丸を弾く。イースはそのまま、ギドの頭上に爪を降り下ろす。

「煉影」

黒髪が流れたと思うと、爪が斜めに切れる。鈍色の刃の先に、獣の目と化した、煉影の姿があった。

「……女! 貴様…!!」

「『危害はくわえない』『ここで我々の餌になれ』。さっきから支離滅裂な事言ってますが、実際のところ、私と主人をどうするつもりですか?」

煉影の問いに、イースは即答した。

「お前たちの身柄を、犬神様に捧げるんだ」

「犬神様……?」

「そうだ! お前たちの魂を犬神様に捧げて、俺達は自由になるんだ! 自由になる為なら、俺達は意地でも『人』を殺し、意地でも自由を手にいれる…!!」

イースは曇天の空の下叫ぶ。

犬神様のルーツ。ギドはイースとの会話を思い出す。犬神様は、この街を抜けた洞窟の奥にいる。もしくは祀ってある。その犬神様が来てから、この街は、犬神の街と化した。

「……なるほど。そうか………」

「主人…?」

何か悟ったギド。イースは仲間に合図する。

「お前たちが生け贄となり、犬神様の所へ連れて行けば、この空も晴れて、俺達はもとの姿に戻れるんだ!」

「関係のない私達が、どうして生け贄などに……!!」

「政府の人間なら尚更生け贄になるべきだ! 散々貧しい街や村を虚仮にして、あげく見捨てやがって!」

「はいはい。誇大妄想乙……」

ギドは笑った。なにも悪びれなく、普通に。イースは牙を剥き出す。

「……うちの馬鹿な政府の力を借りる前に、自分達でどうにかしようと思わないの…? …あぁ、もうどうしようもないのか。それにもし、政府の役人が来たら、君達は助けを求めるどころか、すぐに犬神様にそいつを捧げる………。違うか?」

「………!!」

「ビンゴ♪」

ギドは躊躇うイースを見て、満面の笑みを浮かべと、銃口を向ける。

「そんなんで今までその犬神様のいう、生け贄の定員数かき集めてたのか? ご苦労なこったなぁ。下着の種類を暗記する俺よりご苦労だぜ? まったく、犬神様とやらも馬鹿だな。自分の餌ぐらい、自分で捕れよ。なんつー効率の悪いやり方でここまでするかね……。さてとワン公。宣言通り、その頭、利口にしてやるよ。どっからでも来な…?」

「……! ぬかせ! かかれぇ!!」

イースの威勢のいい掛け声に、回りは一斉に四方からギドに飛び掛かった。ギドは瞬時に銃口を下げ、着地地点を狙い、発砲。だが、軽快な彼等は避けた。周囲との距離は一メートルも無い。

「レッスン1。まず、それに対する情熱を注げ」

涼しい顔でそう言いながら、人差し指を空へ向ける。犬神達がその先を見ると、空中で煉影が鎖鎌を構えていた。

螺旋烈風(ラセンレップウ)!」

犬神達に向かって投げられた鎖が、円を描きながら高速に下る。やがてその技の形状が、犬神を風で弾き、ギドと犬神達の間に距離を作ると、その横に音もなく降り立つ。

「まぁ、勢いは買うから、合格かな……? はい次、レッスン2」

ギドはパチンと指を鳴らした。すると、先程着地地点に撃った弾丸の後から、細い鎖が高速に伸び、犬神達の身体に巻き付く。

「…な……!!?」

「女の子は隙がないので、気を付ける事」

すると、鎖の餌食にならなかった犬神の一人がギドの銃を持っている手を掴んだ。

「!? おっと。しつけ中に動くなよ」

犬神は爪の先を首に立てる。

「解放しろ。さもなくばお前の命は無い!」

「それはお互い様だぜ……?」

犬神の顔を見て笑うその笑顔の横に、銃口があった。犬神がそれに反応し、それと同時にその銃口から六連発で発砲された。間一髪のところでかわし、ギドと距離を取る犬神。ギドはくるくると左右に持った拳銃を回した。

「だから言っただろ? 隙がねぇってさ」

「二丁拳銃か…。小賢しい」

「てことで、君もその小賢しい野郎の技の餌食に……」

着弾点から鎖が伸びると案の定、鎖はその犬神の動きを封じた。ギドはイースの所まで歩み寄ると、イースのこめかみに銃口を添える。回りは一斉にもがき、足掻いた。

「何をする気だ、旅の人!」

「…レッスン3。時には優しさで惑わしましょう」

ギドはこめかみから銃口を離す。そして回りの犬神達にこう言った。

「さて、レッスン3では、今からあんたらの鎖を解いてやろうと思ってる。が、申し訳ない。生憎俺は今の発砲で弾を切らしちゃって……。でもマガジンを入れ換える暇を与えてくれるはずもないだろ? ……そこで、ファイナルレッスン」

マガジンを外しながら後ろに下がると、煉影が前に出る。

「煉影と遊ぼうってな」

「やっとですか? 待ちくたびれました……」

「さて皆の衆。今から俺が弾を装填してマガジンを入れ換えるまで、煉影が面倒を見てくれるわけだが、一つ警告を……」

イース達の鎖が解かれる。ギドは笑う。今までに無い以上の笑顔で。

「…突然の突風にご注意下さい。煉影、解放(リベレイション)!!」

煉影が一瞬のうちにして、風を纏い、自分の姿を隠す。ものすごい突風が煉影を取り巻いてから数秒後。それは一気に晴れた。

そこにいたのは、長い耳に、茶色い胴長の身体に、二股の尾を持ち、頭と足首に、長い呪符を巻き付かせた、鼬がいた。しかし驚くのはその異形の姿。その鼬の前足は、鎌へと姿を変える。

「か、鎌鼬……!!」

「ご名答。さぁ煉影、思う存分遊んだれ。

存在無くも、語り継いでやる。示せ。己の存在を……」


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