表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
矢代圭介の事件簿  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/16

第1話 白霧坂殺人事件 第4章 佐伯美咲

三宅浩一の自宅を出た頃には、冬の陽が少しだけ高くなっていた。

冷たい光がアスファルトに反射し、街全体を白く照らしている。

事件の重さとは裏腹に、空気はどこか澄んでいた。


「佐伯美咲さんの勤務先、確認取れました。市立総合病院です」


藤井がスマホを見ながら言う。


「よし。行こう」


矢代は軽く頷き、車に乗り込んだ。

助手席の藤井は、先ほどのノートの内容を思い返しているようだった。


「……しかし、あの記録。やっぱり普通じゃないですよね」


「普通じゃないな」


矢代はハンドルを握りながら、淡々と答えた。


「だが、“普通じゃない”というだけで犯人扱いはできない。

三宅が何を見て、何を感じて、何を記録していたのか。

そこを知らないと、事件の輪郭は見えてこない」


「でも、あの女性を追っていたのは事実ですよね」


「追っていた、というより……観察していた、だな」


矢代は少しだけ笑った。


「藤井。

人間は、誰かを“観察”する時、必ず理由がある。

好意でも、敵意でも、興味でも、恐怖でも。

三宅の理由は、まだ見えない」


藤井は腕を組んだ。


「じゃあ、佐伯さんに聞くしかないですね」


「そういうことだ」


病院に着くと、受付で事情を説明し、佐伯美咲の勤務部署へ案内された。

ナースステーションの奥で、白衣の女性が患者のカルテを整理している。


「佐伯美咲さんですね。警察です。少しお話を伺えますか」


藤井が声をかけると、佐伯は驚いたように顔を上げた。

大きな瞳が揺れ、手がわずかに震えている。


「……はい。何か、あったんですか?」


矢代は名刺を差し出し、静かに言った。


「三宅浩一さんをご存じですね」


その瞬間、佐伯の表情が固まった。

驚き、恐怖、困惑——複数の感情が一度に浮かび、すぐに消えた。


「……知っています。

でも、最近は……」


声が震えている。


「最近は?」


「最近は、会っていません。

というか……避けていました」


藤井が身を乗り出した。


「何かトラブルが?」


佐伯は唇を噛み、視線を落とした。


「……三宅さん、私のことを……ずっと見ていたんです。

勤務中も、帰り道も。

最初は偶然だと思っていました。

でも、だんだん……怖くなって」


藤井は矢代を見る。

しかし矢代は、佐伯の表情をじっと観察していた。


「警察には相談しなかった?」


「……はい。

三宅さんは、悪い人じゃないと思っていたので……

ただ、距離を置きたかっただけで……」


矢代は静かに頷いた。


「わかりました。

では、もう一つだけ確認させてください」


佐伯は不安そうに顔を上げた。


「三宅さんが、あなたに“何かを伝えようとしていた”と感じたことは?」


佐伯は一瞬、言葉を失った。

そして、ゆっくりと頷いた。


「……あります。

最後に会った時……

“気をつけてください”って言われました」


藤井が息を呑む。


「気をつけて……?」


「はい。

“あなたの周りに、危ない人がいる”って……

でも、誰のことかは言ってくれなくて……」


矢代は目を細めた。

その表情は、事件の重さとは不釣り合いなほど明るかった。


「藤井。

三宅浩一は、佐伯美咲を“守ろうとしていた”可能性がある」


藤井は驚いた。


「守る……?

じゃあ、ストーカーじゃなくて……?」


「まだ断定はできない。

だが、三宅の記録は“観察”だった。

そして佐伯は“危険を警告された”。

この二つが繋がるなら——」


矢代は軽く笑った。


「事件は、思っていたより複雑だ。

いいね。

こういうのは、捜査のしがいがある」


藤井は呆れたように笑った。


「矢代さん、やっぱり楽しんでますよね」


「藤井。

事件は重い。

だが、謎は軽やかだ。

その両方を見られるのが、刑事の特権だよ」


佐伯美咲は、不安そうに二人を見つめていた。

その視線の奥に、まだ語られていない何かが潜んでいる。


矢代はそれを感じ取っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ