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矢代圭介の事件簿  作者: 双鶴


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第1話 白霧坂殺人事件 第13章 病院の闇

市立総合病院に着いた頃には、夜の冷気がさらに深くなっていた。

外来入口の自動ドアはすでに施錠され、夜間受付だけが淡い光を放っている。

その光は、どこか不安を煽るように揺れていた。


藤井は息を整えながら言った。


「……佐伯さん、本当に行方不明なんですか?」


「病院側の報告では、勤務中に姿を消したらしい」


矢代は淡々と答え、受付に警察手帳を示した。


「佐伯美咲の勤務状況と、最後に目撃された場所を教えてください」


夜勤担当の看護師は驚いた表情で言った。


「佐伯さんなら……ついさっきまでナースステーションにいたんです。

でも、急に“外の空気を吸ってきます”と言って……

そのまま戻ってこなくて……」


藤井は眉をひそめた。


「外に出た……?」


「はい。

裏口の方へ向かっていくのを見ました」


矢代は静かに頷いた。


「裏口……か」


病院の裏口は、白霧坂へと続く細い道に繋がっている。

夜は人通りがほとんどなく、街灯も少ない。


藤井が不安そうに言う。


「矢代さん……

まさか、犯人が佐伯さんを……?」


「まだ断定はできない。

だが、佐伯が“自分の意思で”裏口へ向かった可能性もある」


「自分の意思で……?」


矢代は歩きながら言った。


「佐伯は何かを知っている。

三宅が警告した“危険な人物”の正体を。

その人物が病院にいるとしたら——

佐伯はその人物に呼び出された可能性がある」


藤井は息を呑んだ。


「じゃあ……

病院の誰かが、佐伯さんを……?」


矢代は頷いた。


「そうだ。

そして、その人物は“三宅浩一を殺した犯人”でもある」


二人は裏口へ向かう廊下を進んだ。

夜の病院は静かで、足音だけが響く。


裏口に近づくと、冷たい風が吹き込んできた。

扉はわずかに開いている。


藤井が言った。


「……誰かが通った跡ですね」


「そうだ。

そして——」


矢代は扉の前で立ち止まり、地面を指差した。


「藤井。

ここを見ろ」


地面には、白い粉が落ちていた。


藤井は青ざめた。


「チョークの粉……!」


「そうだ。

だが、これは“大森のものではない”」


藤井は震える声で言った。


「じゃあ……

病院の誰かが……チョークを……?」


矢代は静かに言った。


「藤井。

病院でチョークを使う職業は限られている。

医師でも看護師でもない。

だが——

“研修室で講義をする立場の人間”なら、話は別だ」


藤井は息を呑んだ。


「……医療講師……?」


「そうだ。

病院には、外部から来る講師がいる。

医療安全、感染対策、救急対応……

その中に——

“数学科出身の講師”が一人いる」


藤井は驚いた。


「数学科……?

なんでそんな人が……?」


矢代は淡々と答えた。


「統計解析の専門家だ。

医療データの分析を担当している。

そして——」


矢代は裏口の外を見つめた。


「佐伯美咲と“親しく話している姿”が、複数の職員に目撃されている」


藤井は震える声で言った。


「じゃあ……

その講師が……真犯人……?」


矢代は首を振った。


「まだ断定はできない。

だが——

“最も怪しい人物”であることは確かだ」


裏口の外は、白霧坂へと続く細い道。

霧が漂い、街灯の光がぼんやりと揺れている。


矢代は静かに言った。


「藤井。

佐伯美咲は、この道を通って“犯人のもとへ向かった”」


藤井は息を呑んだ。


「じゃあ……

急がないと……!」


矢代は頷いた。


「行くぞ。

真犯人は——

もうすぐそこにいる」


二人は霧の中へと走り出した。


その先に、

佐伯美咲と、

三宅浩一の死の真相が待っている。


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