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混沌戦士サソリちゃん -説教されるの大嫌い-  作者: TOKYO SICKS


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Chapter 08『Bang On the Strings ― Grotesque Install』

図書館の静寂は、死んでいた。


壮大な爆発音――「バゴン!」の残響が、まだ壁や本棚に染み付いているかのようだ。


オゾンと古い紙の匂いが混じり合い、まるで祭りの後のような、あるいはカタストロフの後のような、奇妙な静けさが場を支配していた。


本棚に叩きつけられたカオルは、弱々しく呻きながら床に倒れている。


ユリナは、自慢の分析能力が完全にショートしたまま、凍りついたように立ち尽くしていた。その眼鏡の奥の瞳は、目の前の“解析不能なバグ”




――芽衣子から目が離せないでいる。




周囲の生徒たちは、誰一人として声を発しない。竜胆学園という無法地帯に生きる彼女たちですら、今しがた起きた出来事が、自分たちの知る“暴力”のルールから逸脱していることを、本能で理解していた。




芽衣子は、ただ静かに佇んでいた。緑の炎の残滓は消え、再びただの転校生に戻っている。だが、その存在感は、先ほどまでとは比較にならないほどに巨大だ。



ヒトミは、そのカオスを呆然と見つめていた。恐怖と、安堵と、そして今まで感じたことのない種類の、凄まじい高揚感で、心臓が激しく脈打っている。



挿絵(By みてみん)



ポケットの中のライターが、まだ熱い。




――その、静寂を切り裂いたのは、音だ。



挿絵(By みてみん)



キィィィィン、という耳障りなハウリング。

それは誰かのスマホからではない。天井に埋め込まれた、古びたPAスピーカーからだ。全校生徒に朝礼や連絡を伝えるための、学園の神経系統。

そのスピーカーが、断末魔のようなノイズを撒き散らしたかと思うと、次の瞬間。



――ズンッ!!



腹の底を直接殴りつけるような、 brutal なギターリフが爆発した。



歪みきった、まるでチェーンソーのような音色。地を這うようなベースライン。そして、コンクリートを叩き割るようなドラムのビート。

それは、竜胆学園の誰もが今まで聞いたことのない、あまりにも暴力的で、あまりにも美しい音の洪水だ。


挿絵(By みてみん)


そして、歌が始まった。

その声は女のものだ。ハスキーで、気だるげで、それでいてデジタルなエフェクトがかけられ、聞く者の脳に直接インストールされるかのような響きを持っていた。


Bang on the strings, let the silence bleed,

Every scar’s a prayer, every wound a seed.

Neon veins flicker, shadows start to crawl,

Bang on the heartbeat, glitch through it all.


(音色が火花を散らし 沈黙を流血させる

傷跡は祈り 傷口は種となる

ネオンの血管は点滅し 影が這い寄る

鼓動を打ち鳴らし ノイズで全てを貫け)



ヒトミは息をのんだ。




“沈黙を流血させる”。


それは、自分がずっと心の奥で叫びたかった言葉そのものだ。

この歌は、自分のための歌なのではないか。そんな錯覚さえ覚える。



Bang on the strings, bang on tonight,

Burn the silence, set the dark alight.

Bang on the heartbeat, wired and free,

Bang on forever, bang on with me.


(音色が炎を噴き 夜を叩き起こす

沈黙を焼き払い 闇を燃やし尽くせ

鼓動は配線のように震え 自由を描く

永遠に轟け 共に弦を叩け)



歌声は、図書館だけでなく、校舎の隅々まで響き渡っているはずだ。

教室で、廊下で、体育館で、この学園に囚われた全ての生徒が、この未知の爆音に耳を傾けている。




Bang on the strings, crash the paper crown,

Cheap codes shatter, firewalls drown.

Grotesque install in the system’s core,

Dogs of power tremble, they can’t fight this war.

False gambling addicts choking on their lies,

Sensitive archives burning in their eyes.


(音色が衝突を起こし 紙の冠を粉砕する

安っぽいコードは砕け 防壁は溺れ落ちる

システムの核心に グロテスクインストールを叩き込め

権力の犬は震え この戦いに抗えない

偽りギャンブル中毒者は 嘘に喉を詰まらせ

センシティブアーカイブが その瞳の奥で燃え上がる)



その歌詞を聞いた瞬間、ユリナの顔色が変わった。



「Firewalls… Grotesque install…」



彼女は理解したのだ。これが単なる音楽ではないことを。学園のシステムそのものに対する、高度なハッキングであり、宣戦布告であることを。


そして芽衣子は、その歌を、まるで旧知の戦友のメッセージを聞くかのように、静かに目を閉じて聴いていた。








Bang it louder, glitch the law,

Tear the silence, hack the flaw.

Spit in the face of dogs of power,

Grotesque install, their system devoured.

Sensitive archives screaming to be freed,

False gambling addicts fall to their greed.


(もっと響け 秩序をノイズで裂け

沈黙を切り刻み 欠陥をハックしろ

権力の犬の面に唾を吐け

グロテスクインストールが 奴らのシステムを喰らい尽くす

センシティブアーカイブが 解放を叫ぶ

偽りギャンブル中毒者は 貪欲に墜ちていく)




音楽はクライマックスへと向かい、ギターソロが爆発する。それはもはやメロディではない。音の暴力。音の革命。この腐った学園のシステムを、根こそぎ破壊しようとするかのような、凄まじいエネルギーの奔流である。




Bang on… fire remains…

Sensitive archives sing in chains…

Bang on… till silence dies…

Bang on the strings, ignite the skies.


(轟け… 炎だけが残る…

センシティブアーカイブが 鎖の中で歌い出す

叩き鳴らせ… 沈黙が死ぬまで…

その管を―― 空を燃やすまで)


最後のギターの一音が、長いサステインを残して消えていく。

そして、完全な静寂が戻ってきた。

歌っていた女は、名乗らなかった。


ただ、竜胆学園のシステムに、決して消えない


“Grotesque Install”

――醜悪なるプログラムを叩き込み、嵐のように去っていった。


その静寂の中、芽衣子が初めて口を開いた。

彼女はヒトミに向き直り、ニヤリと笑う。


「今の、聴いたか?」


「……うん」


「あれが、本当の“歌”だ。……伝説のOG、SIONのな」



SION。




その名前は、竜胆学園に新たな神話として刻み込まれた。

そして、その神話の始まりを、ヒトミは目撃してしまったのだ。

ポケットの中のライターが、呼応するように、再び、熱くなった。


(to be continued…)




挿絵(By みてみん)

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