表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
混沌戦士サソリちゃん -説教されるの大嫌い-  作者: ハレルヤ/TOKYO SICKS


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/44

Chapter 38 『REBORN ECHO ――GOD BLESS NOISE』






INT. THE CENTER OF THE "SPRING IS ON FIRE" - AFTER THE TUNING








空気が、まだ、“音”の形を、していた。

SIONが放った、あの、絶対的な一音の残響が、まだ、この世界の、隅々にまで、染み渡っている。






光が、その音の波形に合わせて、美しいノイズを纏い、

風が、ほんの少しだけ、遅れて、鳴っている。






その、静かで、しかし、無限の可能性に満ちた世界の、中心で。

芽衣子は、ゆっくりと、立ち上がる。

目の前に、一本のギターが、転がっている。











SIONから、託された、“JESUS AND MERRY CHAIN”。








その、黒いボディには、無数の傷が刻まれ、ヤナールの炎に焦げた跡が、まるで、禍々しいタトゥーのように、亀裂となって、走っている。











挿絵(By みてみん)










彼女は、そっと、その、ボロボロになった凶器へと、手を伸ばす。

指先に、冷たい、金属のネックが、触れた、その瞬間。

電気が、走った。















――ズガァァァァァァァァァァァァン。












止まっていた、世界の音が、一斉に、戻ってくる。







挿絵(By みてみん)









彼女の中にあった、あの、冥子に成り果てていた時の、空っぽの空白が、この、ギターの、あまりにも懐かしい感触で、埋まっていく。










そして、見えない、誰かの、優しい息遣いが、この、死んでいたはずのギターを通して、彼女の魂に、直接、伝わってくる。











「……SION、あんた、なのか…?」








その、か細い声は、周囲の、まだ収まりきらないノイズの海に、飲まれて、消えていく。

でも、その、沈黙の、さらに奥で、何かが、確かに、応えた。











“ECHO //RE:POST”










あの、音の、断片。









それは、もはや、ただのメッセージではなかった。

それは、「ここから先は、お前が、再生プレイしろ」という、SIONからの、最後の“合図”だった。













「……ああ。わかったよ」







芽衣子は、そのギターを、力強く、握りしめる。









彼女の指先から、緑色の光が、ほとばしり、ボディに刻まれた、あの、トライバルの亀裂が、まるで、血管のように、激しく、脈打ち始める。








鎖のような、黒い模様が、彼女の腕に、まるで、タトゥーのように、巻きつき、

その瞳の奥が、かつての、あの、挑戦的な光を取り戻し、完全に、反転する。










挿絵(By みてみん)














音が、再起動する。

風が、再び、動き出し、

そして、この、狂った世界の、最後の幕が、裂けた。










風が、止まり、この、狂乱のステージの、全てのノイズが、まるで、指揮者のタクトを待つかのように、たった一つの点に、集まっていた。











芽衣子は、その、混沌の中心で、ギターを、構える。

それは、何かを、破壊するためではない。

この、あまりにも、鳴り響きすぎた“音”を、鎮めるために。







焦げ付いた、黒いボディに、そっと、指を滑らせると、

壊れていたはずの、ピックアップの、その奥で、小さな、小さな、緑色の光が、灯った。













――ピィィィィィィィン……。









それは、誰も、聞いたことのない、

しかし、なぜか、誰もが、心の奥で、ずっと、知っていたような、懐かしい、周波数だった。

それは、純粋な、“生命”の、最初の産声の音。











その、たった一音で、

暴徒と化し、狂ったように踊っていた、竜胆学園の生徒たちの幻影が、一斉に、その動きを、止めた。






まるで、その、聖なる音が、この、狂った世界の、破れた空気を、一本、また一本と、優しく、縫い合わせていくかのようだった。








ノイズが、音楽に、還っていく。

暴力が、リズムに、還っていく。

混沌が、秩序に、還っていく。







芽衣子の、頭の中に、SIONの、あの、気だるげで、優しい声が、微かに、流れた。







“なあ、芽衣子。音ってのはな――

何かを、撃ち抜くためのもんじゃねえ。

ただ、元の場所に、“還す”ための、もんなんだよ”











その、あまりにも美しく、そして、どこまでも力強い、たった一音のフィードバックが、

夜の、空を、切り裂いていった。


そして、その音は、

この、狂った祭りの、もう一人の主役の、魂を、確かに、揺さぶっていた。







指が、動く。

旋律が、走る。

そして、音が、止まっていたはずの、この世界の記憶を、呼び起こしていく。







SIONから託された、そのギターが奏でる、たった一音のフィードバックに、

電線の上で、石のように固まっていた鳩が、一斉に、空へと飛び立った。

画面を覆い尽くしていた、醜いグリッチノイズが、まるで、朝霧が晴れるように、静かに、消えていく。






空中に、瓦礫のように漂っていた、世界の破片たちが、ゆっくりと、しかし、確実に、その本来の形を、取り戻していく。













――“ヤミガタリ”が生み出した、あの、狂った世界の法則が、一瞬だけ、沈黙した。















風が、優しく、流れた。

その、ほんの、ほんの僅かな瞬間だけ、この、狂っていたはずの世界は、完璧に、チューニングの合った、一つの、美しい歌になっていた。









芽衣子は、その、あまりにも美しい残響の中で、自らの手の中にある、ギターを見つめる。

手のひらが、少し、熱い。








ボディに刻まれた、あの、焦げ付いたトライバルの亀裂が、彼女自身の、心臓の鼓動に合わせて、まるで、生きているかのように、淡い、緑色の光を、放っている。







「……これが、私の、音」









そして、彼女は、ゆっくりと、顔を上げる。

その、前方には、まだ、全てを燃やし尽くそうとする、炎を纏った、ヤナール。

そして、その、さらに背後には、この、ありえない光景に、ただ、呆然と立ち尽くす、風を纏った、美鈴。












次の瞬間、

三者の、決して交わるはずのない、その気配が、激しくぶつかり、世界が、再び、ガラスのように、割れた。










――風が、止んだ。

そのとき、美鈴の中で、今まで、信じてきた、何かが、音を立てて、折れた。















音。

光。

電波。








そして、この、どうしようもなく、猥雑で、しかし、どこか魅力的な、都会の匂い。

全部、知らない。

全部、怖い。

だけど、今、





その、全く「知らない」はずのものが、目の前で、一つの、美しい“神話”のように、輝いている。











芽衣子。












あの、緑の髪の女が、その、黒いギターを、振るうたびに、

この、狂った世界の法則が、まるで、奇跡のように、書き換わっていく。

音が、風を、追い越していく。

音が、あの、絶対的だったはずの、ヤナールの炎すら、黙らせる。












「……なんじゃ、こりゃ…」











美鈴は、思わず、そう、呟いていた。

故郷の、あの畑の麦も、チューリップも、

ただ、風の音にだけ、応えてくれていた。










でも、今、彼女の中で、あの、芽衣子が奏でた“音”が、まるで、抗うことのできない“命令”のように、鳴り響いて、変わっていく。









耳の、奥で、

あの、どこまでも、穏やかだったはずの、田舎の風景が、遠ざかっていく。

軽トラの、のどかなアイドリング音。

夕暮れの、優しいチャイムの音。







牛たちの、間延びした鳴き声。

その、全てが、今、鳴り響いている、ギターの、あの、暴力的なまでのノイズに、溶けて、消えていく。






代わりに、響くのは――

ギターの、あの、魂の“悲鳴”。









“GOD BLESS NOISE”








それが、まるで、この街の、本当の“神”の声のように、聞こえた。








「反町、芽衣子……

あんたは、一体、なんなんじゃ……」








拳を、握った。

自分でも、気づかないうちに。








風が、再び、彼女の周囲で、動き出す。

あの、懐かしい、畑の匂いが、蘇る。





そして、風の、その、見えない色が、今、鳴り響いている、ギターの“音”の形を、必死に、真似し始めている。











「風は……歌うことが、できるのか…?」






美鈴の眼が、燃えた。


この、都会の、淀んだ空気の中に、あの、故郷の、どこまでも純粋な風が、渦を巻いた。

彼女の背後で、あの、虹色の南京錠の幻影が、かすかに、しかし、確かに、光を放った。








――錠裂、起動準備。








美鈴の、心臓が、うるさかった。

胸の、奥で、彼女が操っていたはずの風が、暴れている。

自分の、身体の、その内側で、今まで、一度も、聞いたことのない、“音”が、生まれている。









「……なんや、これ…」








挿絵(By みてみん)








風の音が、戻ってきた。

それは、もう、何もかもを薙ぎ払う、ただの暴風ではなかった。

まるで、生まれたばかりの、新しい言葉みたいに、どこまでも、静かで、そして、柔らかい。









芽衣子は、ギターを抱えたまま、ゆっくりと、前を見た。

そこに、立っている女――美鈴。











風が、彼女の、編み込まれた髪を、優しく持ち上げるたびに、

どこか、懐かしい、あの、故郷の匂いが、した。







土の、匂い。汗の、匂い。雨が降った、後の、匂い。

それは、SIONが放つ、あの、都会の、アスファルトと、タバコの煙の匂いとは、全く違う、周波数だった。










「大地に呪縛された、ひなのイデオローグか……」











芽衣子が、そう、呟いた瞬間。

彼女の、胸の奥が、ほんの少しだけ、ちくりと、疼いた。






SIONから、託された、このギターが、その、あまりにも純粋な“風”の音に、“懐かしさ”という感情を、拾ってしまったのかもしれない。








美鈴の瞳の奥には、まだ、恐怖と、迷いの色が、残っている。

でも、その手には、確かに、“風の形”をした、見えない武器が、握られていた。

まるで、彼女自身が、この、狂った世界の、最後の鍵を、握っているかのようだった。











「あんたの、その風、なかなか、いいね」







美鈴は、反応しない。

ただ、彼女の周りを吹く風が、まるで、返事をするみたいに、芽衣子の、緑の髪を、そっと、揺らした。










そのとき、芽衣子は、悟った。








――この世界は、まだ、壊れてはいない。

そして、壊れていない限り、音は、鳴り続ける。








ギターの弦が、その、新しい風を受けて、微かに、震えた。

まるで、どこか遠くから、SIONが、それを見て、満足そうに、笑っているかのようだった。





芽衣子は、ゆっくりと、ピックを、弾いた。

それは、もはや、戦いの合図ではなかった。

それは、“招待状”だった。








「次は、風の女、あんたの番だぜ」








指先が、震える。

脚の、筋肉が、勝手に、動く。

全身の、血が、どうしようもなく、熱い。







芽衣子の、あの、ギターが、鳴るたびに、

美鈴の、全ての神経が、一本、また一本と、その、狂った音階に、“チューニング”されていく。




彼女が、今まで、操ってきたはずの、風の流れが、今、その、抗いようのない、ギターの音の波に、完全に、同調していく。












怖い。

でも、それ以上に――気持ち、いい。














「うわ、なんじゃ、これ……

たまらん……!」








息を吸うたびに、肺が、今まで感じたことのないほど、大きく膨らみ、

心臓が、まるで、高速の、ドラムンベースみたいに、激しく、鳴り響く。

汗の味が、鉄みたいに、感じる。

視界が、どこまでも、どこまでも、広がっていく。








音が、見える。

風が、歌っている。








この、世界の、全ての輪郭が、その、美しい不協和音の中で、喜びに、打ち震えている。

芽衣子の姿が、遠くで、まるで、ステージの上の、ロックスターのように、眩しく、光って、見えた。





その、あまりにも、圧倒的で、あまりにも、自由な光景を、見た、その瞬間。

美鈴の、内側で、今まで、彼女を縛り付けていた、最後の、古い鍵が、大きな音を立てて、弾け飛んだ。








「……やっぱ、私は、こっち側じゃッ!!!」










叫んだ。

誰に、向けてでもない。

でも、確かに、この、新しい世界に向かって、放たれた、彼女の、本当の、産声。







風が、その声を、拾い上げ、

この街の、全ての残響を、巻き込み、

そして、芽衣子が奏でる、ギターの弦と、完全に、共鳴する。









美鈴の頬が、興奮に、紅潮した。

その目が、星のように、輝いた。

彼女は、心の底から、笑っていた。







「おもしれえな……!

この音が、喧嘩の合図っちゅうんなら、

私は、全力で、吹かしたる!」







風が、炸裂した。

彼女の背後で、あの、虹色の南京錠が、再び、そして、今度は、完全に、その姿を現し、まばゆい光を、放つ。



空気が、形を持ち始める。






――錠裂、完全起動。



(to be continued…)





挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ