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混沌戦士サソリちゃん -説教されるの大嫌い-  作者: TOKYO SICKS


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22/22

Chapter 20 『ヤミガタリ/YAMI GATARI』



ジザニオンの炎が、最後にかすかな音を立てて消えた。







校庭には、まるで隕石でも落下したかのような、黒々とした焦げ跡だけが残っている。







風に舞う砂煙と、鼻をつく血の匂いだけが、先ほどまでの死闘が現実であったことを証明していた。

誰一人、声を発せない。






ただその場にいた全員が、“何かが決定的に終わった”という実感に、魂ごと呑み込まれていた。






アヤネは、片膝をつき、肩で荒く息をしながらも、折れかけのバットを決して手放さなかった。


唇から血を垂らし、頬には火傷のような赤い痕。全身が悲鳴をあげている。






挿絵(By みてみん)







それでも、その赤い瞳だけは、まだ死んでいなかった。獣のように、ただ目の前の敵を睨みつけ、ギラついていた。









その姿を、芽衣子は見下ろしていた。
















彼女は、とどめを刺すために間合いを詰めることもなく、ただ無言で、アヤネという存在の“強度”を値踏みするように立っている。








周囲の生徒たちは、固唾をのんで二人を見つめるが、誰も、この神話的な戦いの後に、人間の言葉を口にする勇気はなかった。








「……“義理”という言葉に、そこまで縋るか」










芽衣子が、ようやく口を開いた。その声は、氷のように冷たく、校庭の空気をさらに硬直させた。








アヤネは、血に濡れた口元で、獰猛に笑った。










「縋るんじゃねえ。“語る”んだよ……。 ……“私は私である(A is A)”。それだけだ」








掠れた声でそう吐き出すと、バットを杖代わりにして、ゆっくりと、しかし確かな意志で立ち上がる。


校庭中の視線を一身に集めながら――彼女は、宣告した。














「自己紹介しとく。私は“ヤミガタリ”のアヤネだ」














挿絵(By みてみん)











瞬間、意味不明の言葉に、しかし抗えない力強さを感じて、生徒たちの間にざわめきが広がった。





「ヤミガタリ…?」


「なんだ、それ…チーム名か…?」






校庭のあちこちで囁きが生まれ、ただの不良同士の抗争が、何か得体のしれない、“異様な物語”へと、その姿を変えていく。






芽衣子は、鼻で笑い、吐き捨てた。






「ヤミガタリだぁ? ……てめえら、集団で幻覚でも見てんのか?」







その一言で、空気がわずかに揺れ戻る。

彼女の存在は、やはりこの場の現実の支配者だった。







しかし――その支配を、嘲笑うかのような声が、校庭のどこからともなく響き渡った。







「見えているとも。幻覚ではない。…お前の、これからの“無礼な巡礼”がな。幻想が物理的な形を成すとは、実に非合理的で、興味深い……ふふ、アヤネ(Ayane)。その名には“アイン(AYN)”が忍んでいる。かの『合理的エゴイスト』の魂がね」














挿絵(By みてみん)


















レイナの声。

ざわっ、と生徒たちが一斉に振り返る。






「……なるほどな。陰湿なハッカー女か。姿を見せないあたり、性根が腐ってる」






芽衣子は、声のした方向を正確に見据え、吐き捨てるように言った。












さらに遅れて、別の方向から、まるで子守唄のような、しかし狂気を孕んだ声が割り込んだ。









「……犬は、笑ってる。三本足でも、走る夢を見るんだ。」


















挿絵(By みてみん)















マユの声。







「……チッ。ポエムかよ。一番、殴り甲斐のねえタイプだ」




芽衣子は、心底うんざりしたように呟き、苛立ちを隠さなかった。






「ヤミガタリ」――それは、チーム名などという陳腐なものではなかった。




竜胆学園の頂点に君臨するマユ、レイナ、アヤネ。






彼女たちはそれぞれが、自らの壮絶な過去と狂気を“物語”として昇華させ、その“物語”の力で現実を歪める能力者だったのだ。






アヤネは、血に濡れた笑みを浮かべたまま、芽衣子に告げる。


「次は、三人揃って、てめえに“闇”を語ってやるよ。今日のバトルは、改めてリスケだ」








「……ああ、そうかい。せいぜい面白い“物語”を用意しとけよ。 ……その『設定』ごと、灰になるまで燃やしてやるから」


そう言い捨てて背を向けたその時、世界が軋んだ。 まるで、頭上を覆っていた巨大な“輪”が砕け散り、支配の星が遠ざかっていくような――





挿絵(By みてみん)




芽衣子は、初めて挑戦的に笑い、返事をした。そして踵を返し、背を向けて歩き去る。

焦げ跡を踏むたびに、彼女の靴音が、乾いた音を響かせる。その背中を、誰も追うことはできなかった。






残されたのは、圧倒的な沈黙。

その沈黙を破ったのは――誰も予想しなかった、ヒトミの、か細い笑い声だった。











「……ふふっ…」











「……おはよう、こんにちは、さようなら……」



誰に向けたわけでもない、奇妙な挨拶。



そして、小さく笑いながら、彼女は、まるで世界そのものに語りかけるように、囁いた。



「……はじめまして、普通の日々」










挿絵(By みてみん)









アヤネが、その声に振り返り、怪訝そうに眉をひそめる。





「は? 何言ってんだ、てめえ……」






ヒトミは、答えなかった。


ただ、今まで見せたことのない、穏やかで、しかしどこか不気味な笑みを浮かべていた。





それは、全てを諦めた者の笑みか。あるいは、全てを理解し、受け入れた者の笑みか。

その笑みは、闇よりも深く、不可解な余韻となって、夕暮れの校庭に漂い続けた。



(to be continued…)






挿絵(By みてみん)


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