表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
混沌戦士サソリちゃん -説教されるの大嫌い-  作者: TOKYO SICKS


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/18

Chapter 14 『帰還』

校庭に吹く風は、鉄と血の匂いがした。




夕陽は、まるで巨大な傷口のように赤く空に広がり、舞い上がる砂埃がその光を乱反射させ、世界全体が燃え上がっているかのようだった。




野球部の声も、他の部活の音も、もうここにはない。

残されているのは、砂の上に崩れ落ちた少女と、その亡骸を見下ろす処刑人だけ。




ヒトミは砂に倒れ込み、胸を押さえた。

息が苦しい。




アヤネに打ち据えられた脇腹は、呼吸のたびに内側から灼熱の鉄の棒で抉られるように痛む。口の中に広がる血の味で、正常な思考が麻痺していく。




だが――その胸の奥では、肉体的な痛みとは比較にならないほど、燃え盛るような衝動があった。




「……やめろ……!」




掠れた声。

それは、蚊の鳴くように細く、震えていた。


けれど、確かにそれは、絶対的な暴力の化身であるアヤネの動きを、一瞬だけ止めた。

アヤネは片眉を上げ、まるで初めて見る珍しい虫でも観察するかのように、ゆっくりと振り返る。




「……今、何て言った? 聞こえねえな、sukekiyo」



ヒトミは膝に手をつき、よろめきながら立ち上がった。

脚は生まれたての小鹿のように震え、喉はガラスの破片でも飲み込んだかのように張り裂けそうだ。

それでも、彼女は言った。血の味の混じる唾を飲み込み、もう一度、はっきりと。



「……やめろって言ったんだ… それは……私の……生命いのちなんだ!」



挿絵(By みてみん)



空気が一瞬、張り詰めた。

夕暮れの赤が、ボロボロになったヒトミの小さな体を、まるで後光のように照らしていた。




アヤネは、数秒の沈黙の後、腹の底から笑った。




「へぇ……立ち上がったか。sukekiyoが、陸に上がった。反撃のつもりか?」




その笑みには、侮蔑と、ほんの少しの好奇心が入り混じっている。





「でもな――」



金属バットが、空気を切り裂く唸りを上げ、再びヒトミの肩に叩きつけられた。

ゴッ!という鈍い音。




「ぐっ……!」




声にならない悲鳴が喉に詰まる。

身体が弾かれ、まるでボールのように、再び砂の上へ叩きつけられた。




アヤネはバットを肩に担ぎ、心底呆れたように吐き捨てる。



「弱えな。てめえの言葉なんざ、風に飛ばされる砂と同じだ。何の重さもねえ」



ヒトミの視界が滲む。

砂と涙と血が混ざり、世界がぐにゃりと揺らぐ。




それでも――


彼女は、這いながら、指を砂に食い込ませながら、再び立ち上がろうとした。





「違う……!」





声は掠れていたが、その震えは、もはや恐怖ではなかった。確かな意志だった。



「言葉は…世界を…変える…。私が、それを……証明する…」




挿絵(By みてみん)




アヤネは、その姿を見て、初めて笑みを消した。代わりに、その目に純粋な殺意が宿る。





「へぇ……証明、ねぇ。だったら見せてやるよ」




彼女はヒトミのポケットから奪った緑のライターを、まるで戦利品のように掲げた。




「てめえのその“生命”とやらが、どれほど簡単に、無価値に消えるかをな」



アヤネは、燃えさしが残るノートを高く掲げる。



カチ、と乾いた音。

再び灯された炎が、ヒトミの言葉と祈りが刻まれたページを、赤黒く舐めていく。




ヒトミは、残された最後の力を振り絞り、駆け寄った。









「やめろッ!!」









伸ばした手は震え、しかし、燃え盛る炎には届かない。




アヤネは、その無様で、しかし必死な姿を、愉快そうに見下ろした。



「ほら見ろ。これが現実だ。火ひとつで、てめえの“生命”なんざ、ただの灰になる」




火は紙を侵食し、インクが黒い涙のように溶け落ちる。

灰が風に舞い、夕暮れの空を汚していく。



ヒトミは声にならない声をあげ、必死に手を伸ばした。










「返して……! それは……!」









だが、あと一歩届かない。

ページが燃え尽き、ノートの最後の断片が、黒い蝶のようにひらひらと落ちかけた、その瞬間――









世界が、止まった。







ふっ、と炎の燃える音が消えた。風が止んだ。砂埃が、空中に静止した。

まるで、誰かが再生ボタンを停止させたかのように。



挿絵(By みてみん)


アヤネの動きが、ヒトミの絶望が、時間の流れそのものが、凍りついた。

その、絶対的な静寂の中。


まるで最初からそこにいたかのように、誰かの手が、燃えるノートをひょいと掴んでいたのだ。





「……勝手に燃やしてんじゃねえよ、ゴリラ女」





どこまでも涼やかで、どこまでも低い声。

止まっていた時間が、再び動き出す。

ヒトミの目が見開かれる。心臓が、止まる。

アヤネの顔から、表情が凍りつくように消えた。


夕陽を背に、緑の炎が揺れる。

燃えるノートを掌に収めたその姿は、まるで何事もなかったかのように、そこに立っていた。






芽衣子。






傷ひとつない、涼しい顔。SIONに連れ去られた時と同じ、竜胆学園の制服。

彼女は、まるで時空を飛び越えてきたかのように、そこに帰還した。




風が一度、校庭を駆け抜けた。

散った灰が舞い上がり、夕陽の赤と、彼女の髪の緑に照らされて、美しくきらめく。





ヒトミの胸に、太陽が昇るような熱が走った。

アヤネは言葉を失ったまま、ただ目の前の“ありえない存在”を睨みつけ、バットを握りしめる。





芽衣子は、燃えさしのノートを軽く振り、火の粉を散らしながら、ニヤリと笑った。

そして、呆然とするヒトミに、優しく、しかし力強く告げた。





「お前の声、聞こえたぜ、ヒトミ」




「……え…?」




「アンタが諦めない限り、この物語は終わらない。……続きは、ここからだろ?」



(to be continued…)



挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ