六話
「ビビ、出ておいで。」
よほど私の鞄が気に入ったようで、ビビは微塵とも鞄の中から動こうとしない。
ていうか、私寮の部屋誰かと一緒らしいけど…猫アレルギーとかあったらどうしよう。
そんなことを考えながら、食堂の席に座る。
流石にご飯を食べる場所でビビを外に出すのは良くないかと思い、さっき全開にした鞄のチャックを半分ほど閉める。
いくつかあったメニューの中から私が選んだのはハンバーグ定食だ。なんせこれは推しが初日に選ぶメニューと同じ!
だって推しと同じ時に推しと同じもの食べられるとか幸せすぎる!
いただきます、と音のならないくらい小さく手を叩き、フォークを手に持った時だ。しれっと何も言わずに私を挟んでレアとミルクが座ったのは、
「???」
ミルクはまだわかる、同じ一般枠で同じ女子という立場だから。
だけど、レア様はここで何をしていらっしゃるのでしょう?生きるために推しを摂取するのは大事ですが、過剰摂取するとこっちは死ぬんですよ?
「ルナはハンバーグ定食?私オムライスにしてみた!」
ミルクが右から大きな声で喋りかけてくれてるが、推しの過剰摂取でそれどころじゃない。
あ、と口を開けて、舌で唇を舐める…エッロ、なんすか?イケメンは何してもイケメンなのは知ってますけど!?ご飯食べてるだけでエロいのは聞いてません!!
私が脳内で暴れていると、隣からミルクがにっこりと笑顔で私に告げた。
「私、トイレで手洗ってくるね!」
私は冷静を装いつつも頷いた。
そしてすぐ、推しの方を見る。
顔面国宝、最高、好き。
「やっぱ本物だよね。」
「何の話?」
現実で生きている推しを見つめてる喜びのあまり変なことを言ってしまったが、目を逸らして誤魔化す。
推しをみてるだけではなくて、さっさとご飯を食べよう…
いや、オカズに推しが必要よね(?)
ちらっと推しの方を見ると目が合ってしまう。
「ねぇ、」
「はい!」
ど、ど、ど、どうしよう…見過ぎだとか言われたら。
なんか無駄にいい返事してしまったし…
「…俺の名前、レア。」
「…知ってます、」
すごく気まずい空気が流れる。
え?知ってるけど、何が言いたいんだ…
こんなセリフ漫画にはなかったぞ!!
彼の顔を見ながら少し首を傾げる、彼は私の顔を見つめたままだ。
「俺のこと、覚えてない?」
ん?どゆこと??
「レア様はとても有名人ですから…」
「様付けやめろ。」
少し圧を感じる声色で言われる。いや、あなた王子様ですよ?
「さん?」
「呼び捨てでいい。」
「はぁ、」
私が少し謎めいた声を出すと、眉を顰めたレアは言う。
「呼び捨てでいいってば。」
あ、名前を呼べって意味だったのか。
「…レア、」
すると満足したのか、レアはハンバーグ定食をまた食べ始めた。
食べながらもこっちを見てくるのが気まずすぎて、私はトイレに逃げようと立ち上がる。
「どこに行くんだ?」
「お手洗いへ…」
私は少し早歩きで、トイレへ急いだ。
「流石に覚えてないのか…」
俺は八年前のことを思い出す。
ルナフレアという名前の少女が、チンピラに絡まれてた時だ。
綺麗で、少しクセの入った髪。
エメラルドグリーンの目。
確実に、今さっきまで俺の隣にいたルナフレアは、八年前に会った彼女と同一人物だろう。
いや、もしあの時俺が助けたことを覚えてたとしても、多分あの時の少年が俺だとは思わないだろう。
なんせ第二王子である俺が、国の中心にあるあのでかい城からわざわざ抜け出して路地に遊びに行っていたなんて…普通は思わないよな…
“助けてくれてありがとう、私もう行かなきゃだから…いつか、お礼させてね。”
あの日、別れ際に言われた言葉。
お礼、ね…
“好き”
言われた時は驚いたなぁ。
権力や容姿を好んで狙いで来た輩とは違う。
あの綺麗な瞳で、真っ直ぐ言われた…“好き”
どうせ子供の戯言だけど、それでも嬉しかったんだよなぁ。
“いつか、お礼させてね。”
「俺のものになってくれないかなぁ…」
「何が?」
後ろから近づいてきたミルクに聞かれる。
彼女は、手についた水を可愛らしいピンクのハンカチで吹いている。
「なんでもない、」
後ろから何やら気まずそうにルナフレアも付いてきてる。
そのまま無言で座った二人、少し重めいた空気を破ったのはミルクだった。
「そういえば二人は何属性の魔法を使うの?」
彼女は続けて言った。
「私は光!」
「俺は水。」
ミルクと俺はまだ答えていないルナフレアの方を見る。
「闇属性…」
ルナフレアちゃんが説明しよう!闇属性とは!?
そもそも大前提に、魔法というのは大雑把に4種類ある。
基礎魔法、古魔法、禁忌魔法、属性魔法、。
基礎、古、禁忌魔法などの”共通魔法“と違い、属性魔法とは各々が生まれ持つ特別な魔法のことだ。
では、なんで属性魔法と呼ばれるか。
それはの魔法は生まれ持った“属性”が形を成したものである。個人の魂や存在に宿る性質を"属性"として魔法に現れたもの。
そうして人が生まれ持つ魔法は、属性魔法と呼ばれるようになった。
そして各々が持つ魔法の属性を分類すると、大きく六つに分かれる。火、水、地、風、光、闇。
生まれ持って火を操れば火属性、水を操るものは水属性。氷を生み出す魔法などは水属性の派生とされ、同系統として扱われる。
つまり六つの基本属性の下に、多彩の派生が存在する。一つの属性の中でも無数の現れ方がある。それが“属性魔法”。
そして闇属性。
名前だけでは影のある魔法を想像してしまうだろうが、実際は違う。
そう、闇属性とは!!
単に他の基本属性に当てはめられなかった魔法のことを言う。
そう、つまり!!
私、ルナフレの魔法は、他の基本属性に入れなかった可哀想な魔法!
そう、いわゆる!!
他の輪に入れなかった可哀想な魔法を言う!!!
ちなみにルナフレアが血の共有で眷属を作れるのは一部の魔族が持つ“特性”であり属性魔法とは関係ない。
世には例外がいるらしいが、基本人間が生まれ持つ属性魔法は一つの属性だけだ。
例外はいるらしいが…
「へー、珍しいね!どんな魔法?」
ミルクが興味深そうに問うてくる。
「えっと…んー、簡単に言うと、」
私が少し悩んでいた時だ、誰かが後ろから近づいてきたのは。
「君、これ落としたよ。」
「あ!ありがとうございます!!」
上級生らしき男性が、ミルクに紙を手渡す。見た感じ、寮の部屋番号が書かれた紙のようだ。
彼女はそれを見て微笑みながら喋り出す。
「私寮の部屋番号丁度100だったの!」
「あ、」
そうか、忘れていた。寮はルームメイト希望をしない限り、名簿とクラス順で寮が分けられ、さらに貴族階級で分けられる。
原作ではAクラスで一般枠の女子はミルクだけだったため、一人で寮部屋を使っていたのだが…
「え、もしかして!」
皆さんお察しの通り、私が同じ一般枠でクラスに入ったことで一緒の部屋になったのだ。
「あ、うん。同じ部屋だね、」
私が苦笑いと共に答えると、ミルクは嬉しそうに笑った。
「やったね!」
「うん…」
ヒロインの部屋に主人公が来たりするお話とかあったけど、どうなるんだろう…




