四話
推しのいる世界に魔族として転生した私は、推しと同じ学校に通うため長い年月もの間修行を積み重ねた。
もうすぐ、推しの顔が拝める…
猫であって私の眷属であるビビを撫でながら、私は街を歩く。
「ビビ、よかったねぇ。ペットおっけいだって。」
使い魔を飼う人もいるので、寮はペットおっけいらしい。まぁダメでも連れ込んでたけど…
しかしすごいよなぁ、金持ちの学校は。
一次試験は筆記試験、合格通知は翌日。
さらにその翌日には統合実技審査、つまり今日である。
今日の試験ではその場で合格発表されて、受かったらそのまま寮とか…
私は落ちたら魔界に帰るしかないんだけど…まぁ魔族の中、最年少で患部まで上り詰めたルナフレアの体、…に入ってるし受かるだろう。
学校にたどり着き受付にやってくると、先生らしき方から声をかけられた。
「名前は?」
「ルナフレア・アストルムです。」
ふふ、ヴィルセリアにつけてもらった苗字、意外と気に入ってるぞ。
「試験番号1番です、このカードを見える場所につけてください。」
苗字のせいか、こういう試験で番号一番ってなんかワクワクするな。
「ありがとうございます。」
私はカードについたクリップを胸ポケットにはめて、会場へと歩き進める。
残念ながら一般枠は貴族たちとは会場が違う…つまり推しに会えない。あーあ、顔を拝むのは入学式までお預けか。
「そこの可愛いの、」
私は横に並んできた男に目をやる。
「君も一般枠?仲良くしてくれよな!」
こいつ知ってる。
一般枠に受かったからって調子持って、第一王子に喧嘩ふっかけて、ボコボコにされた、三話くらいにしか登場しない、脇役。
そして、第一王子に敵わなかったからと弟である私の推しに手を出そうとした、存在価値のないゴミ。
こういう場合のベスト対応は、
無視、だ。
私は試験会場へ向かう足を早める。
「無視なんてひどいんじゃないか!俺、こう見えても強いんだよ?」
誰もそんなこと聞いてない、うざい。
前世ではどれだけウザい人相手でも笑顔で対応できていたのだが、無口なルナフレアに引っ張られたようで無視を決め込んでしまう。
そう、ルナフレアに引っ張られてるだけだ。決して社会人じゃなくなってめんどくさくなったとかではない。
「俺はモブロウ!モブロウ・デスヨロ。」
知ってる。
作者もお前のことモブ扱いしていたのがわかる名前だよ。
なるほど、試験管は先生以外にも、一部の生徒が受けるんだな。先生たちと打ち合わせをしている生徒がちらほら見える。見た感じ、生徒会に所属してる人たちだな。
生徒会か…
「すみません、遅れました。」
後ろから声がした。高校男子にしては、少し高い声。
「きゃー!?」
「嘘!!」
「アスタ様!!」
一般枠の人たちが声を上げる。アスタ・クライスト。何を隠そう、私の推しの兄にしてこの国の王子。超・有名人だ。今は副会長の一人だったな。
四年制のこの学校じゃあ3年生で流石に生徒会長になれないからなぁ。
私の推しと違い鮮やかな色をした金髪。しかし、目の色は私の押しと全く同じ、月のような綺麗な色をしている。さすが主人公、顔がとっても整っていてイケメンだ。まぁ私好みの顔ではないけど。
私は推しみたいに、もう少し悪い感じが…
「っふん、所詮親のコネだ。」
ゴミが…間違った。モブロウが王子に向かって一言発した。
バカだな、時期王になる人だぞ。幼少期から色々な英才教育を受けてるって普通は察するだろ。
まぁ私は推しの兄だし全然嫌いじゃないけど、周りの男子結構こういう奴らが多いんだよなぁ。逆に女子は時期王女の座のため交際関係狙ってる子が多いけど…彼には女主人公という名のヒロインがいるし、まぁ意味はない。
そういえば、そのヒロインも一般枠で今日受けてるはずだけど…確か時間ギリギリに来るんだよな。
そんなことを思ってるうちに、試験会場にだいぶ人が集まってきた。ていうかもう受付終了時間だな。
「間に合った〜!!」
声のする方を振り向くとそこには綺麗な水色の髪をポニーテールにした女の子がいた。私は結構身長が低い方だが、その子も大して変わらない。
ミルク・ライナー、この漫画のヒロインだ。
「君!名前は!」
受付の人に声をかけられている。
「ミルク・ライナーです!!」
「はい!試験番号!!見えるところにつけてください!!」
「はい!!」
うるっさ、対抗して声を上げてるヒロイン。公式でうるさいって描いてあったけど思ってたより声大きいんだな。まぁ、可愛いから許せるけど。
こっちへ歩いてきたヒロイン、王子と目を合わせてる。
確か漫画ではヒロインが一言“わぁ、綺麗な人“、王子の方は "…”だったな。
王子に対しての黄色い声や、ヒロインに対しての軽蔑するような声など、大分ザワザワしていたがすぐに静かになる。
演壇の上に上がった王子が声を出したのだ。
「皆さん、今日はクライスト王立高校の入学試験にご参加いただき誠にありがとうございます。」
さすが本物、漫画とオーラが違うな。
もちろん漫画でも相当かっこよく、品のあるようにかかれていたが…それを上回るといってもおかしくはない。優しくて、それでいて高貴で…どこか掴みどころのない感じ。
「それでは、試験を始めましょう。」
彼が演壇から降りると同時に、地面に魔法陣が現れる。と、私たちの体は浮いたり沈んだり。
重力をいじる魔法だ。意図的に操っている訳ではないようで、法則性は見当たらない。
すると、魔法陣の中心に大きなゴーレムが出てきた。魔法属性はどうやら土のようだ。
「彼の攻撃を一分間、一度も喰らわなければ合格です。
では、はじめ!!」
声と同時にゴーレムが腕を振り翳して、数人が脱落する。どうやら攻撃を受けてしまうと魔法陣からは寝出される仕組みのようだ。
ただし、このゴーレムを避ける試験は1分も経たずに終わる。理由は簡単だ、ヒロインとモブが倒してくれる。あ、モブって、漫画いう名前すらないリアルなモブキャラのことではないよ?モブロウのこと。
ヒロインは攻撃魔法こそ使えないが、サポートに特化した光属性の魔法を使う。例えば回復魔法とか。
今回彼女が使う魔法は、ライトバインド。
光の縄でゴーレムの動きを縛り付けるような感じで、彼女が足止めしてるところをモブロウが風属性と物理攻撃を合わせた技で倒す。
ちなみに意図的に連携したわけではなく、モブロウがゴーレムが止まってることをいいことに、手柄を横取りした感じだな。
だがしかし、ヒロインは魔法を使わなかった。
「あ、」
私が腕につけてたヘアゴムが落ちた。
ヘアゴムと言ってもそこらへんにセットで安く売ってるやつだ。特に可愛いデザインって訳でもない、ただの真っ黒なやつ。別に大切なものではないし、地面に落ちたものはつけたくないので放置しようと思ってた時だ。
ヒロインが、ゴーレムに発動しようとしてた魔法を止めてまで私のヘアゴムをとってくれたのだ。
重力がいじられて空に浮いてるにも関わらず、必死に手を伸ばして…
しかしそれを見逃すゴーレムではなかった。
ゴーレムが振り翳した重い腕がヒロインに当たる…そのギリギリ前に、私が彼女を守った。
「リフレクション」
リフレクション、簡単にいうと一般的な防御魔法に跳ね返しの魔法をかけたようなものだ。
ただし、一般的な防御魔法よりも魔力消費が激しい上、跳ね返したものは速度が少し落ちる。
例えば石を10メートルの距離で投げたとしても、跳ね返った石は6から8メートル程度しか跳ね返らないイメージだ。もちろん速度が落ちるため威力も落ちていく。
しかし、今回は話が別だ。遠くから魔法を放たれたり、石を投げられたわけではない。
ゴーレムの攻撃が魔法に触れたままの腕に当たる。
速度が落ちる前に。
つまり超簡単に、結論から言うとだ。
ゴーレムの手の先から体に向けて亀裂が入り、ゴーレムは粉々になった。
少し沈黙が流れたあと、重力を操ってた魔法陣が消えた。
私たちが地面に降りると同時に、明るい歓声が聞こえた。
「合格です、」
「ゥオー!!」
一般人には夢のまた夢の学校に合格した受験者たちは嬉しそうに飛び跳ねている。
私はヒロインからヘアゴムを受け取る。
「ありがとう、」
多分すぐまた落として捨てるけど、感謝を伝えた。
「…!わ、私こそ!!!」
ヒロインが大きな声で話し始めたと同時に、主人公が合格者を集めて校内に案内すると言い出した。
先生たちは合格者たちをメモっている。
「今年は一般枠の合格者が異常に多いな。」
「どうします?流石に削った方が…」
「大丈夫だろう、別に寮部屋も空いているのだし。」
先生たちの話す声が聞こえたが大丈夫だ、漫画と同じ人数しか受かってないし。
「紹介が遅れたね、僕の名前はアスタ・クライスト!生徒会副会長を務めている。合格者のみんなより2年上の学年だ、これからよろしくね!」
アスタ様ぁ〜、などときいろい声が聞こえてくる。
さすがはイケメン王子、と言ったところだ。
「…あの人有名なの?」
ヒロインが私の耳元に顔を近づけて、小さな声で聞いてきた。
「この国の王子様だよ?」
本当はこの後彼自身の口から王子であることに気づくのだが…今言っちゃっても特に問題はないだろう。
「え!?」
大きな声でヒロインが反応する。
「そこ!うるさいぞ!!」
先生に注意されてオドオドと謝っているヒロイン。可愛いな。
最推しではないけど、ほとんどのキャラが好きな私にとってはマジ栄養。
それから寮や食堂、トイレなどといろんな設備を案内された頃。
「これで西棟は全てです!では、クラスのある東棟へ移りましょうか。」
そういえば今日からもう授業か…確か漫画では東棟にある各自のホームルームクラスへ行き、自己紹介などを済ませた後にまた棟内を回る感じだったな。
うわぁ、自己紹介かぁ。学生の頃は毎年あったけど、好きじゃなかったなぁ。
そんなことを思いながらも、クラス表を渡される。
Aクラスだ。一般枠の人にとっては夢のまた夢のクラス。
まぁ簡単にいえば、貴族たちの中でもめっちゃできる人たち用のクラスだな。
確か漫画ではモブロウとヒロインも同じクラスだったな。
しかーし!そんなことはどうでもいい!
なんせAクラスには、推しがいるのだ。推しと同じクラスとか、はぁー、楽しみぃ…
ドアの前で深呼吸をしてからクラスに入る。私が狙う席は一番後路で左の席。
前世でいう講義室のようなクラス。窓側の席はどこでも人気だが、一番左後ろは特に人気だ。
だがそんなの関係ない、私はそこに座る。
なんせ、その席は…
推しが座る席の真後ろ!!!
授業中後頭部見放題とか最高すぎる。
ただの後頭部とか思うかもだけど、だってあれだよう?
今日は髪の毛セットしてるなぁ、早起きしたのかな?とか、
今日は寝癖がついてる、寝起きどんな顔だろう?とか、
ふと後ろを振り向く推しと目があったり…とか!一生想像できちゃうよ、
あー、やばい超楽しみ。この日のために毎日頑張った。
左後ろの席にはまだ誰も座っていない、急いで来た甲斐があった。
私はそこの席に、顔をにやつかせながら座った。
窓側の左後ろテーブル、…完璧!
あー、早く推し来ないかなぁ。
そんな時だ、急に声をかけられたのは。
「あの…!」
「ねぇ、…」
水色の髪、黒色の髪。
とっても見覚えのある色。
「「隣座ってもいい(ですか!)?」」
そう、この漫画のヒロイン、ミルク・ライナーに…
私の推し、レア・クライスト…
どうやら私は意外とモテるようだ(?)




