二話
推しのいる世界に魔族として転生してしまった私だが、今のところ難なく推しに近づけている。
「お嬢ちゃん!よってかないかい?」
「いいもん揃えてるよ〜!」
城下町となると相当賑わっており、転生前ではお祭りでしか見なかったような屋台がたくさんある。
「にゃ〜?」
ビビが屋台の一つを見て鳴き声を上げたので足を止める。
「おっ!猫ちゃんか、可愛いな!」
眷属にしてしまったので多分猫ではなくなってしまっただろうが、ツノも尻尾生えてないし誤魔化せるだろう。
「どうだ?こんな魚とか、猫ちゃんに買ってやらないか?」
確かにビビに餌をやってないし、買いたいところだけど…
「今現金持ってないんで、」
ビビには申し訳ないけど、ツノと尻尾を換金してからにしよう。っていうかこれどこで換金すればいいんだろう、冒険者登録はこの年齢じゃできないだろうし…
「じゃあ物々交換でいいよ!何か持ってないか?」
しかし熱心なおっさんだ、こんな子供にどうしてそこまで魚を買わせたいのか…
今私は身なりも言うほど綺麗ではなく、そこら辺の平民ガキンチョみたいな格好をしているのだが…
「たとえば嬢ちゃんがつけてる髪縛りとか、それ結構な価値すると思うぞ?釣りもやるから、おじさんにくれないか?」
あぁ、髪縛り目当てか。これは魔王様にもらったものだからな…
「大事なものなんで。」
「そうかぁ?そりゃあ残念。」
代わりに私はポケットを漁る。
「魔族の尻尾っていくらぐらいで売れるのかな?」
「さぁ、状態や、なのある魔族かよるだろうけど…普通のでも、金貨数枚には相当するんじゃねぇの?コレクターとかいるし。どうしてそんなこと聞くんだ?」
「じゃあ金貨二枚でいいよ。そっから魚の分引いて、おつりちょうだい。」
私はおじさんに尻尾を差し出す。ごめんねルナフレアちゃん。大事な尻尾、きっとこんなおっさんじゃなくてイケメンに渡って欲しかったよね…
「嬢ちゃんこれは!?!?」
確かファンブックによると、
金貨一枚= 銀貨百枚= 銅貨千枚= 鉄貨四千枚だったな。
それが日本円でどれくらいの価値があるのかわかる描写はなかったが…確か金貨は貴族や王族のために作られたため、ものすごく高い価値などに対し、銀貨や銅貨、鉄貨は身近に使えるものだったな。
鉄貨一枚が百円以上の価値があったはずだから、金貨は…あれ?もしかして100万くらい??
あたりがざわついてるのに気づく。
そっか、金貨は貴族や王族のため…普通こんなとこにいるおっさんが持ってる訳ないんだ…
やべっ、早くずらかろう。
「おじさんごめん、また今度。」
私はささっと彼から尻尾を取り返して、早歩きでその場を離れる。
「嬢ちゃん!?」
おっさんが声を上げるのが聞こえたが無視。やばいなぁ、周りからジロジロ見られてる。
けどあのままいたら絶対金貨なんかと交換されなかっただろうし。周りの人もざわつき始めてたからな。そもそもこの年齢の子供が魔族の尻尾なんて持ってる訳ない!とか言われる前にさっさと離れてよかった。
安堵するのも束の間、私は路地裏のような場所にたどり着いてた。
「どこだここ?」
気づいたら城の裏側が見えるとこまで来てしまっていた。さっきまで正面が見えてたとこから察するに、私の今の場所は…
「プシャー!!!」
ビビの威嚇の声に反応して後ろを振り向くと、まるで日本で言う人時代遅れのヤンキー。あのモヒカンになんかじゃらじゃらしたアクセサリーたくさんつけてる奴が、二人…
うわー、痛い格好。
いや、まぁオタクの私もきっと痛バ持ってイベント行ってた時とか同じこと思われてたんだろうけど…!
って今は前世の思い出に浸ってる場合じゃない!!私今この二人が近づいてくるのに気づかないほどなんですけど??魔族が得意のはずの魔力探知すらできてないんですけど??これどうすればいいの??せめて基礎魔法くらい使えたら…
「可愛い嬢ちゃん、お兄さんたちお金に困ってるんだ。」
その顔でお兄さんはきついよ、おっさん。
少し呆れまじれの同情心がわいたのも束の間。彼らは鉄パイプのようなものを手に持っていた。
なんで異世界のヤンキーも鉄パイプ持ってんだよ!と、突っ込みたいとこだが、確かこれ作者の前作に出てくるキャラじゃね?うわー、そんなとこも引っ張られてるのか。面白いなぁ、異世界転生。
「さっき町で売ろうとしてたもの、お兄さんたちに譲ってくれない?」
さーて、私が今使える魔法はズバリ、空を飛ぶ。しかしこんなとこで空を飛んで逃げたら大騒ぎだろう、空が飛べるのは魔族だけが使える魔法だ。
あとはもし眷属がいたらそいつに戦わせるのもありなんだけど...ビビには戦ってほしくないしなぁ。だって魔力が尽きないまで死なないって言っても、どちらかというと“死んでも魔力がある限り蘇生ができる。”って感じなんだよなぁ。猫が死ぬのなんて、ましてや可愛いビビが死ぬのなんて見たくないし。
「お嬢ちゃん?お願いだよ、」
どうしようかなぁ、魔族って人間よりも身体能力優ってるしはずだし、そこに賭けるか。
あはは、前世の私だったら怖くてそんなこと絶対考えないだろうに、なんかルナフレアの性格に引っ張られてる?
「ねぇ、お嬢ちゃん。今くれたら悪いようにはしないからさ。」
そういって見せびらかすように鉄パイプを持ち上げるおっさん。
「嫌だといったら?」
「ちょーっと、痛いことしちゃうかな。」
後ろの方のモヒカンが前に出てきて、鉄パイプを大きく振りかざす。私はビビを隠すように体を丸めて、頭を手で包むが、自然と痛みはなかった。
あれ?魔族も痛覚はあるはずなんだけど…
顔を上げると一人のモヒカンは倒され、もう一人と戦ってる人物が見えた。
「え、」
ここにはいるはずのない人物が、目の前のモヒカンを倒して、気づけば彼は私の方を見ていた。
「大丈夫?」
私の顔を覗くように近づいてくる彼。
やばい。
確かに、押しのショタを拝みたいと思った。
めっちゃ思った。
ずっとそのことしか頭になかったってくらい思った。
けどまさか、こんな近くで推しの顔がみれるとか…
っちょ、やばい、こんな近くで見れるなんて聞いてない!やばい!めっちゃいい匂いする!髪の毛癖っ毛なのにサラサラしてる!?黒髪かわいい!肌白い!目の色お月様みたいで綺麗!やばい!可愛い!かっこいい!好き!!
「大丈夫?顔赤いよ、」
「っ、あ、う、うん?大丈夫でしゅ…」
やばいやばい推しに心配されてる!!!てかめっちゃ噛んじゃった!?やばい変なやつって思われてたらどうしよう??けど推しに認知された!やばい!嬉しい!!死んでよかった!!転生できてよかった!生きててよかった!!?
「そう?」
あー!!!原作では口が悪くて、もっとツンデレ感があるのに!てか原作では悪なのに!ショタ時代は優しいのね??可愛いわね??つまり最高ね??
「好き。」
あ、やべ…声に出ちゃった。
「…!」
急に推しの動きが止まる。流石に知らんやつから告白されるとかキモかったよね…
「あ、ありがとう。」
あれ、そこまで嫌そうではなさそう?
ていうか突然すぎて気にしてなかったけど、どうして王子がこんなところに?
ていうか私彼に思いっきりタメ口叩いちゃったけど…王族に…大丈夫かな?
ていうかていうかていうか…
どんどん彼に対して質問が湧き出てくる。これが愛…
アイドルの握手会とか行ってるオタクはどうやって冷静を保っているんだ、やっぱ内心冷静じゃないのか??
あー、やばい。好き。
このまま話をしたいと思っていたら、急に頭の中で声がした。
(ルナフレア?僕だけど。僕僕。)
僕僕詐欺?
(あはは!違う違う!!)
あ、こっちの声も聞こえるんだ。
頭の中で思ったことだから声っていうのか知らんけど。
魔王様ですよね、なんのようですか?
(さっき話した、宿とかは幹部を向かわせるからその人に任せてっていうの。覚えてる?)
はい、
(そんで暇そうなの見つけたから送ったヨォ!そろそろ着くんじゃない?それじゃあそんだけだから。楽しんでね〜。)
はい、
そうすると魔力の紐が切れるような感覚がして、魔王様の声は聞こえなくなった。
今のって思念伝達だよね?どうやるんだろう…
「あのさ、」
推しに声をかけられる。
「君の名前は?」
「…ルナフレア、」
そうすると彼は笑顔で言った。
「俺はレア!」
知ってる、なんならあなたの名前の由来から、あなたがその名前をどう思っているかまで、知ってる。
「助けてくれてありがとう、私もう行かなきゃだから…いつか、お礼させてね。」
そういって私は街の方へ駆け足で逃げる。幹部の誰がくるか知らないけど、流石にこの国の王子ともあろう人と魔族を合わせるのは良くないだろう。
「え、あ、…」
「行っちゃった…」
レアはポツンと、一人で立ち止まる。
「ルナフレア、か…」
彼は崩れ落ちるようにしゃがんで顔を手で覆い隠した。
「初めて、好きって言われたな…」
彼自身も自分の頬の熱さに驚いてた
「父さんにも母さんにも、言われたことないのに…」




