表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/86

34. 逆転の第一歩


「――というわけなの」

「わかりましたわ! お姉さま!」

「お嬢様、頑張りましょう!」


 メグミと、学院から帰ってきたばかりのアメリに解決策を打ち明けた。二人ともやる気十分だ。


「では、ネックレスの花を小さく分けたものを準備するとして……どなたから飲んでいただきますか? やはりフェルナン様からですか?」

「えっとね。フェル様もシャルル会長も、今は隣国の視察でご不在なの。だから、アレクシス様から飲んでいただこうと思っているわ」


 アランからのアドバイスによれば、チャンスはおよそ五回。そしてアレクシス様なら、明日もいつも通りヴェルナーサ学院へ登校するはず。まずは彼を元に戻したい。


「私、やります!」


 アメリが勢いよく挙手した。可愛い妹からの申し出が頼もしい。


「明日の早朝に決行しましょう!」

「朝イチね。わかったわ。早朝だと……アレクシス様は普段、どちらにいるのかしら?」

「アレクシス様は毎日朝早く、学院近くの空き地で鍛錬に励まれています。雨の日も風の日も、一日たりともお休みにならないのよ」

「へ、へえ~。外の空き地、ね……」


 アレクシス様が努力家だとは知っていたけど、そこまで詳しい情報は初耳だった。


「アメリったら、よく知ってるのね」

「良いと思いますわ。学院の外の方が、安全にお話をできそうですものね」


 いたく感心する私とメグミ。しかし、アメリは急に小さな声になった。


「えっと……そこでアレクシス様とお話をしたことは、実は無いのです……」

「えっ? でもあなた、アレクシス様をそこでよく見かけているのでしょう?」

「空き地の周りの草むらから毎日、ただ見ているだけなので……」

「えっ!? 毎日!? ただ見てるだけ!?」


 驚愕した。


 たしかに、以前からアメリは朝早く登校するようになっていた。「学院で自習してまいりますわ」とか言って。殊勝な妹だと感心していたけれど、彼女が自習していたものは、学院の授業内容ではなくアレクシス様の筋トレ状況だったと知る。


 ちょ、ちょっと、あなた……。


 草むらからじっと見てるだけって、少し……いや、かなり怖くない?


 ん? 草むら?


 そういえば、アメリが最近ずっと緑色の傘を肌身放さず持ち歩いていることを思い出す。まさかと思いたずねた。


「――傘? ああ、そうでしたわね。ちょうど草の色と似ていたものですから、隠密活動に便利かなって……」

「お、隠密!?」

「だって、お姉さまも、いつも口酸っぱくおっしゃっているではありませんか――『武器や防具は持っているだけじゃ、意味がありませんわ。ちゃんと装備するのよ』と。お姉さまの格言のお陰で、まだ一度も、アレクシス様に私の活動は発覚しておりませんの」

「はあっ!? ちょ、ちょっと待って! あなたってばそんなことしてるの!?」


 私は昔から、「陽キャ」の妹のことを羨ましく思っていた。しかし、彼女の斜め上の進化(?)を前にして、激しく動揺してしまう。思わず彼女の肩に両手を乗せて叫んだ。


「アメリ! 影属性の私と違って、あなたは光属性なのよ! なに勝手に闇落ちしてるのよ!」

「……お姉さま、よろしいですか」

「な、なに?」

「――光ある限り、闇もまたあります」

「へ?」

「光と闇が両方そなわり最強に至り……私のアレクシス様への想いが、いずれ通じるやもしれません」

「……」


 これはいけない。


 このままでは、妹が光属性の「貴族令嬢」から暗黒属性の「ニンジャ」にクラスチェンジして、最後は裏世界でひっそり幕を閉じることになっちゃうかもしれない。


 ど、どうしよう……!?


 ちなみに、「闇落ち」とか「ニンジャ」などのこの国に存在しない単語は、メグミから教えてもらったものである。するとメグミが呑気に言った。


「まぁまぁ、エミリーお嬢様。年頃の女の子なら、ついやってしまうことの範囲内かと」

「……」


 ちょっと! メグミ! どこの年頃の女の子が草むらに毎朝潜伏してるっていうのよ!


 ……とはいえ、今はアメリに託したほうがスムーズにいくことは確かだ。


 なんやかんやで結局、妹がアレクシス様に飲ませるということに決まる。そしてメグミは、ネックレスの花びらを何か自然に飲めるものに変えてくれるという。ありがたい。


「お嬢様。お任せくださいませ。食材でないものを、食べられるようアレンジするのは私の得意技です」


 メグミはドヤ顔だった。


「……」


 あなた、もしかして、私が普段勧めるハーブとかを実は食材だと思ってないでしょ……。




「よいしょっと……」


 翌日の早朝。草むらに潜伏した私は、緑色の傘をさしていた。


 傘の目的は日焼け対策ではない。アメリいわく、傘をさしている方が擬態しやすくてオススメ、とのことだからだ。


 擬態って……。


 やっぱり妹の将来が心配になる。

 

 おっと、任務任務。


 空き地に目をやると――大きな山が躍動していた。


 山ことアレクシス様は、その巨体と赤い髪を上下に激しく動かし、黙々とスクワット中だった。ここから距離はあるけど、私の耳にまで「フッ! フッ! フッ!」と、彼の吐き出す息が今にも聞こえそうだ。


 そこに、一人の女子生徒が姿を現す――アレクシス様の元へ静々と向かっていくアメリは、一見するとお淑やかな貴族令嬢に見える。


(本当はニンジャのくせに。恐ろしい子……)


 アレクシス様もアメリに気付いたようで、その激しいスクワットを止めた。二人は挨拶を交わしているようだ。両手で傘を握りしめ、息を呑む。


 アメリがハンカチと水筒をアレクシス様に差し出す。


 ――あの水筒には、細かく砕いた例のものに、ニキビ対策の成分が含まれたハーブなどをブレンドしてジュースにしたものが入っている。


 もちろんメグミ特製だ。お腹を壊したりしないかは、少量ではあるが私が飲んで実験済である。ちなみに、スカッとさわやか!な喉越しで、さすがメグミだなって思った。


 アレクシス様がアメリから水筒を受け取る。そして。


(飲んだ!)


 ぐびっと一気に水筒を煽った彼は、急に頭を振り出した。そんな彼のことを心配そうに見ているアメリ――。


 突然、妹が令嬢らしからぬガッツポーズをすると、こちらを振り向いて叫ぶ。


「お姉さまー!」

「!」


 傘を閉じ、令嬢らしからぬダッシュで猛然と駆け寄った。


「アレクシス様―っ!」


 草むらから突如飛び出してきた不審者、もとい私に、アレクシス様は驚愕の表情を浮かべた。


「お、お、お師匠!」

「ア、ア、アレクシス様……!」


 息をゼーゼー吐きながらアレクシス様を見ると、彼は目に涙を浮かべていた。


「こ、この私が……大恩あるお師匠のことを、すっかり忘れてしまっていたなんて……!」

「ハア、ハア、ハア……。お、思い出していただければ、よろしくってよ。本当によかった……」

「な、なぜこんなことに……?」

「経緯などもお話したいのですけど……。まずは、洗脳されているみんなを元に戻さなければなりませんわ」

「せ、せ、洗脳!?」


 それから私はアレクシス様に状況を伝えた。説明を重ねるにつれ、彼の整った顔立ちはさらに青ざめていった。


「……お師匠、よろしいか?」

「はい」

「話は理解した。だが一つ、訂正が必要だ」

「訂正?」

「実は……私が思い出したのは、お師匠のことだけではないのだ」

「えっ?」

「私は、ローラのことも忘れておった。そして恐らく、シャルルたちも彼女のことを……」

「な、なんですって!?」


 忘れ去られた人間は私だけじゃなかった。それも、よりによってローラが……!


 ローラには物凄い魔力の素質があるらしい。そして彼女は実は王族の血を引く、秘められた過去を持つ特別な存在――。


 本当のターゲットは、もしかするとローラなんじゃないの!?


 強烈な焦りの気持ちが頭の中に渦巻いていく。


「お師匠。同じ物はあるか? さっそく試したい」


 残された回数はあと四回。その内の一回分は、予備で持ってきたもう一本の水筒に入っている。


 アレクシス様と話し合った結果、これから一回分を彼が使い、残りの三回分はローラ、シャルル会長、フェル様に回そうという話になった。


「この分は、ジャンかナタリーに飲ませてみる」

「わかりましたわ」


 水筒をアレクシス様に託した。




「ただいま戻りました。あ、お姉さま……」


 アレクシス様の記憶を取り戻したその日、午後に早退して帰って来たアメリは、深い憂いの表情を浮かべていた。


「どうしたの……?」


 走り寄った私に、妹は語った――。


 その後アレクシス様は、ジャンに迫り水筒を無理やり飲ませたらしい。ガチムチのアレクシス様が、線の細いジャンを力ずくで拘束して何かを強引に飲ませている、ちょっと危ういイメージが浮かんだ。


 ちょ、ちょっと、アレクシス様、なにやってるのよ……。


「でも、ジャン様には効果がなかったって……」

「そんな……! なぜ……?」


 ――効く人と効かない人がいることがわかった。


 でも、その法則が皆目検討がつかない。


「お姉さま、どうしましょう……?」


 困惑するアメリ。私も正直落胆しかけた。でも――。


 まだ二人しか試していない。


 気を落としている場合じゃないわ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ