10. アメリの恋の悩み相談
アメリが恋。
ま、まさか――。
「……誰なのか、聞いてもいい?」
赤面しながら妹は小声で答えた。
「アレクシス様です……」
うおぅ。
妹よ。
お前もか――!
以前からアメリはよく、男らしいタイプが好みだと語っていた。一方、アレクシス様は“男らしい”といえば、そうなのだけど……。
「あのね、アメリ」
「はい」
「アレクシス様は、たしかに男らしい外見だし、天才的な運動の才能を持ちながら、鍛錬の努力も決して欠かさないご立派な御方よ。しかも、お家は武の誉れ高きアーランド侯爵家。でもね――」
一応、たしなめた方がいいのかなと思って続けた。
「アレクスシス様の中身は、漢というより乙女なのよ!」
「は、はぁ……?」
あ、あれ? アメリはピンときていない様子だ。
「え、えっと、アメリは男らしいタイプが好きなのよね?」
「あ、はい。確かに男らしい方はとっても素敵だと思いますけど。何というか……例えば、“ガツガツ”、“オラオラ”したような人は私、苦手ですの」
「あれ? そうなの?」
「アレクシス様は、確かに見た目がいかにも“騎士”って感じで、とっても格好いいなって思いました。それに実際にお話すると、とてもお優しくて、紳士的で――」
恋する乙女の顔をした妹は、アレクシス様の優しく繊細な内面も含め、彼をひたすら称えていった。
そうだったのか……。
妹の言う「男らしい」の概念を理解した私。とりあえずは納得だ。
「アレクシス様には、お心に決めた方はいらっしゃるのですか?」
「いないと思うわ。婚約などの話もまだないみたい」
即答した。フェル様からの情報なので確実だ。
「本当ですか!? でも……」
私からのタレコミにアメリは一瞬喜色を浮かべたものの、またうつむいてしまう。
「お姉さまのおっしゃる通り……アレクシス様はあのアーランド侯爵家の方。一方、わが家は男爵家。とても釣り合いませんわ……」
「……」
「お姉さま、私一体、どうしたらよいのでしょう……?」
い、いや~。ウルウルした目でそんなことを聞かれてもなぁ。
それにお姉様も、別件で絶賛悩み中なのよ……。
「……」
恋の迷路に迷い込んでしまったアメリを見つめながら思う――。
お母様似の美人でいつも明るい妹。アメリのようになりたいと、私は昔からずっと思っていた。でも結局、同じようなことで悩んでいる。やっぱり姉妹なのね。
「私で力になれるかわからないけど……アレクシス様にはアメリのこと、それとなく話してみるわ」
「お姉さま……!」
「だから元気を出して、ね」
「ありがとう……!」
ますます目をウルウルさせて抱きついてきた妹の小さな頭を、そっと撫でた。
翌日、生徒会室で昨日のことをつらつらと考えていたら、アレクシス様と目が合った。すると彼が話しかけてきた。
「お師匠、今よろしいか? 少々ご相談が」
「えっ? はい」
パタリ。
二人で隣の資料室に入り、ドアを閉めた。
「どうなさいましたの?」
「相談する相手なら、やはりお師匠かな、と……」
「相談?」
アレクシス様の巨体から醸し出される“乙女の恥じらい”にピンときた私は、キリッとした顔で言った。
「わかりました。スキンケアのご相談ですわね」
「ぬっ?」
「実は、アレクシス様にオススメしたい商品がございますの。お客様、本日は本当にラッキーですわ。ちょうど今、私の手元にありますものが特製ハーブでできた――」
「あ、いや、今日は別件だ」
あれ? 別件? 手持ちのポーチの中を探る手を止める。
「お師匠の妹君のことだ」
「……アメリが、何か?」
「アメリ殿はお相手が……もうすでに決まった婚約者がおられたりするのか?」
へ?
おや?
おやおや~?
「実を言うと私は、典型的な貴族の女性があまり得意ではない。そもそも口下手で会話も続かんしな。あ、お師匠は例外だ」
「え、ええ」
「もちろん、お師匠にはフェルがおる。私は君たちの仲をずっと応援しているのだ。どうか、頑張ってほしい!」
「え、あ、はい……」
アレクシス様がフェル様の話をいきなりぶっ込んできたので、思わず口ごもってしまう。
「あ、あの、アメリの件ですが……」
「お、そうであった。女性が正直得意ではない私だが、アメリ殿とは自然と話すことができたのだ」
「あらまあ」
乙女らしく赤面するアレクシス様から話を聞く。彼は礼節を備え、話が続く人がタイプらしい。そして、アメリには典型的な貴族令嬢のギラギラした感じがなく、年下なのにしっかりとした立ち居振る舞いが好印象だったようだ。
「――しかも、だ! アメリ殿は格闘家ファンだったのだ!」
「え? か、格闘?」
「私も格闘技には目がない。それはもう二人で盛り上がった! こんなことは学院生活で初めてのことだ!」
「……」
たしかにアメリも格闘界隈のマニア……。それはメグミの影響だったはず。先日、妹とアレクシス様が語り合っていた姿を思い出す――。
遠くから見守っていて、貴族令嬢らしくおしとやかに会話をしている妹の姿に、すっかり安心しきっていたけど……。
ちょ、ちょっと! あの子ったら、あのとき格闘トークをしていたの!? 初対面で、なにしれっと趣味全開の話をしてるのよ!?
「そこで、アメリ殿がどんな男性が好みかお師匠はご存知だろうか?」
「ええと、男らしいタイプが好きだと常々申しております」
「むむむ。男らしいタイプ、か……」
「なぜ妹がそうなったかというと、昔に巷の騎士物語にハマった影響かもしれませんわ」
当時、人気の恋愛小説にのめり込んでいたアメリは、続きが気になりすぎたらしく、ご飯も喉を通らなかったことがあった。私が「いい加減ご飯を早く食べないとモッタリナリモンスターに襲われますわよ」とたしなめたら、逆ギレされたっけ。
するとアレクシス様は、しょんぼりとうつむいた。
「私は特に、男らしいわけではないからな……。アメリ殿の好みには合わなそうですな……」
「えっ?」
彼の山のような巨体と燃えるような赤髪が萎れていくのを見て、慌ててフォローした。
「あ、あの、左様なことはないかと! アレクシス様とても“男らしい”ですし、何よりお優しく、紳士的でおられます。ご趣味も合うようですし、身内の私が申し上げるのもいかがかとは思いますが、妹との相性はぴったりかと存じます。ええ!」
「おお! そうか!」
「ですので、これからは私も妹に、アレクシス様のお話をそれとなくするようにいたしますわ」
「ありがとう! ……お師匠、すまない。フェルが卒業する件で、きっとお悩みであろうに。相談事を持ち込んでしまいかたじけない……」
「い、いえ……」
アレクシス様まで心配してくれていたのか……。
彼の優しさに胸が温かくなった。
「ところでな、お師匠」
「はい」
「最近暑くなってきたから、またニキビが……」
「あらまあ」
本題を終えてホッとしたのか、いつものペースで乙女なことを話し始めるアレクシス様。それを見た私はスイッチがON。ここぞとばかりにポーチから化粧品を取り出した。
「――こちら。ご覧くださいませ。わが家で売り出す予定の美容液の新作です! 厳密な品質管理の下で作られ、さらに、天然由来のハーブ配合ですわ!」
「ほほう」
「こちらを塗りますと、なんと――」
「ふむふむ」
「誰もが持つ、“あなた本来の肌の輝き”が……!」
「ほうほう! それでそれで!」
前掛かりになったアレクシス様を見てつい熱が入り、アイテムを説明しまくった。
……あ。
違う、そうじゃない。
我に返った私は、妹が心配していたことを思い出し、恐る恐るたずねた。
「先ほどのお話についてですが……」
「ん? なんだ、お師匠?」
「アレクシス様のお家は侯爵家であらせられます。一方わが家は男爵家です。あの、その、大丈夫なのでしょうか……?」
踏み込んだ質問に我ながらドキドキだ。すると。
「家のことか?」
「はい……!」
「そういうことか。問題ござらん」
アレクシス様はあっさりと答え、教えてくれた――。
まず彼は末っ子で、アーランド家を継ぐ立場ではない。そしてアーランド家は剣の腕のこと以外は放任主義。なお本人は騎士団に入団する将来を考えているそう。
「騎士として身を立てられれば、家を出て一代貴族になれる。つまり侯爵家云々という話は、あって、ないようなものだ」
そうなんだ……。
もしかしたら、いけるかもしれない。
妹のことを思って嬉しくなった。
「私は末子であるからな。気楽な立場なのだ」
「そんな……。アレクシス様は、いつも大変努力されているではありませんか。ご立派だと存じますわ」
彼は生まれつきの天才的な運動能力を持っているけど、そのことに胡座をかかずに毎日きつい努力を欠かしていないことを、私は知っている。
「だが、毎日鍛錬しているとニキビがな……」
「あらまあ! それならば――」
代謝の良さが故の若者の悩み。話題は再び戻り、私はお肌のディリーケアのアドバイスを、アレクシス様に入念に行ったのだった。
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