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23. 恋バナ?


「可愛い!」

「でしょう?」

「どうぞお召し上がりください」


 私たちの前には、メグミが用意してくれた色とりどりのお菓子が宝石店のようにずらりと並べられていた。


「ねえ、ローラ。これ食べてみて? おすすめよ」


 レストラン「ピエール・カレナ」のお菓子にすっかりはまってしまった私は、どの業者があのお店に卸しているのかを調べ上げ、家を通じて直接買い入れるようになっていた。


「うん……あらやだ、美味しい!」


 ローラの笑顔に嬉しくなりながら、私もお菓子をほおばった。


 う~ん、やっぱり美味しい!


 脳も救援物資が届いたことで、「我々は、あと10分は戦える!」と太鼓判を押した。いや、もう少し頑張ってくれない?


「さすがは豆知識に定評のあるエミリーね! このお店はどこで知ったの?」

「あ、うん……ナタリーのおかげ、かな」


 ついぼかしてしまう。本当はフェル様との生徒会の用事がきっかけだったけど、彼の話をここでするのは、なんだか恥ずかしかったのだ。


 生徒会の話題などをおしゃべりしながら、しばらくお茶を楽しんだ。


「それにしても、ナタリーの怪談ってつい引き込まれちゃうよね!」

「ほんと! 最近はもう、ナタリーがあの調子で話し始めるだけで胸がドキドキしちゃう!」


 最近ナタリーともランチを一緒に食べるようになった。彼女はランチの後はきまって「今日もいい話があるのよ」とニヤリと笑い、「学校の怖い話」を披露してくる。ナタリー秘蔵の怪談に阿鼻叫喚の私とローラ。聞いたら後悔するってわかっていても、先が気になって最後までしっかり聞いてしまう。


 彼女はそんな私たちを見て、いたく満足気なのだった……。


「ナタリーったら、もう少しお手柔らかにしてもらいたいものよね……」

「あら?」

「ん? どうしたの? ローラ?」

「ふふっ! あっち見て」


 ん?


 なんと いもうとが たちあがり なかまに なりたそうに こちらをみている。


 アメリだった。


 う~ん、どうしようかな~。


 またぽろっと自分の恥ずかしい話をされたら困るし、ここは「いいえ」を選択……。


「妹さんがさみしそうよ」


 仕方ないなあ。


 私が手招きをすると、嬉しそうに駆け寄ってくるアメリ。妹も参戦して色々と話していたら、いつの間にか恋バナ的な流れに。


「私は、“男らしいタイプ”の方が好みですの」


 アメリがお菓子をつまみながら言った。


 ちょっと、あなた。さっきまでお菓子を食べてたんじゃないの? 牛になるわよ。


「そうなのね。でも男らしいって、具体的には?」

「そうですわね。例えば騎士とか格闘家の方とか、格好いいなって」

「か、格闘家? 騎士ならわかるけど、格闘家が好きって珍しいわね」


 ローラが驚いていた。


 そういえばアメリは巷の騎士物語にハマっていた時期があった。懐かしい気持ちになる。さらに妹は格闘界隈についてもやたら詳しい。格闘好きになった経緯は、どうもメグミの影響らしい。


 アメリからは巷で人気の格闘家の話をよくされるのだけど、私にはさっぱりだ。そもそも、貴族令嬢で格闘家に詳しい子なんてあんまりいないと思うんだけどな……。


(男らしい、か……)


 お菓子をおかわりしながらふと、あのとてつもなくガタイのいいアレクシス様のことを思い出す。


 いやしかし。


 彼は学院の中で間違いなく一番「男らしい」とは思うけれど、それは外面とか運動能力とかの話だ。内面は乙女なのよね。


 ニキビ対策は順調だろうか? 師と仰がれたことで、スキンケアのアドバイスを彼にこっそり続けている私なのであった。


 あ、そういえば、試してみたらかなり良かった美容液があったな。今度アレクシス様にも教えてあげよう。


 そんなことを、ぽやっと思っていた矢先――。


「ローラお姉さま」

「うん?」

「私のお姉さまとフェルナン様って、仲がよろしいのですか?」


 ぐふっ!


 口に含んでいたお菓子でむせそうになった。


「そうよ。二人はとっても仲がいいわ」

「うごぅ!」


 お菓子を必死で飲み込んだ。


「ちょっ! な、何言ってるのよ!?」

「え? だって、どう見てもそうとしか思えないけど?」

「そ、そんなことないわ。私はフェル……ナン様のお仕事のサポートを仰せつかって、ただ一緒に働いているだけだわ」

「そうかしら? 二人は本当に仲良いねって、生徒会のみんなもエミリーたちのことを微笑ましく見ているのよ」

「……」


 全然気づかなかった……。


「キャー!」


 アメリが叫んだ。


「お姉さまったら、それって、おふぃすらぶじゃない!? おふぃすらぶよ!」

「おふぃすらぶ?」

「あらあら、エミリーお嬢様はやっぱり、フェルナン様と仲良しでいらっしゃいますのね」


 お茶を淹れ直しに来ていたメグミが続けた。


「職場に素敵な殿方がいて胸がトキめいていたら、いろいろなドキドキ、キュンキュンのハプニングが起き、二人の距離が次第に近づいていって……。それはまさしく、『オフィスラブ』でございます」

「へえ~。そういうのを、おふぃすらぶって言うんですね」


 感心するローラ、「そうよねぇ!」なんて言って喜んでいるアメリ、そしてしたり顔のメグミ。


 ――妹に妙な言葉を教えた張本人が誰かを知る。


「……メグミ。ちょっといいかしら?」

「はい、エミリーお嬢様」


 テーブルの空いているスペースを指差した。


「そこに席をもう一つ用意して」

「えっ?」


 ――という訳で会合は三人から四人に増えた。


 メグミもテーブルに座らせたのだ。


 メグミ、あなたも他人事だと思わないことね。


「ねぇねぇメグミ。メグミってば、どんな男性がタイプなの?」

「え? そ、そうですわね……」


 アメリにたずねられメグミは照れてもじもじしている。珍しいものを目にすることができて嬉しくなる。


「あえて言うなら……優しくて知的で大人な男性が好み、でしょうか……」

「へぇ~」

「大人な男性って、メグミさんは年上の男性がお好きなんですか?」


 ローラが自然と掘り下げる質問をした。うんうん。よくってよ。


「ええと、年上じゃないといけないわけじゃないですけど、しっかりされた方だときっと安心できるかなって……」


 なるほどね。でもメグミ自身が凄くしっかりした女性だと思うから、彼女よりしっかりした男性なんて、なかなかいないんじゃないかな。


「私もしっかりされた男性は素敵だなって思います」

「ローラ様は、どんな方がお好みですか?」

「ええと、しっかりしていて……。あとは優しくて、おおらかな方かしら……」

「あら、それって、シャルル会長みたいな方ってことかしら?」

「えっ!?」


 ふと口にすると、ローラの顔にボッと赤みがかかった。


 おっ。


「そういえばローラって、シャルル会長とよく話してない?」

「え、そんなことないわよ」

「でもシャルル会長って、ローラと話しているときは凄く楽しそうだわ」


 これは本当にそう。さすがにデレデレしているとかじゃないけど、シャルル会長がローラと話している時は、声がワントーン上がって、少しだけ早口になっている気がする。


「よく話しているとしても、それは仕事のご質問をいただいているだけよ」

「でも、二人とも息も凄く合ってるなって思うし、会長はとてもローラに優しいわ」

「もうエミリーったら……。シャルル会長はどなたにもお優しいじゃない? 会長の立場として、気を使って下さっているのよ。私はまだ学院に不慣れだし……」


 ローラはうつむいた。


 しまった。調子に乗りすぎた。


「……ローラ、ごめんなさい。ちょっとからかい過ぎたわ」

「ふふっ、いいのよ。会長に限らず、皆さんといい関係でいられているなって思っているし、私が会長のことを頼りに思っているのは本当だもの」

「……」

「エミリーだって側にいてくれるしね!」


 うわ~ん! ローラぁ!


 するとメグミが言った。


「それにしてもローラ様は、本当に気品がおありで、お美しくて、まるでゲーム……」


 げーむ?


「コホン。おとぎ話で王子様と最後に結ばれる“ヒロイン”のお役にぴったりだと、私は思いますわ」

「え、そんな! 私、ただの学生です。そんなことありませんわ」


 謙遜するローラを見ながら思う。


 私もメグミみたいに思ってるんだよな。ローラって本当に素敵だから、なにかのお話のヒロインみたいだなって。




 お茶会を終え、勉強を再開した。


 脳への栄養補給は十分だ。いささか過剰供給だった気もするけど。気のせい、気のせい。


「――これなんだけど」


 今日の予定をすべて消化したところで、ローラがペラリと紙を取り出した。


「来週の小テストの予想問題を用意してみたの」

「え?」


 紙を見ると課題が三つ載っていた。


「これ、ローラが作ったの?」

「そうよ」

「え~! ありがとう! 凄いわ!」


 自分で例題まで作れちゃうなんて……。ローラ先生、やっぱり半端ないです。


「小テストの前に、今日の復習がてらにやってみてね。あ、こっちは解答と解説。まだ見ちゃダメよ」

「うん!」


 至れり尽くせりだ。小テスト、頑張るぞ。


「本当にありがとう。ローラだって時間がないのに、ごめんね」

「いいのよ。教える立場になると、自分の頭の中も整理されるから。それにあんな美味しいお菓子もごちそうになっちゃったし。あんなに美味しいなら、生菓子だってきっと美味しいんじゃないかしら?」

「うん。間違いないと思うわ」


 実はもうシュー・ア・ラ・クレームを食べているのだが、絶品だった。生菓子全般も大いに期待してよかろうというもの。


「じゃあローラのお誕生日には、ケーキをごちそうするわね」

「あら、嬉しいわ。でも私の誕生日はだいぶ先なのよね」

「誕生日っていつなの?」

「六月六日よ」

「えっ!? そうなの!? 私の誕生日は六月五日なのよ!」

「えっ、偶然!」


 なんと一日違いだった。


「じゃあ、来年の誕生日は一緒に過ごさない?」

「うん! そうしましょう!」


 えへへ。来年の楽しみが増えてしまった。




「ローラさん、今日はようそこいらっしゃいました」

「いつもエミリーがお世話になっています」


 両親も現れ夕食の時間となる。いつもの家族の食卓にローラがいてなんだか不思議な気分だ。


 ああ、万年ぼっちだった私に、お友だちを家に連れてくる日が来るなんて。


 少し前までは想像もつかなかった。人生捨てたもんじゃないですよ、本当に。


 約束していた外国産の燻製肉もしっかりとメニューに加えてもらった。


「エミリー! この味、学食だわ!」

「でしょう?」


 ディナーが学食と形容されるのは微妙に聞こえるかもしれないけど、ローラの感想はもちろん最大限の称賛の意味だ。ヴェルナーサ学院の学食はとても美味しいことで評判なのだ。


「おや、ローラさん。そちらの燻製肉、お気に召されましたか?」

「はい、とても。王都のお店を幾つか回っても見つからなかったのです。こうしていただくことができて、とても嬉しいです」

「おお、そうですか!」


 お父様は嬉しかったのか、急にスイッチが入って語り始める。


「その燻製肉はですね、実はポルペ国のポル―地方のポルーペという豚のお肉を使っておりまして。いやもう、当地の名産品でしてね。そのポルペ国の年に一度のお祭りのポリリング祭ではそのポルーペ豚の中でも一番大きく育った……」

「ぽ、ぽる、ぽる……?」


 ちょ、ちょっと、お父様。初対面の人に、そんな意味不明な豆知識をいきなり披露するなんて。引かれちゃうじゃない。ローラだってびっくりしているし。


 まったくお父様ったら、やーね。


「ミゲル様は本当にエミリーにそっくりですね」

「ははは! そうですかな?」


 そうかなぁ。髪の色とかは確かにお父様似だけど。性格とかはどうなのかな? 自分じゃよくわかんないや。


 ディナーの時間もあっという間に過ぎていく。


「いやぁ、ローラさんは本当にしっかりされた方だ」

「ええ、本当に。エミリーと仲良くしてくださって嬉しいですわ」


 両親もローラのことをいたく気に入ったようで、私もつい浮かれてしまう。


「そうだ! ローラさん。今日はわが家に泊まっていかれてはいかがかな?」

「あら、いいですわね。ご家族にはわが家から責任をもってご連絡差し上げますわ」

「ローラお姉さま! 泊まっていかれて!」

「え、ええと……」


 ちょっ、みんな、何言い出しているのよ! 浮かれすぎ! ローラが困っているじゃないか!


「お申し出はありがたいのですが、両親が心配性なもので、早く帰って安心させてあげたいのです」


 ローラ本人から聞いたのだけれど、ご両親はご年配の夫妻で学院に通うローラのことをいつも心配しているらしい。彼女がご両親のお話をされる時に、優しい表情になるのが私は好きだ。たとえ彼らに血が繋がっていなくても、彼女の家の温かさが伝わってくるから。


 みんな残念そうだけど、しょうがないよね。食事を終え、ローラが帰路につく。


「今日はどうもありがとう、ローラ」

「こちらこそ、ごちそうになりました」

「ローラお姉さま! また早くいらしてくださいね!」


 みんなでローラを見送った。今日は本当に楽しかったなぁ。




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