天使が魔界に降りてきた
初小説なのでお手柔らかに......
魔界に天使が降りてきた
二度は言わない、天使だ。......二度言ったごめん。
嫌に神々しく真っ白な衣服で、背中には鴉のような漆黒の翼。
ああ神の使いだ、天使だ、間違いない。
「天使だ!!天使様だ!!」
仲間の魔族を呼んで、天使様を円状に取り囲み座った。
魔族たちは天使様に睨みを向けている。
怪しい侵入者と思っているのか?
まあそうなるよね。
ところでこの天使は何をしに来たんだろうか。
このゴミ溜めのような、紅いだけでなにもない魔界を消しに来たのか、それとも僕達を助けるという善意か?
できれば助けてほしい。
天使様が右手を振るった。
右手が通った空間に白い光が舞い、すぐに消える。
「おお~~!!」
まわりが「天使だ奇跡だ救いだ」と騒ぎたてる。
この天使なら僕たちを救ってくれるかも。
何百年ぶりに魔界へ希望をくれるんじゃないか?
あわよくば神のところへ行けるかも。
と、希望に満ちたまなざしをみんなが向ける。
もちろん僕もだ。
天使がもう一度右手を振るった。
今度は大きく、広く。
......さっきも見たぞ?まさか光るだけの天使だとでも言うか?
もう一度振るう。
チクショウ、これじゃただのでかいランプだ。
なんだ期待させやがって......さては魔界の誰かのいたずらか?
そうだったら後で〆よう、うん。
ぬか喜びは残酷だってことだ。
天使が両手で大きく振るった。
また......もういい、どうせ光るだけ。
ではなかった。
腕から伸びた光が、天使を取り囲むみんなの手に集まり。
魔族たちの手に、何かが現れた。
向かい側の魔族には本を、僕の隣の女魔族は糸を。
僕の手は麦を掴んでいた。
......麦?
あいつガラクタ押し付けてきやがった?!
いや......さすがに何か使えるものなんじゃ......。
麦だな、ただの麦が一袋。
段々怒りがこみあげてくる。
「おい天使、こんなもの」
頭によぎる、何百年も前の記憶。
いや……違う。
僕の昔......生前。
......人間だった頃の僕。
あっ......。
僕は麦の為に何をした......家族の為に何を......。
「天使様遅いよ......あの日に欲しかった......」
あの日神か天使が、飢えてた僕ら家族に麦を......。
一袋の食べ物をくれたら、僕は罪を犯さなかったよ。
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家族のためと思ってた。
知らない一家を殺して麦を奪い、家族に食べさせる。
殺したときの感覚、いままで忘れてしまってた。
僕だけが兵隊に捕まり、母さんたちは逃げた。
牢屋で死んだ。
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僕だけ......魔界に堕ちることはなかったよね?
この麦袋があの日手に入れば......。
罪を犯すことなく、母さんのいる天国にいけたじゃないか。
涙が一粒頬を伝う。
「母さん......会いたい」
長い時間で忘れていた、もう家族は死んでるだろうがそれでも......
「うっ......うう」
ふと見ると隣も泣いている、手には結ばれた糸。
大切な人のなんだろう。
よく見るとみんな泣いているじゃないか。
......僕もだ。
しかし、この天使かなりの悪趣味だな。
わざわざ心の傷を抉らなくても、泣かせなくてもいいだろ。
......天使?
ふと違和感が浮かんだ......いや。
母さんに聞かされた話を思い出した。
(天使様はね、真っ白のお姿とそのお力で、神様の下までご案内してくれるのよ)
目の前の天使を見上げる。
黒い羽根、目が焼けそうな白い光。
黒い羽根......。
隣はまだ泣いていた。
「なあ、こいつ本当に天使か?」
「なに......いっ......てるの、大事な大事な天使......様よ」
涙ながらに嗚咽声で、しかし気迫をもって言い返してくる。
待て......そもそも僕はなぜ......。
天使だとわかった?
考えればおかしい、僕は母さんの言葉なんて忘れていた。
おかしくなって立ち上がり、少しづつ離れようとする。
魔界で天使なんて言葉は聞かないし、真っ黒な羽という天使らしくないものがついているじゃないか。
グ二ャッ
そう考えているうちに、なぜか視界が大きく歪んでいった。
「......っ......う」
前後もわからなくなり、目を閉じてうずくまってしまう。
目が見えなくなる直前、白光の天使が真っ黒に変わって見えた。
なんだ......こいつはやっぱり天使じゃ......ない。
何者.....。
敵か......?
まずい......目を開けないと......。
開けないとどうなる?
背中に冷や汗が滲む。
死より恐ろしいことを考えてしまい、早急に目を開けたくなる。
目を開いても、いまだにみんなはじっと手元を眺めている。
でも僕の目には......天使様も、手元の麦も。
真っ黒に見えた。
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