第一章:咲けぬ花の化け物
──この村の人々は狂っている。1人の少年を化け物と称し、何の害もないそれを忌み嫌って生き続けているのだから。
◇
冷たい石が頬をかすめ、土の上に転がった。
「出て行け###め!」
「ここにお前の居場所は無い!」
大人たちの怒鳴り声が飛び交った。村外れの山腹辺りで、俺はただじっと立ちつくす。
俺の名前は「化け物」。もちろん、本当の名ではない。ただ、それしか俺を指す言葉が無いだけ。
俺は、幼い頃から植物を生み出す能力があった。
その影響か、右眼が赤かった。母であった人はそれを褒めてくれたが、村の人々はそうではなかった。
「お前がそこに居るだけで、村が不吉に染まる」
「あいつの咲かせる花には毒がある」
「誰も近づくな。関われば、あいつの母と同じ目に合う」
同じ目。──俺の母は村長によって殺されてしまった。俺を産んでしまったことを罪として。
「あいつの花に触ってしまうと、同じ呪いにかかってしまう」
それはただの言い伝え。
何の根拠もない、ただの迷信。
俺の咲かせる花は、村に生えているものとなんら変わりはない。
「……もうここには、居られないな」
山腹にあった小さな小屋が炎上しているのを見ながら、そう静かに呟いた。
◇
足が、もう動かない。
どれほど歩いただろうか。夜も昼も関係なく、ただひたすら前へと歩いて来た。
食べ物は尽きた。近くには飲む水も無い。
指先もかじかんで、もう声を出す元気も無い。
──それでも、振り返ることはしなかった。戻る場所など、もう何処にも無いのだから。
ぼんやりと霞む視界の向こう。次の町から少し離れた所に、それはあった。
静寂に包まれている、小綺麗な神社。
村を出てから、何処にも人の気配は無かった。
だが、ここだけは誰か──いや、何かの存在を感じさせる。
勝手に入るのは良くない。また、追い出されるかもしれない。でも、行くしか選択肢はなかった。
──雪が降ってきたのだ。それも、容赦なく俺の身体を冷やし、凍えさせる程に。
俺は重たい足を引き摺らせながら、ゆっくりと一段、また一段と石段を登っていった。