表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/8

序章:祈りの花は枯れぬとも

 

 ──この町の人々は狂っている。1人の少女を()()()と称し、それに縋って生きているのだから。


 ◇


「###様、今日はどうぞよろしくお願い致します」

「……」


 嗚呼、今年も始まった。年に一度の儀式の日が。


 久しぶりに外に出た。一年ぶりに。

 私は白く染め上げられた衣を纏い、人々の前で舞を踊る。皆、一心にこちらを見つめていた。


「###様、どうかご加護を……」

「この町に、お恵みを」

「今年も何事もなく過ごせますように──」


 頭を垂れ、祈るように手を合わせる人々。その眼差しには崇拝と……僅かな狂気が滲んでいた。


 私は微笑む。うわべだけの、慈愛に満ちた笑みを。そしていつものように、──広場に()()()()()()

 皆、感嘆の声をもらし、地面に頭をつける。


 ──今年もまた、繰り返すのであろう。


 私は人々の望む「()()()()」であり続けなければいけない。


 逃げることは許されない。

 拒むことも許されない。


 だから私は、昨年と同じように口を開く。


「……今年も、皆に神の祝福を──」


 その言葉が、まるで呪いのように口からこぼれ落ちた。


 ◇


 儀式が終わり、私は巫女たちに付き添われながら神社へと戻った。


 ──扉が、閉ざされる。


 そして私はまた、1人になった。

 神社の敷地に寄りつくのは、毎日ご飯を運んでくれる巫女。それと……「生き神様」が何処かへ逃げてしまわないよう、見張りにくる大人たち。


 日々の生活に変化はない。


 決められた時間に食事が運ばれて、

 決められた時間に1人で食べる。


 私という存在はそこに居ない。居るのは、「生き神様」としての私だけだ。


 夜、部屋に居る時間だけが、私に与えられた自由だった。


 この部屋は何不自由なく暮らせる程度の物は揃っている。

 1人部屋にしては少し大きめの、七畳ある畳の部屋。


 床に、花を咲かせた。畳が見えなくなるほど大量に。

 私を癒してくれるのはこの花たちだけ。皮肉なものだ。この花のせいで「生き神」となってしまっているのに。


 一輪の花をそっと指先でなぞった。すると、柔らかな花弁はたちまち黒ずみ、枯れ果てる。

 そして、虚空に消えた。


 私は知っている。咲かせるだけでなく、──()()()()()()()()()のだと。

 その様子を見て、いつも思う。


 ──私もいずれ、あの花のように消えることができたら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ