王女殿下は味方じゃない
記念すべき卒業パーティー
今日は1つ上の先輩方の学園卒業を祝う全学年合同のパーティーの日だ。
先輩後輩 学年全ての人が着飾り、様々な会話が行き交うこの場に相応しくない怒りを含む大声が響く。
「イザベラ・ベルロック!お前の悪事も今日限りだ!」
傍らの茶髪の可愛らしい令嬢の手を取り声を発したのはフェルベルト・ディルザー公爵子息。
「貴様がルーアにした悪事の数々!もう我慢ならない!この場を借り貴様を裁く!」
隣の茶髪の女子生徒はルーア・ガルロ。
この場を借りる ということは主催者に許可を得てこの行為に及んでいるのだろう。
「…フェルベルト様。わたくしが行った悪事 とはどういうことでしょうか?」
ディルザー公爵子息の婚約者 イザベラ・ベルロック嬢はとても冷静な様子だ。
「とぼけるな!ルーアの愛らしさ、そして社交性の高さ!僕がルーアと過ごすことが多いことに嫉妬し授業変更を教えない!ルーアにのみものを貸さない!ルーアの私物を隠し破壊!しまいには…」
「王女殿下に会いにいくルーアを階段から突き落とそうとしたそうでは無いか!」
階段から!それは落ちていたら大怪我だ。
見る限りひどい怪我はしていないようだし突き落とそうとした のであれば突き落とされてはいないよう。
「…申し訳ないのですがわたくしには全く身に覚えが…」
やはり顔色を変えないイザベラ・ベルロック嬢
「とぼけるものもいい加減にしろ!こちらには王女殿下が味方についている!観念してルーアに謝れ!」
「…っ!?」
すると今まで顔色を変えなかった令嬢は目に見えて驚いた表情をし青ざめていた。
「ふん…その様子を見る限りやはりこれまでの悪事はお前が犯人か」
「そんな…イザベラさま…」
「ルーア、大丈夫だ。僕がなんとしてでも君を守る!イザベラ、お前との婚約は破棄させてもらう!」
今にも泣き出しそうなルーア・ガルロとそれを宥めるフェルベルト・ディルザー公爵子息。
さて、
「これは なんの騒ぎですか」
私の名前が出た以上は対処しにでなければならぬだろう。
「レイネシア王女殿下…!」
「レイネシア様だ…」
「レイネシア様の本日の装いとても素敵ですわね…」
周りの声に微笑みを返しながら騒ぎの中心へ向かう。
「さて、先程私のことを話していたかと思うのですが…ディルザー公爵子息 これはなんの騒ぎで?」
騒動の発端のフェルベルトに目をやると嬉々として話し出した。
「王女殿下!良いところに!王女殿下も知っての通りイザベラは我がルーアにとても酷い行いをし…その罪を認めないのです!」
「酷い行い…イザベラ・ベルロック公爵令嬢が…」
‘王女殿下も知っての通り’
「王女殿下が親しくしているルーアに悪事を働き怪我をさせようとまで!」
「あぁ、結構。実は少し前から話を聞いていました。あらかた、貴方方がここで話していたことは把握しております」
私が聞きたいのはそれでは無い。
私がなんの騒ぎだと、説明しろと伝えた理由はそれでは無い。
「さすが王女殿下!話を聞かれていたのですね!王女殿下!このイサベラに王女殿下から罰を…」
フェルベルトの話を手をかざし止めさせる。
話している途中に止めるのは礼儀に欠けるがこれ以上無駄な話を聞くつもりは無い。
「私が聞きたいのは。'何故この場でこのような騒ぎを起こしたのか' です」
「…はっ…??」
「ディルザー子息。このパーティーは卒業される方々との別れを惜しみ門出を祝う、学園の生徒にはとても大切な場です。貴方はこの場をどのような場だと思っているのですか」
このように返されると思ってもいなかったのだろう。
2人してポカーンと突っ立っている。
目を潤ませていたはずのルーア・ガルロ令嬢もだ。
「貴方が主催される場であれば何も言いませんし、この場で行うことが必要な事であれば私も許容いたしますが、これはこの場で行うべきことですか?」
この場は学園の卒業式パーティー
たかが公爵子息ごときが乱していい場ではない。
「この場でしないといけないんです!王女殿下!その女はルーアを虐めたのです!王女殿下はルーアの親しい友人でしょう!」
「レイネシアさま…フェルさまが話していることはホントのことなんです…」
フェルベルト・ディルザー子息の腕に巻き付きながらうるうるとこちらへ瞳を向けてくるルーア嬢。
「…では、貴方たちの言うその悪事とやらが行われた日時、場所、証拠、証人をだしなさい。私が責任をもって罰するべき者を罰します」
落ち着いた声音で命令するとイザベラ・ベルロック公爵令嬢がかすかに動いた。
先程からずっと黙って目を下にやっており顔色が分からない。
「…」
______________
「以上でございます!」
声たかだかに詳細を語り終えるとフェルベルト・ディルザー公爵子息はルーア嬢の腰を抱き寄せた。
「フェルさま…!」
「大丈夫だ!王女殿下もこちらの味方だし君に手出しはできない!」
仮にも婚約者の前でいちゃつきだす2人を横目に近衛を呼び命令を出す
「近衛兵。身柄の拘束を」
「「「「はっ」」」」
王女殿下の命令により近衛4名が取り押さえにかかる。
「ふん…」
それをしてやったりという顔で見るフェルベルト・ディルザー公爵子息。
しかし近衛が向かったのは
「な、何をする!」
「きゃぁ!いたい!はなして!」
近衛が取り押さえたのはフェルベルト・ディルザー公爵子息とルーア・ガルロ嬢だった。
「離せ!王女殿下!これは一体!」
ギャイギャイと騒ぎ立てる2人を無視し王女は話し出す。
「貴方達の言う悪事を行った日時ですが___________
3日前 彼女は私と出かけておりほぼ丸1日私と行動していました。
6日前昼休み 生徒会の用事で生徒会と行動していました。
7日前と8日前 隣国との次年度の交換留学の話のため港町ファンシャンにて過ごしているため学校は休んでいます。
11日前 王城に呼ばれ陛下との謁見をしていました。」
現王族の中でもレイネシアは記憶力がずば抜けて良い
「また、貴方達の提示した証拠は状況証拠がほとんどです。証人も赤の他人の第三者ではなく、貴方達のご友人のみ」
そんなものでは証拠にも証人にならない。
「これではイザベラ嬢は濡れ衣だとしか言えません」
「しっしかし!」
「貴方は私に嘘をつき騙そうとしたのですか?王族である私を」
「ち、違います!嘘をついているのはイザベラで!」
「イザベラ嬢のアリバイにはこの国の王女である私と陛下、そして生徒会の面々、学園の先生方、隣国の使者…様々な立場のものがいます。」
「貴方達はこれらの人々が______私や陛下が嘘をついているとでも仰るのですか」
「いや、その、」
「流石の私も許容出来ません。彼等を軟禁します。行きなさい」
「「「「はっ」」」」
綺麗に敬礼した近衛が連れ出そうと拘束された2人の腕を引っ張る。
抵抗しようが所詮は一人間。
訓練を積んだ兵に抗えるわけもない。
「まってください!レイネシアさま…!わたしとお友達ですよね…?わたしとフェルさまを信じてください…!」
ルーア嬢は兵を振りほどくのを諦めレイネシアに訴える。
「わたしたちはウソなんてついてないです、!イザベラさまにひどいことされ「黙りなさい。」
ルーアの訴えを遮る。
「誰が発言を許可しましたか」
「「…え?」」
2人揃って見事な間抜けヅラである。
「この場で、最高権威を持っているこの国の第1王女である私の前で、誰が発言していいと言いましたか」
上位のものに下位のものから話しかけるのはNGだ。
明らかな身分差がある格上のものの前では____
王族の前では 許可されていなければその姿を見る権利も発言する権利も無い。
「でも、フェルさまは」
「私はフェルベルト・ディルザー公爵子息にこの状況の説明を求め発言を許可していますが、それ以外のものには許可していません」
「常識のない貴女方と違いイザベラ嬢は顔をあげず発言もしていない。これは私が許可を出していないからです」
「さて、発言も顔を見ることも許可をしていない貴方達は、この私の前で虚偽の申し立てをし、私が主催したこの卒業パーティーに泥を塗った」
「ヒュッ」
公爵子息はようやく事態の深刻さに気づいたようで青ざめ震え出す。
卒業パーティーは代々王家のものが主催を務める。
この国の未来を背負って立つ若者に国からの祝いの場。
レイネシア王女の顔に泥を塗り、そして国からの祝いの席をめちゃくちゃにし、第1王女に対する数々の無礼な行い。
「無礼者共。第一継承権所持者であるこの私をなんと心得るか!!!!!!」
滅多に怒らない第1王女レイネシアの怒りにこの場にいる全てのものが青ざめ膝をつき礼を取る。
これ以上彼女の怒りに触れてはいけない。
第一継承権を持つ彼女はこの国の次期女王。
彼女に対する無礼は本家分家ともに一族罪に問われてしまう。
「近衛兵!連れて行きなさい!!」
近衛兵が慌てて取り押さえ直し連れていく。
ディルザー子息は抵抗する様子はないようで項垂れながら大人しく連れていかれた。
ルーア嬢は
「…どうして?なぜ?わたしはヒロインなのに?」
よく分からないことを呟いているが抵抗は見られず大人しく腕を引かれている。
「なんで、シナリオ通りに進めたのに…?なんで、レイネシアはヒロインの親友枠で…イザベラはあくじょ…」
ブツブツと薬でもやったのかというレベルで怪しい様子だ。
「あぁ、先程貴方が言った言葉。私とその者が親しいという。」
ふと思い出す。
「え…?」
フェルベルト・ディルザー公爵子息の言葉。
「私は彼女と親しくした覚えはありませんよ。'王女'として1生徒に礼節を弁えた対応を取ったことは幾度かありますが。茶会への誘いもイザベラ嬢から彼女が孤立しているから誘ってやってくれないかと話があったからです。 その者に我が名を呼ぶ許しも与えていません」
「ぁ……」
「二度と我が名を呼ばないように。不快です。
…………行きなさい」
2人が会場をでてからは気まずい空気が流れる。
穏やかな性格の王女を怒らせてしまった、その事実が会場の者たちを凍りつかせている。
「皆様、驚かしてしまい申し訳なく思っています」
その顔に怒りは無く、穏やかな声音で困ったように眉を寄せるその姿に皆がほっとする。
「此度の件、しかと陛下に報告しそれ相応の対応をいたします。このパーティーに参加された方々には後日王家から償いの品をお送り致します。
さて、遅ればせながら卒業する方々に祝辞を______」
「皆様、ご卒業おめでとうございます。貴方がたのこれからの人生に創造神の祝福があらんことを!」
____________________________
パーティーは後半にさしかかり今はダンスの時間だ。
皆がダンスに勤しむ中バルコニーには王女とイザベラ・ベルロック公爵令嬢が居た。
「イザベラ、大丈夫ですか?」
「えぇ、シア様 自分でも思っていたより、傷ついていませんの」
穏やかな笑みを浮かべるイザベラは先程までの鉄仮面が嘘のようだ。
「イザベラ、彼との婚約は白紙にするべきです。望むのなら王家から命令という形をとることも可能ですよ」
イザベラ側からの破棄だと一方的に契約を破棄するのだからそれ相応の罰を受けなければならない。
白紙だと向こうにダメージを与えられない。
ならば王家からディルザー公爵家に婚約を破棄するよう命令をだしそれ相応の罰を受けさせることも可能だ。
「シア様、大丈夫ですわ。今回のことは両家でしっかり話し合い私が解決しますわ」
「流石ね…貴方のそういう所 私は好いていますよ」
責任感があり、関係の無い者は巻き込まない。
出来うる限り自身の力で解決する。
そんな彼女だからこそレイネシアの親友であれるのだ。
「ふふっシア様の友人に相応しいでしょう?」
イザベラからの心からの笑顔に
「えぇ。ベラ、会場に戻りましょうか」
レイネシアも心からの笑顔をかえす
王族ゆえのしがらみも多く心を晒す事など出来ない
されども彼女の前では素を見せられる
彼女が解決すると言うのだから手出しは無用。
だけど
私は少し、怒っているのよ。
大切な親友の心を踏みにじり大勢の前で罵倒した2人を。
友人を傷つけられ黙っていられる人なんて居るのかしら?
私はイザベラの味方であって傷つけた彼らは敵なのだから。
味方は大切に
私は彼らの味方じゃないのだから
少しぐらい、仕返ししても構わないでしょう?______