表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/56

八万 冒険の始まり 八万五千 勇者パーティ

 また二日かけて、バルク村から王都に戻って来た。

 マーチェをエルシオン商会の本部に置いて、ヴァルとナートは新たに与えられた任務をこなすため、王都の冒険者ギルドに赴いた。


「ナートはまだ冒険者登録をしていないんだよな?」

「はい。ずっと姉さんの護衛をしてましたから」

「じゃ、新規登録だな」


 そんな話をしているうちに、ギルドに着いた。

 勇者パーティを追い出された者として、少し気まずいところではあるが、覚悟を決めて建物に入った。


 集う荒くれ者たち。昼間から酒を囲み、如何にも冒険者ですというような顔をしている。

 魔物が活発化しているせいか、心なしか掲示板に張られている依頼が多く。

 受付では、冒険者のやる気を引き出すためか、綺麗なお姉さんが待っている。


「うん、いつも通りだな」

「これがいつも通りなのですか……」

「ほら、新規登録はあっちだ」


 呆れるナートを連れて、新規登録用の窓口に向かう。


「お願いします」

「はい。お名前は――」


 他愛の無い質問が続く。

 まあ〈悪性判定〉に引っかかってない時点で、通るのは確実だ。

 面倒なのは――


「では、認定試験としてスライムを三体倒してきて下さい」


 認定試験。

 最低限の強さを持っていることを証明するもの。影から見守りも付くし、とても安全で必要なものだが、ナートに取っては不要でしかない。

 そのため、


「そういえば、報告しておきたいことがありまして」


 ナートはバッグに手を突っ込み……巨大蜘蛛の牙を取り出した。


「バルク村の巨大蜘蛛、討伐してきました」

「巨大蜘蛛……このサイズですか。お一人で?」

「いえ、彼と二人です」


 嘘をつく訳にもいかないので、近くにいたヴァルも合流する。

 しかし、牙のサイズから、蜘蛛がBランク上位相当なのが分かるだろう。それを二人でとなると、待遇も変わって来る。


「これで、何とかなりません?」

「……特例ですよ」


 身のこなしから、ただ者では無いと見破っていたこともあるのだろう。なんとか通してくれた。

 ついでに、パーティ登録もしておく。


「パーティ名は……宣伝も兼ねてるし、エルシオンでいいか」

「自分のファミリーネームが、と考えると気恥ずかしいのですが」

「それはマーチェに言え」

「こうして、後に伝説として語り継がれるパーティ、エルシオンが発足した――」

「それ全てのパーティに言ってますよね?」


 受付さん恒例の語り口調を聞き、登録は終わった。



「そういえばヴァルさん、ヒリックさんが、あなたを探してましたよ」

「……まだ絞り足りないのか。できるだけ鉢合わせないようにしないと」





「不味いー!」

「仕方ないでしょう。出先でまともなご飯が食べられると思わないで下さい」


 ウィズマが文句に声を上げ、セインが自分にも言い聞かせるようにそれを諫める。


 勇者パーティの面々は、モンスター討伐の道中、適当に焼いただけの昼飯を食べていた。

 王都では高級品ばかり食べてるだけあって、よりその差が際立ってしまう。

 この前までは、ヴァルが作っていたので気にならない程度にはなっていたが、いなくなって初めてありがたみに気付いた。


「誰か料理の一つくらいできないの!?」

「そんな人中々いないよ。それに、これも結構美味しいじゃん」


 美味しそうにただの丸焼きを食べるのは、新入りの【聖騎士(パラディン)】ラティだ。

 賢者と聖女は後衛で、勇者のステータスも割とアタッカーに寄っているので、耐久が高い騎士を迎え入れたのだ。

 彼女自身は騎士系の中で最強と言われるだけあって、とても優秀なハズなのだが――正直言って、体感的にはヴァルと何ら変わらない。

 足りない力を金で補う劣等者と見下していたのだが、仕事自体は自腹を切ってきっちりこなしていたのだ。


 そして実力がほぼ同じなら、料理ができて、分け前を減らすこともできる、ヴァルの方が便利だった。

 一応ラティにも報酬を減らそうと交渉してみたが――


「嫌だ!」

「でも、あなたの活躍量はとても私たちには及ばな――」

「嫌だ!」

「……」

「嫌だ!」


 どうも頑固なところがあるらしく、まともに話も聞かなかった。

 しかも、ラティは国教の教皇の娘らしく、無理に分け前を減らしたり、パーティから追い出したりするのも難しい。


 何より、ヴァルが居なくなってから、全体的な動きが悪くなっている気がするのだ。


「……これなら、ヴァルの方が良かったな」


 ヒリックは誰に言うでもなく、呟いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ