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第59話 神託と追う者

 カワサキの背に揺られながら、巳の都市を離れた。今は東の辺境にあると言う森を目指して旅をしていた。巳を拠点としてからしばらく滞在はしていたが、宿の主のガントにはまた来いよ! と快く送り出された。まあクンラートは若干うざ絡みされていたが、他三名は目を合わせたら巻き込まれる、と目線をあっちゃこっちゃに逸らし、クンラートに宿を離れた後に、助けろよ! と小言を言われた。


 ある程度人の往来があるだろう整備された道を進んでいたが、次の街へはまだ着かぬだろうとのことで暇つぶしにカサンドリスの話でも聞こうかと名を呼ぶ。


「ねえカサンドリス様、エーヴァ様との出会いは聞いては居なかったけれども、どれほど昔に出会いましたの?」

『はーん? エーヴァねえ……いつだったか。なあエーヴァ』

『俺がイリアドネスと話していた際にお前が不届者が居るとか何処ぞの神に言われて飛び込んできたのさ。覚えていないのか? 痴呆か?』

『相変わらず失礼極まりない奴だ。お前がイリアドネス様に無礼な態度だと十二柱様方が不審を抱いていたのだぞ。神々の話ならば信じて何が悪いと言うのか』

「まあ、その不審はカサンドリス様も今は抱いておいでなのだろう? 俺たちは先んじてエーヴァ様から伺ってはいたが」

『……別に、全てエーヴァの話を信じている訳ではない。そも! エーヴァは私よりも遅く現界した精霊だ! もっと敬え!』

『ガキの見た目の上、ふざけた足をしている癖によく言う』

『なんだと!』

「まーまー、およしくださいよお二方。俺たちにとっちゃ敬う対象ですんで、カサンドリス様も抑えて抑えて」

『むう〜……』


 納得が行っていないような反応ではあったが喚くのはやめたらしいカサンドリスは、姿を現すとマレイケの元で腕を組みながらマレイケの周りをくるくるうろうろと回っている。


『マレイケ! お前はどう思う! 私の方があんな俺女精霊よりも上位だと思わぬか!』

『やー、失礼な奴なのはお前もだ。同じ穴のムジナだな』

「……私としては、どちらも敬う存在であることに違いはありませんが」

『こう、好みとしてだ!』

「ではエーヴァ様です」

『なっ!』

『はは! 悪かったなカサンドリス。俺の方が付き合いが長いんだ』


 エーヴァが私の後ろに現れ馬に横乗りしながらカサンドリスを煽っている。からからと笑っているとカサンドリスが水弾を作り放ってきた。ばしゃ、と私の顔面に当たり水浸しになった。


「あら、涼しくなりましたわね」

『おい、ノーコン人魚。もう少し頑張って俺を狙えよ。俺の可愛いユウキが濡れただろう』

『私のマレイケの方が可愛い!』

「カサンドリス様! マレイケはわたくしのマレイケよ!」

「混沌としてきたが止めなくていいのか。クンラート」

「放っておけよ。こう日差しも温けりゃ風邪なんざ引かねえ」


 渦中のマレイケは先を進んでいるので顔は見えなかったが、少しばかり俯いて鬱陶しそうにしている。


 春を迎えるまで、マレイケはカサンドリスと共に居ることが多かったが、カサンドリスはちょくちょく出てきてはマレイケに絡んでいた。最初は真面目に対応していたが、今現在はかなり投げやりな対応をするようになった。カサンドリスは気にする様子はなかったが、鈍いのかはたまた大層マレイケを気に入ったのか。


 ぎゃーぎゃーとうるさい精霊たちの声を聞き流しながら旅路は進み、水場の近くに野営地を決める。


 陽が沈むまでまだ時間はあったが、別に急ぐ旅でもない。薪木をクンラートが集めてくると言い森へと向かっていった。私はカワサキから荷を下ろし、鞍やハミを外して水を飲ませる。


 マレイケとディーデリックは荷から調理道具や足の速い食材や保存食など取り出して夕食の準備を始めていた。


 水を飲ませた後は近くに草場を見つけカワサキを連れてゆき食べさせながら、近くの枝に手綱を括る。戻って何かすることでもあるかと聞き水汲みを頼まれて木桶を手に水を汲みに向かった。


 視界の端に何か煌めくものを見てそちらに意識を向けたが何も居ない。


『気にしなさんな。この森に住まう妖精だ。悪戯されないように気をつけなさい』

「あら、悪戯だなんて怖いですわね」

『こちらから仕掛けなきゃ大人しいもんだよ。あー、クンラート辺りはもしや引っかかってるかもしれんがね』

「ふふ、クンラート、ちゃんと戻ってくるかしらね」

『まあ、腐っても獣人だ。自慢の鼻で戻ってくるさね』


 水を汲むついでに水を手酌で飲み、顔も洗う。拭くものを忘れたな。と腕で顔を拭う。どうせ水をぶっかけられたし今更どこが濡れようがどうでもよかった。


 水の入った木桶を持って何度か往復し、後はクンラートを待つばかりだった。火が無ければ調理は出来やしないのだから。最悪クンラートが妖精に悪戯されていたのならば、保存食で腹を膨らませてから渋々探しに向かうか。と三人で話をしていた。


 クンラートはしばらくすれば戻ってきたので妖精の悪戯には引っ掛からなかったらしい。と言うか元旅人なのだし昔から妖精と関わるべきではないのは知っていただろう。ちょっと残念に思うのだった。


「クンラートが妖精と踊っていたのなら、末代までの語り草にでもしたのに」

「ディーデお前どう言う意味だそれ」

「期待に応えられない男ですね」

「なんで薪木拾ってきただけなのに貶されなくちゃならんのだ」


 その後調理をし、食事をしたのちに片付けをしていると再び妖精が視界の隅に映る。姿を捉えている訳ではなかったが、光の残滓が残って消えてゆく。


『ここの妖精共は構いたがりのようだな』

「何か伝えたいことでもあったりしてなあ」

『特に危険を及ぼしそうなモンスターの気配は無い。精霊の気配に釣られて来ているだけだろう』


 不寝番を決めて私が一番手となったが、その最中であっても度々妖精の残滓が見てとれた。なんだか蛍を見ている気分になってくる。前世を思い出して懐かしく思っていると、不寝番の相手をし姿を見せてくれていたエーヴァが立ち上がる。


「いかがなさいましたの」

『……いんや。なんでも』


 そう呟いてエーヴァは座り込んだ。火に照らされた顔はどこか難しそうな顔をしている。


『……今日は、夢を見るだろう』

「え?」

『神託の夢だ。俺は今回は行かずとも大丈夫だろうが、用心せよ』


 そう告げられ、神が近くにでも来ていたりするのだろうか。焚き火に薪を投げ込みながら、不寝番の交代を待ち、クンラートと交代した。エーヴァはクンラートの相手にもなるらしくそのまま座り込み火を見つめていた。就寝の挨拶をして毛布に包まり目を閉じた。


 霧の匂いがした。


 …………。


 久方ぶりに夢を見た気がする。霧の匂いはこちらに警戒心を与えるようになってきた。


『やあ、久方ぶり』

「ええ、どうも」


 寝転がっている私を覗き込んでいる猫に、そのまま挨拶を返した。上体を起こすと猫は腕を舐めながら毛並みの手入れをしている。


『神託のお時間だよ。猪で水害が起こるだろう。出来るだけ早く伝えてやりなさい』

「はい」

『それとだけど……君を追う者が居るようだよ。気をつけなさいな』

「わたくしを追う者……?」

『君の見知った者だろうが、……応じれば、どうなるだろうね』


 ……これは脅し、なのだろうか。見知った者……簡単に考えれば神殿からの使いだろうが、何か含みを感じられた。神殿には足は掴まれている可能性は低いとクンラートは言っていたが、どこかから情報が漏れていてもおかしくはない。神殿の者であれば、十二柱にとっては特に問題ではないのではないか? そう考えると、もしやガルシア王国から誰かが? と言う可能性もあり得るか。ガルシアに戻って十二柱がどうなるかは分からないが、特に問題とも思わぬ気がする。


 神殿かガルシアからか。それとも神殿が放った刺客か。どれにしろ気をつけた方が良さそうだ。


 神殿であれば首都に戻されるだけだろう。ガルシアであっても帰国。問題となるとすれば刺客。私のみを捕まえろと命じられていれば他の三名が危険に晒されるだろう。


 気をつけるべきか。


『…………』


 猫はじい、と私を見つめていたが、じゃあね。とだけ言うと姿を霧の中へと消した。睡魔が襲ってきた。再び横になって目を閉じる。


 …………。


 目を開ければ白んだ空が飛び込んできた。横には寝入るマレイケ。私が最初に起きたらしく、不寝番のクンラートが焚き火を前にエーヴァと会話をしているのが確認出来た。


 体を起こして焚き火の前に向かえば、早いな。とクンラートが意外そうに告げた。いつも起きるのは一番遅いのもあって意外だったのだろう。


 クンラートに夢を見たと告げると顔つきが変わる。猪で水害が起きる。と言うことと共に私を追う者が居るらしいと告げると、しばし無言になり、全員起きてから話をしようと立ち上がった。


「小便。火ぃ見てろ」


 クンラートが森に消えて、エーヴァと向かい合ってお互い無言で火を見つめていた。

お読みいただきありがとうございます。

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