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第58話 赤銅色の彼は今

「次の依頼で面白そうなの何かしら〜」

「お前の頭には楽しい面白いしかねえのかよ」


 依頼板を前に四人で何かいいのはないかと話し合っていた。数ヶ月経ち春を迎えたヒティリア国。


 駆け出しらしい薬草集めやモンスター討伐に素材集め依頼は何件かこなし要領は分かってきていた。ギルド内でも多少顔は知られるようになった。


 情報収集はクンラートに任せているが、花街にディーデリックを引きずっていこうとしていた時は流石に止めに入った。神殿で聞いた女好きと言うのは正しい話であったようだ。


 クンラートが言うには、私たちの存在を神殿は未だ掴んではいないそうだ。この巳の都市にも神殿は建立されているが、そちらにも話は行ってはいなさそうとのことだ。こちらの存在を知らないのならば、巳の都市で馬鹿をやったところで女巫の存在が明るみになる可能性は薄いだろう。ならば好き勝手やらせてもらう。


 そも、首都の神殿内で話が口止めされてるだろう状況だ。下手に馬鹿を打たない限り大丈夫だろう。


 依頼板に貼られたひとつの依頼をディーデリックが指差した。


「ダンジョンの種の回収依頼があるが、この依頼は紙の色が違うのだな」


 ディーデリックの言う通り、他の一般の依頼はベージュか白かそんな色味だが、その依頼だけ青色に染色されている。初めて見る色紙だった。ああ、とクンラートが口を開く。


「その色の依頼は冒険者パーティはひと組限定じゃあねえんだわ。だだっ広いダンジョンだと複数パーティが投入される。種を先に見つけたパーティに報酬が入んのさ」

「それだと得るものは少なくはないか? 他のパーティは」

「ダンジョン内は希少モンスターだったり希少素材だったりが多いんだよ。だから目当てのモンスター討伐するだけして最奥の種を目指さないパーティも居る。まあ、討伐依頼ってよりは、その色の紙は侵入許可みたいなものだな」


 そうなのか。とディーデリックは納得したように頷く。規模としては三年ほど前に植えられた種だそうで最近見つかったとか、学園で侵入したダンジョンよりも広いダンジョンなのだろう。


「おいユウキ、今回はそれは受けねえからな。ダンジョンなんざ入るにはまだ俺たちは経験不足だからな」

「わたくし入ったことはあるわよ?」

「数ヶ月くらいの規模だって前聞いたが、その程度のダンジョンなんざ初心者でも入るのは可能だよ。その規模だったらまだお前ら連れてお守りくらい出来るがよ。今はまだ駄目だ」

「つまらないの。ねえマレイケ」

「……私に同意を求めないでください」


 私から目を逸らしたマレイケに、ぷくーと頬を膨らませているとディーデリックに指を突かれ、ぶぼ、と息が口から漏れる。


「クンラートは実力も見る目も確かだろう。今回は従うべきだ」

「ええ〜? 一階! 一階だけでもいいから!」

「一階でも大分規模でけえぞ。最低でも四日は彷徨くだろうよ」

「じゃあじゃあ、何か他の素材収集依頼と合わせて、その素材をダンジョンに取りに行きましょうよ」

「はあ〜? そんな都合良い依頼あったらさっさと取られてるぜ」

「今日出たこちらならどうですか?」


 マレイケが指差した依頼を見る。素材の収集依頼。依頼の品はドラゴンの涙。とのことだ。随分と希少な物に思えたが、ドラゴンがダンジョンの中に存在するものなのだろうか? それに一重にドラゴンと言っても、この世界、ドラゴンは種類が多いと書物の上でだが知っている。アースドラゴンやフレイムドラゴンなど、まあゲームにでも出てきそうなベタなものだ。


 いやまあ、そもそもこの世界はゲームだったのだが。前世に置いては。


「ドラゴンの涙なんざ、山奥だとか森の奥深い場所に行かなきゃ取れねえよ。知能が高い上に人間嫌いが多いんだ」

「そうなの? ……なんだか、出会ったことがあるみたいな言い方ね?」

「さあ、どうだったかね……」


 含みのある言葉に、過去に恐らく何かしらあったのだろう。父親が冒険者だったのだ。幼い日に出会っていても不思議ではない。


「でもこの依頼があるのならば、この巳にもドラゴンは存在するのね?」

「居るっちゃ居るがな。辺鄙な場所にしか居ないだろう。長旅になるぜ?」

「それでもいいのでは? 私共、そもそもここに留まる理由がある訳でもないでしょう。精霊の方々の目的を達成するためにもそろそろ動くべきだと思います。それに、最近の神殿の連中はきな臭い気がします」

「俺も同感だと思っていた。クンラート、ここでの立場固めは既に済んでいるはずだ。ドラゴンとて神のことを知っていてもおかしくはないのではないか?」

「なんだよ。ガキ共やけにこの依頼押すじゃねえかよ。……まあ金払いは良さそうだが、……久々に会いに行くのも、いいか」


 クンラートがドラゴンの涙の依頼紙を剥ぎ取る。受付へと向かったクンラートを見送りつつ三人で話をする。


「知古のドラゴンでも居そうな口ぶりでしたね」

「不思議には思わないな。彼の父は冒険者だったのだから」

「ま! マレイケとディーデが乗ってくれましたし、巳をしばらく離れるのも多くを観れるでしょう。精霊のお二人だって問題を抱えているのですし、そちらを優先しても良いでしょう。それに関わることで、私の未来も変わる可能性はありますもの」

「……そうですね」


 マレイケは少し私から目線を逸らしクンラートに目を向ける。受付で対応しているクンラートはスムーズに話を通しているようだった。


「……巳には任期を終えた女巫はいたのだろうか」

「過去、巳に身を寄せた方はいらっしゃるようですが、今ご存命かは定かではありません」


 ディーデリックには女巫の件は話していた。彼自信、思うところはあるのだろう。マレイケの言葉に、そうか。と呟く。


「今生きていなくとも、知人などはいる可能性はあるだろう。どんな状況に陥っていたか。それを旅をしているうちに知ることは可能ではないだろうか。……何か、知っている人に会えるかもしれない。ここに留まり続けるよりは実りがあるはずだ」

「そうですわね。課題は多いですが、ひとつずつ潰してゆきましょう」


 クンラートが戻ってくるのを確認し、一旦旅の準備を始めることとなる。春になり、旅路も凍えることもないだろう。防寒具など無いのならば冬を越した今は以前よりも身軽に動けるはずだ。


 ギルドを出て準備の買い出しへと街に繰り出す。街に人々が溢れ冬場より活気ある街になっている。外套は少々暑く感じられるようにもなったが、温度を調節する魔法具が欲しいと申し出た。あまり顔を見せることが出来ない立場故にその申し出はすぐに通る。


 魔法具の専門店へと向かうこととなり、賑わう大通りを外れ少しばかり寂れた通りに入った。店を見つけ入店するとドアベルが鳴る。客の姿も店主の姿も見えなかったが、気にせずショーケースに並んだ魔法具を見て回る。


「これじゃないか? クンラート」

「ん? ああ、そうだなこれだ。店主呼ぶか」


 カウンターに置かれたハンドベルをクンラートが鳴らせば、しばらくして老年の男性が姿を現した。


「何かお決まりかい」

「温度調節の魔法具を」

「はいはい」


 カウンターを移動してショーケースから目を付けていた魔法具を店主が取り出した。金払いをマレイケに任せて店内を彷徨いていると、店主が、おや、と何かに気が付いたようだ。


「お嬢さんお二人、精霊をお連れかい? 珍しいねえ」

「分かるのか爺さん」

「一応目は肥えてるもんでね。昔は鑑定士もしとったから」

「……他言無用に頼むぜ? 爺さん」

「客の秘密ばらすような商売はしちゃあいないよ。認識阻害までつけているってことは、訳ありだろう? それにその坊ちゃん妖精避けの体質だろう。それを抑える魔法具つけてまで妖精抱えているのならば、それなりに高位の妖精かと思うが」

「なんともね」


 エーヴァの剣は私の腰に、カサンドリスの腕輪はマレイケの手首に。私は認識阻害、ディーデリックは妖精避けを抑える魔法具。確かに観察眼があるのならば、このパーティ、訳ありすぎる気がする。


「はいお代丁度いただくよ。品物はこれだ。そこの外套のお嬢さんにつけるんだろう。やっぱりどうにも訳ありだ」

「…………」


 マレイケが無言で金貨一枚を店主に差し出すと、店主は笑いながら、毎度あり、と言う。


「これでも口は堅い方だ。その上金を貰ったんなら私の心の内に留めておくよ。何か用向きがあったらいつでも来な」


 口止め料としては痛手ではあったが、店主を信用するしか無さそうだ。退店してからマレイケがため息を吐く。


「鑑定士と言うのは少々苦手な部類ですね。こちらの秘密を見抜くだけではなく、脅しにすら使いますから」

「ま、厄介ではあるな。今度からそう言った手合を相手をするのなら、俺とディーデだけで対応した方が良さそうだな」


 これを付けろと赤銅色の魔法具を見て、エルマの瞳を思い出した。彼は今どうしているのか。考えるだけ無駄ではあったが、無性に会いたい時もあった。少々寂しさは覚えたが、私は彼に会うことはもう叶わない願いなのかもしれない。目を少し伏せてから魔法具を受け取り外套の内側に取り付ける。一気に体感温度が過ごしやすい気温に感じられた。


「じゃ、長旅に備えて準備するぞ〜ガキ共」


 クンラートの言葉に現実に引き戻され、街の大通りへと四人で戻った。

三章始まりです。お読みいただきありがとうございます。お付き合いいただけると幸いです。

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